この想いだけは、ずっと、
「ちょっと、海斗!足どけてよ!」
「ん~?何のこと?」
そう、いつもそう。海斗は知らんふりをする。もう、嫌になっちゃう!
学年末考査まで、あと二週間くらいの、とある放課後。私は家で勉強したいから、大量の置き勉教科書たちを持って帰ろうと、両手にたくさん抱えて運んでいた。そしたら、私が通ろうとした通路にたまたま海斗がいて、海斗は私に対して体を横に向けているわけだから、本来なら普通に通れるの。でも、あいつ、私が近づいてきたのに気づいて、左足を後ろに上げたわけね。
「ねえ、私今、すっごく重い荷物持ってるの!ほら、見ればわかるでしょ?両手に教科書の山!」
「花じゃなくて残念だったね~。」
「そういう問題じゃないのよ!」
悪知恵も知識も豊富だし、何かと、こう、意地悪してくるんだから。
「ええい、こうなったら強行突破で……!」
「oui, et alors?」
「『だから何?』じゃなあ……ぎゃーー!」
バサバサッ
「あーあ……やっちゃったねえ~。」
「……」
やっぱりね。こうなるよね。まあ、わかってはいたんだけどね。わかってて、やった。だから私にも火があるんだけど、でも仕方ないんだよね。
「まあ、そう怒らない怒らない。手伝ってあげるから。」
「じゃあ、最初からやんなきゃいいでしょ!」
こうなるってこともわかってたから、ついね。
「……まーたあの二人やってるねえ。」
「本当、海斗も海斗だけど、春香も春香だよねえ……。よく飽きないわ。」
ね、そう思うでしょ?これ、中学からだもんね。今、高二だし。というかあと数か月で高三だし。……そんだけ長い間、私たちはこんなふうにイチャコラしているのにさ、
「付き合ってないのにね。」
……そうなんだよね。
**********
私の名前は一ノ瀬春香、十七歳。あいつは轟海斗、同じく十七歳。田舎の、ちょっとした中高一貫校に通う高校生。私とあいつは中学からの付き合いで、ともに中学入試を乗り越えた仲、とは言っても中学で知り合ったんだけど。
まあ、たぶん私の様子からわかる通り、私は海斗のことが好き。でもあいつは私のこと、恋愛的には好きじゃない。……人間的に好かれているかは怪しいけど。あ、でも、由貴(私の心友)が、「本当に嫌っているならそもそも関わらないし、ちょっかい出すわけがない」って言ってたから、大丈夫なのかな?
ああ、恋愛的に好かれていないほうの理由は、中三の時に告ったけどフラれたから。でも、不思議なんだよね。意外とショック受けていなかったの。何でだろうね、変に自信があったのかも。あ、きっと中・高の間はこの人は誰とも付き合わないんだろうって。
まあ、それ、見事に打ち砕かれたけどね!修学旅行の前に、彼女、できたらしい。それも、どうもあいつから告白したんだとか。え、嘘でしょって思ったけど、こっそり教えてくれた、あいつが信頼を寄せる数少ない友人A(プライバシー保護の観点から)は私にとっても信頼できるから、事実なんだよなあ。そのとき、初めて泣いちゃった!単純に彼女が欲しかっただけなのか、それとも本当に、彼女——二見智子のことが好きなのか、わからない。前者だったら嬉しいけど、でも、それなら私に話振ってくれても……断った手前、気まずいか。そもそもあいつは人をからかっていじるのが好きで、反応を楽しむような腹黒さはあるやつではあるけど、だからと言ってそんな、ヒトをワンウェイプラスチックみたいに使うような奴じゃないってわかってるし。やっぱり後者なんだろうね。
「わっ!」
「はえ!?え!?」
「何、『はえ!?』って」
突然海斗が大声出してきたから、びっくりしちゃった。びっくりしすぎて声出たし、しかも変なの。これは私が海斗にちょっかいかけられる要因の一つだと思う。ちょっと反応が面白い(若干計算含むけど)。腹黒さは許して。だって、好きな人には構ってほしいものじゃない?
というかこいつ、腹抱えて笑ってんな。
「何一人で百面相してるの?」
にやにやしやがって、貴方のせいよ!
「べっつにー?なんでもありゃーせん!」
「そ。」
拾い集めるのも終わったから、そういってあいつはふらっと立ち上がって、そのまま教室を出ていった。全く……なんだかんだ優しいよね。拾い集めたやつ、全部私の机に置いてってくれたし。そういうとこが、好き。すっごく好き。ねえ、生殺し?
私の、誰にも打ち明けられない、言ってはいけない、この複雑な恋の螺旋。ねえ、聞いてくれる?