12 対価
「それは慈悲か? あんたみたいなのにもあるもんなの」
「そんな優しいものではない。お前たちならどっちかを捕らえていれば、逃げ出すなんてないだろうと思っただけだ」
「ちっ、確かに腐った話だな」
「ほら、弟の治療をしてやろう」
私は近くに転がっていたバルトルトの右手を拾い上げた。
「おい! 何しようって言うんだ!」
「黙ってみていろ」
私はバルトルトの腕の切断面と手の切断面を近くまで寄せた。
「お前は生命力がありそうだ。少し寿命が減るかもしれんが、隻腕で生き続けるよりもいいだろう」
黒槍の石突を彼の額に当てる。
ヴァルハラから黒い影が伸び、バルトルトの右手と右腕を覆い隠す。
一呼吸後、影は彼から離れ槍へと戻った。
そこには傷跡もなく手と腕がつながっている。
「おお! 俺の手がくっついた!」
拳を作ったり広げたりしながらバルトルトがはしゃぐ。
「奇跡かよ……いいのかそんな施しをして、俺たちが逃げ出すかもだぜ?」
「奇跡か……これはそんな代物じゃない。それに心配ないさ」
喜びをあらわにしていたバルトルトだが、突然倒れてしまう。
「おい! バルトルトどうした! 大丈夫か」
「確かに人智は超えた力に違いないが、この力には代償がある。お前の弟の生命力を対価に腕の治療をした。少し寿命が縮んだやもしれんな。だが今は疲れて寝ているだけだろう」
ブルーノは弟の口元に耳を近づけると少し安心したような顔になった。
「お前はこんな弟を連れて逃げるのも、放って逃げるのも無理だ。だから言ったろう。心配ないとな」
「すまねえな、ありがとう」
「詫びの言葉も礼の言葉もまだ早い。それにその腕は私が切り落としたのだぞ」
「それでもだ、命を見逃してくれて元通りにしてくれた。元々は俺が金に目がくらんでこんな依頼を受けちまったのが原因だしな」
「そうか、なら詫びの言葉だけ受け取っておこう」
二人がかりでバルトルトを担ぎ上げ関所に向かった。





