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第85話 ひ弱少年と気の強い人魚という王道で異色の組み合わせ

「なぜ深海真珠を手に入れようとしているのだ。別に取りに行ったところで凄いとも言われないし誰かの命が救われるわけじゃない。無駄な行為だ」

「強くなるためです。正直、僕1人の力じゃ今いる場所が限度なんです。だから、他の人に力に頼って強い装備を手に入れてそれに見合うだけの力をつけようと思ったんです」

「順序がバラバラだ。見合うだけの力を手に入れてやっと装備できるんだ。今のホースではせいぜい魚の餌になるのがせいぜいだ」

「それでも!強くなりたいんです。誰かを守れるくらいには強く......」


冬馬は拳を握ると俯いた。


「そんな志しでは途中で死ぬぞ」

「そんなのは重々承知......「違う」」

「え......?」

「目指すなら最強。暗殺最強、真紅の暗殺者。肉弾戦最強、宵闇。魔法最強、ルージュ。水中最強、ポセイドン。どれかを目指せ。目標は高くそして大きくだ。そんな誰かを守るなんて小さな目標じゃすぐに到達してしまう」

『1人だけギリシャ神話混ざってるんだけど』


触れてやるな。

ポセイドンがギリシャ神話だけのものだと思ったら大間違い。

同名なんて履いて捨てる程ある。


「到達してしまう?」

「ホースの守りたい者に免じて、私が直々に叩き上げてやる」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、今後の世話はホースがやれ?」

