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第83話 家を買うだけなのに情報での殴り合いが始まってしまった

王都の不動産屋へ着くと髪を揺らし、女の店員が対応に出てきた。


「いらっしゃいませ。この度はどう言ったご用件でしょうか」

「家が欲しいの。敷地はそこまで広くなくていいし大通りから遠くても構わないわ」

「なぜ王都で買う。今は獣国を旅してるんだぞ」

「最終的にはこっちに戻ってくるわけだし、いいじゃない」


物語に憧れたから家を買うなんて誰が真似できようか。

たとえ出来たとしてもしないほうがいい。もっとマシな理由がありそれに沿った家があるはずだ。


「ご入居なさるのは女性5人でございますか?」

「ええそうね」

「でしたらこちらの物件はいかがでしょうか。冒険者ギルドからは遠くなってしまいますが、静かでいい場所ですよ?お値段も金貨10枚ほどです」

「ならそこに……」

「待て。メア、自分の国の情勢くらい知っておけ」

「どう言うこと」


冬馬が従業員の顔を見ると少しだけ目が動いた。


「この地区周辺はいわば無法地帯だ。静かなのは昼間だけ。夜になれば喧嘩やら酔っ払いがうるさいぞ」


伊達に叶恵を宿に置き去りにして王都中を飛び回っていたわけじゃない。

ただ一度通りかかっただけだが、冬馬は王都の情勢を理解していた。

勿論、それに伴う喧嘩騒動の種もあらかた予想が付いていた。


「不動産屋の特徴でな。最初にオススメされる物件は劣悪であることが多い」

「それは不動産屋さんに失礼なんじゃ……」

「そんなわけあるか。こっちは客だ。その客に劣悪な物件を押し付けていいわけがない。まあ、正直な話、怪しまない客も客だから終わった後に文句は言わないが……道化が客なら渋るのは仕事を増やすだけだと知れ」

「肝に銘じておきます」


冬馬は怪盗であって心理学者でもメンタリストでもない。

よって細々とした嘘を見抜くことは出来ない。ではどうするか。


「ではこちらの物件はいいかがでしょうか。先程より大通り側で入り口を出て外に出ればすぐに広場に行くことが出来ます」

『広場近くなのは本当。だけど入り口に面してる道はほとんど人が通らないし地盤が緩いからいつ家が沈むか分からないよ』

「そこもなしだ。地盤が緩かったはず」


八重の地形データや声音からの嘘発見。

冬馬は相手の目線や仕草から、八重はデータからお互いの得意とすることで相手の嘘を見抜く。

この怪盗兄妹から逃れることは出来ない。

ここから先は耐久レース。


「こちらの物件は......」

「それは敷地は広いが建物自体は狭い」


「ではこちらは」

『立地とか申し分ないけど少し傾いてる。ここも地盤が緩い』


「こちらは......」

「確かここはカルト宗教のアジトだったはずだ」

『地下には儀式用の生贄を集めるための設備が満載』


「......」

「......もうお終いか?道化とやり合いたいなら狐を呼べ。道化を欺けるのは今の所アレだけだ」

「ここまで否定され続けたのは初めてですよ?」

「王都に限っての話だが、道化は飛び回ったのでな。それなりの情報は持っている」


本当は地下への抜け道だとか、空洞だとか、逃走ルートを確保するための調査だ。

調査のためには地盤から地下構造までありとあらゆる情報が必要となった。

結果、不動産屋に負けず劣らずの地理情報を手に入れることになったまで。


「今から出すのはこの店舗で出せる最上級の家です。この物件です」

「ほらまた噓をつく。道化が分からないとでも思ったか」


受付嬢はニコリと微笑むと無言で家の見取り図を冬馬達に見せた。

2階建ての小さな屋敷。


「王城から離れて大通りからも離れてるな」

『この辺りはたしか......あった。孤児院とか公園になってるから平和だし地理的な問題もない。間違いなくいままで一番いい家だよ』

「大分いいな。だが、なぜ安い。決して悪い立地でもないのにこれだけ値段が安いのはなにかしらの問題があるからだろう?」

「問題というほどの物はありません。ただ、大通りから遠く、各門からも遠いという交通の便。孤児院が近くにあるために子供の声が夕方近くまで聞こえます」

「その程度ならいいわよ。あまり贅沢言っても仕方ないし」

「道化が散々否定していた場所でもいいんだぞ。なにがあるか分からんが」

「そこはピエロを信じる」

「相変わらずの至上主義っすよね」


別に冬馬は至上主義なわけではない。

ただ人間の心理として自分に関わるものは良いものであって欲しいと願うのは冬馬に限らずで特別おかしなことではない。

日本で家を探す時に家賃と利便性と間取りを気にするのと同じ。

ただこの世界では法律が整ってないがために情報戦になるだけの話。


「孤児院が近くにあるなら遊びに行きましょう?」

「そうね。偶には子供に触れて癒されたいわ」


「子供ならアシュがいるじゃないか」という言葉を冬馬は飲み込んだ。

本人が笑顔でいるならそれでいいじゃないかと。わざわざ不機嫌にすることもない。


「では、ご案内します」


受付嬢に連れられて来たのは大通りから大幅に外れた居住地区。

夕方近くということもあり不気味な程静かだった。


「この物件になります」


受付嬢が鍵を開け屋敷の内装が明らかになる。

外から見た時よりかなり広く感じる玄関に上を見上げればシャンデリアのようなランプ群が吊るされている。

2階への階段は玄関入ってすぐの階段を上がればいけるようでそのせいか天井は広く感じる。


「広いわね」

「この広さがさっきの敷地に治まってるんですか?」

「いえ、ここは元々貴族様の別荘として建設されました。そのため腕よりの魔法使いの方に特殊な魔法をかけてもらったとお聞きしました」

「なるほど。わざわざ狭い敷地に別荘を建て別荘に特殊な魔法を使うのか.....金持ちの考えはわからん」

「この広さが別荘なんすね......規格外過ぎて自分には分からないっすよ」


「満足いただけましたでしょうか」

「ああ、最初から出せばあんな押し問答を繰り返さずに済んだなのに」

「我々も死活問題なんです。売られる物件全てが好条件とはいかず整備や掃除だけでも骨が折れます。カルト宗教のアジトなどは死体の処理が大変だったんですよ?」

「そんな家を客に売ろうとしてることに驚きだわ」

「仕方ないだろう。さっきも言ったように、整備や維持だけでも金がかかるのに結果として残るのは劣悪な物件のみ。それなら、家をよりよく知って適切に維持できるであろう客に好条件の物件を回すのは当然だ。働かない兵士よりよく働く兵士を優遇したくなるだろ。それと同じだ」


法律が整ってないのは物件を買う時だけではない。

魔法という概念が存在し人間以外の亜人がいるこの世界ではこれが当たり前。

もしハズレを引きたくないのであれば、情報を集めガチガチに装備してから挑むべしという教訓を学べる場所だ。

だが大概ハズレを引くのはそこまで頭が回らない馬鹿だから本当に意味があるかは分からない。

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