第93話 水タイプのくせに電気タイプ効かないとか相手チーターぞ
「ナナ!」
冬馬がナナの元へ行こうとすると後ろからティアに腕を掴まれた。
「馬鹿!行ってどうする!海獣の泳ぐ速さは異常だ。私達水種族でも追いつくのがやっとなんだ!」
「だからなんだよ!ナナは俺が連れて来たんだ!」
「でも食べられたのは見たろ。助けるのは絶望的だ」
「ああ、闇雲に攻撃すれば中にいる彼女まで攻撃を浴びることになる」
「だったら下がってろ」
冬馬は本来の口調に戻ってるのも気づかない程に焦っていた。
『落ち着いて。バイタルが不安定だよ』
「分かってる。俺ならナナを助けられる」
冬馬が焦るのも無理はない。
この世界に来てからというもの、冬馬が不利になる状況なんて一度もなかったのだ。
例え叶恵が慎也に誘拐されようと、全員が蜥蜴族に誘拐されようと冬馬は冷静に行動出来た。
だが今回は完全に巻き込んだ形であり、相手が野生ということで焦っているだの。
もし救出が遅れればナナは無事ではすまない。
かみ砕かれてはいないため、痛々しい光景にはならないがそれでも早急な救出が求められた。
『本物ロリを助けるのは気が進まないけど。精一杯援護する』
「頼んだ」
冬馬は足に力を入れると海獣を追いかけた。
『海獣はそのまま真っ直ぐにいた所で止まってる。多分消化しようとしてるんだと思う』
「ナナの居場所はどの辺だ」
『丁度こんな感じ』
ホースから怪盗の姿へと戻った冬馬は仮面から映し出される情報を見ていた。
魚の腹にはすっぽりとナナが治まっているのが影で分かった。
ナナの居場所は心臓の真横。心臓を切ろうと刀を振るえばナナの首も一緒に切断されることになるだろう。
「見つけた」
冬馬は足に電極を入れると一気に近づき海獣の背中に刃を突き立てそのまま切り裂いた。
だが硬い鱗に阻まれ傷つけることは出来なかった上に、海獣には気づかれる始末。
それこそが冬馬の狙いだった。
「来い。海獣」
『アイツ某ドーナッツ屋のポンデライオ〇に似てる。またはモン〇ンのロアルド〇ス』
「緊張感ぶち壊すの止めてくれ。こっちは野生児と戦ってんだ」
『がんばえー』
動きが不自由な水中戦は分がかなり悪い。
なんらな相手の土俵ではあるがしかしだ。今現在冬馬には水種族の水中適応があり、自身のゲートも使える状態。
戦い方次第で勝てるほどにコンディションは揃っているのだ。
しかし冬馬には3分という短いリミットがある。
それまでに決着をつけないと勝機は一気に遠くなる。
冬馬が踏み込み一気に距離を縮め口から引き裂こうと刀を立てるがどうしても鱗が硬く止まってしまう。
「もう一回だ」
もう一度冬馬が踏み込み口に刀を差しこんで割こうとするが限界だったらしい。
無音のまま冬馬が持つ刀は折れてしまった。
「結構な切れ味の刀だったんだがな」
残り時間1分30秒。
武器を失った冬馬に出来ることは限られていた。
と思っているなら冬馬には勝てない。
「武器の貯蔵なら王国の武器庫並にあるぞ」
今までであって来た敵全員から武器を巻き上げる冬馬に武器がないなんてことはあり得ない。
時には都市の宝物庫にすら忍び込む冬馬だ。
名剣、名刀なんでもござれ。
冬馬はゲートから新しい刀を取り出すと構えた。
「さて、武器を新調したから行くぞ」
冬馬が突撃を繰り返すが海獣も黙っているわけじゃんない。
身体をウネウネと動かし冬馬の狙いをずらしながら捕食しようと口を開く。
「あぶねっ!かてぇ!切れ味青でも弾かれるとかこのポンデライオ〇どんな肉質してやがる!」
『柔らかいのは口内だから手榴弾でも食べさせれば簡単に狩猟できるけど』
「却下。中にはナナがいるんだぞ」
『あとはお兄ちゃんが中に入ってゲートで戻ってくるか』
「敵意があるのに突っ込んだら骨ごと砕かれる」
『あとは......地道に鱗剥いで体力削るしかないね』
「最初からそのつもりだった」
残り時間45秒。
「一気に決めるぞ。本当は時間が切れてからの方が威力が上がるんだが......一刀流奥義、雷熱!」
電気を放電させながら冬馬は刃を鱗に突き立てるが固く電気も通してはいないようだった。
「硬い上に電気通さないとかマジか」
『水属性で雷効かないとかチートじゃん』
「草タイプ呼んでこい」
「ホース!」
声のした方を見るよりも先に三叉槍が冬馬目掛けて飛んできた。
「それを使え!皮の中に刃が入れば電気が通るかも知れないぞ!」
「気絶したらまた僕らが運んであげるよ」
「頼んだ!しっかし槍なんて扱ったことないぞ」
『そこはアニメキャラの技盗んで行こ。怪盗でしょ?』
「本当に奇怪すぎて化物になってんじゃねぇか。カウンター技で行く」
冬馬は槍の後ろを前に出すと海獣の突進を待った。
海獣は動かなくなった得物を捕食しようと大口を開けて迫るがこれが仇となった。
「ふっ!」
冬馬は槍の後ろで牙を弾くと横へとスライディング。
その勢いのまま三叉の方を突き刺した。
「ギリ入った!あとは......一刀流奥義、雷熱!焦げろ!」
冬馬は身体に残った電気を浴びせた。
「援護する!」「微弱ながらね!」
堅い鱗の内側から流れた電気は多少霧散してしまいものの確実に海獣の意識を奪って行った。
「もう少し」
のたうち回る海獣はそのうち動かなくなった。
「ホース。気絶してる未だ。また動き出したら今度こそ無理だぞ!」
「ああ!分かってる!先に陸に戻って居ろ!」
冬馬は口から入るとすぐに赤い羽根がを見つけることが出来た。
「ナナ......ん?死んでるわけじゃないよな......」
『寝てるよ、そのロリ』
「本当に馬鹿で助かる」
冬馬はゲートを開くと地上に出た。
電気を溜めた後遺症か手足が若干痺れているがわ分かった。
「ナナ。ナナ。起きろ」
「んぅ......あえ?ホース?」
「ああ、おはよう」
「うん。おはよう」
「海獣の中で寝られるってどんな神経してやがる」
「無事だったしいいんじゃない」
本当にナナが馬鹿で良かったと心から感じた冬馬だった。