「へ?」


ティアのいきなりの申し出に素の声が出てしまった冬馬だがすぐに誤魔化した。


「世話というのは?」

「勿論、起床から就寝までの世話だ。人魚は陸上では自由に動けないのでな」

「必要なことですか?今まで自分でやってたんじゃ......」

「1人でやるというのも大変なんだ。嫌というなら他を当たれ」

『気をつけろ。こやつお兄ちゃんを食う気だゾ』


こんな黒髪美人に食べられるなら男冥利に尽きるというものだろう。

しかも性的な意味ではなくリアル捕食のことを言ってるんだから恐ろしいね。


「僕を食べる気ですか?」

「っ!誰が食べるか!私は人魚だ!人間は食べん!食べるのは魚だけだ!」

『それはそれで共食いになるのでは?』


魚と人間のハーフが人魚という言い伝え通りなら確かに共食いになってしまう。


「特別だ。私の家に男が入るのは初めてだからな。と言っても陸で生活するための拠点でしかないが。なにしている、早く行くぞ」

「え、あ、はい!」


冬馬が車いすを後ろから押すとゆっくりと動いていく。


カリブギルドを出る頃には日が沈み、すっかり暗くなっていた。

徒歩10分の家。

家と言っても半分は水中に沈んでいる円形状の水種族仕様。


「ふぅー。陸というのは重力があって肩が凝るな」

「ちょっと!」


ティアは来ていたローブを脱ぎ捨てると水の中へと飛び込んだ。


「なんだ。顔なんて隠して」

「なんでいきなり脱ぐんですか!男がいるんですから躊躇してくださいよ!」

「ん?ホースは風呂に入るときに脱がないのか?」

「脱ぎますけど!そうじゃなくて!」

「気にするな。人魚は裸が普通なんだ」


ローブに隠れた巨大なメロンが水に沈んでいる。


「それに、ホースが男だして襲ってきてもそのまま深海に連れて行けば私の勝ちだからな」

「それはそうですけど......僕はどこで寝れば?」

「水に浮かべばいいさ。ここは波もないし安全だぞ」

「水中で寝られるほど器用じゃないです」


水中で寝るということは陸で生きる生物にとって死を意味する。

水中でも呼吸ができる水種族とは違うのだ。


「寝床の確保は後にして、まずは夕飯だな」

「お世話ということは......」

「ホースが調理するんだ。私は生のまま魚は食えるがホースは無理だろう?」

「そうですね」

「なら自分で調理するんだ」


魚を生で食べられるということは人間と消化器官が違うのか酵素が違うのか。

常識が違うと会話にはズレが生じる。

この世界のひ弱少年を演じる冬馬としてはやりにくい。


「キッチンお借りします」


冬馬がキッチンに行くと問題発生。

この世界のコンロはガスだとか電気だとかそんな最先端なものじゃない。

いや、もしかしたらこちらの方が数段進んでいるのではないかという魔力コンロ。

魔力を流すことにより点火から調整までを行うハイテクコンロ。

だがこのコンロにも弱点がある。

魔力を流せば火がつくため氷しか使えない公爵も使えはするが点火している間は魔力を消費する。

魔力量が少ない冬馬にとって致命的であり最大の障壁だった。


『どうするの?』

「ここで魔力を消費するわけにはいかないからな。頼るしかない」


冬馬がキッチンから出るとティアは魚の腹を食い破るところだった。


「ん。どうした」

「実はですね。僕、生まれつき魔力が少なくて魔力コンロが使えないんです」

「魔力が少ないとはまた不便な。どれくらいなら使えるんだ」

「えっと。火の玉1つが限度です」

「それなら使えないな。魔力は私が流そう。それで出来るな?」

「はい」


ティアは潜り冬馬はキッチンへど移動した。

ボッ!と火が付くと鉄板に乗っかった魚がパチパチと音を立てて焼ける音が聞こえてくる。


魚を見守る横では涎を垂らすティアの姿が。


「僕の魚ですからね」

「分かっている!そこまで食意地は張ってない!」

「なら涎拭いて目線を外したらどうです?」

「焼くとぷりぷり感は減るが匂いがなんとも違うな」

「それはそうですよ。じゃなきゃ魚を食べようなんて思いませんて」

「なぜだ」

「だって態々自由に動けない海に行って魚を捕るんですよ?しかも生では食べられず獲れる量も種類もバラバラで場所も水辺に限られる。効率が悪いじゃないですか」

「だが漁に出る人間がいなければ水種族との出会いは無かったわけだ」

「どういう意味です?」


ティアの含みのある言い方に冬馬は興味を示した。

昔話でもなんでも出会いというのは突然で伏線もなんもないことが多い。

だから面白くもあるのだが。


「水種族と人間の出会いは漁師が人魚を網で採ったのが最初だ。それまで私達人魚は水の上は私達が生きていけない地獄のような場所と言われてきたし人間側は海は怪物の巣食う場所と言われてきたんだ」

「そうなんですね」

「なんだ。知らないのか、おとぎ話でよくあるだろ」

「本の中の話ですか」

「事実だよ。人魚の女王、レイア様がまだ幼少の時と聞かされている」

『レイアとかポセイドンの母親とし語られてるティーターンの十二の神の一柱の名前だよ』


冬馬は地上で神がいただのなんのと騒いでいたことが酷く小さなことだと感じるようになった。

エイミは地球の神話上のどこにも存在しない神だが、ポセイドンもレイアもギリシャ神話に登場する全知全能の力を持つゼウスと肩を並べる又は格上の神である。

ポセイドンもゼウスもオリュンポス十二神の一柱だし、レイアに至ってはティーターンの十二の神という比喩が思いつかないほどに巨大な存在だ。

それを考えると人間を依り代として現界した神など小さな存在だ。


「僕は物語とか読まなかったので。本を読むなら体づくりをと庭を走り回ったりしてました」

「それなのにコレか」


ティアは冬馬の腕を掴むんだ。

女性の手のサイズでも指と指がくっつくほどに細い腕。

少し転んだだけで折れそうな腕にティアは眉をひそめた。


「ま、これから太くなるから今は食べろ。明日から特訓だ」

「わかりました」


夕飯を終え、床に寝袋を広げ冬馬はそこで寝た。

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