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不死姫  作者: 秋水 終那
第一章 不死の姫と傭兵兄弟
10/99

10 解放

「てめぇ! よくも弟の手を!」

「身内を傷つけた代償が私の命か……」


 ブルーノは勢いよく剣を引き抜く。

 流れ出る場所を見つけ狂喜するように赤が飛び出る。

 深紅に染まりゆく大地に、倒れ伏した。

 意識が遠のく。


「おいバルトルト大丈夫か!」

「いってぇよぉ、ブルーノ兄貴」

「情けない声を出すな! 気をしっかりもて!」


 幾年、幾百年と研鑽は積んできたつもりだった。

 誰にも頼る事も無いように……私一人でも国を守れるようにと。

 誰の犠牲も出さないように皆の笑顔を守れるようにと。

 私が傷付いて泣くものがないようにと……

 しかし、どれだけ鍛錬を積もうとも、いかな研鑽を重ねようとも、私は十七歳の小娘に変わりなかった。


 あぁ、これは呪い。

 結局はこの呪いにしがみ付くしかないのだ。

 私が望み続ける願いのためには呪いに頼らざるを得ないのだ。


「解放しろ、力を貸せ……ヴァルハラ」


 黒槍の名を呼ぶ。忌々しい呪いを呼び起こす。

 扉が……開く音がした。


 黒槍ヴァルハラから影を伸び、私の傷にまとわりつく。

 それは切り離された腕へも伸び、引き寄せる。


「お、おい! なんだよ、何が起こってんだよ」


 可視の呪いを、異形を見てブルーノの反応は正しい。


 影が離れヴァルハラに戻ると腕は繋がり、傷の跡も消え去る。

 胸の傷も最初からそうだったように元通りだ。破れた衣服だけがそこに開いていた風穴の名残だ。


「聞いてねぇぞ! こんな化物なんて聞いてねぇぞ!」


 化物……先の男達にも言われたその言葉だが、今は意味合いが違う。

 比喩ではなくそのままの意味なのだから。


報告いただいたき修正致しました。 2020/07/31

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