第81話 人を励ますのってめっちゃ大変だよね
船を砲弾で沈ませて冬馬は馬車がある場所に戻って来た。
「......一応途中までは見てたけどさ、その血、早急に流して」
「ピエロ。グロイ」
「やりすぎではないですか?全滅ですけど」
「僕も止めたんだけどね。聞かなかったよ」
「ご主人......お面までべったりじゃないっすか......」
「道化の駒を盗ったんだ、全滅は必須だっただろうに」
赤黒くべったりとした外套をゲートにいれると新しい外套を羽織った。
「ピエロの面は洗うとしよう」
「しばらく素顔解禁ね」
「不自由はない。むしろ視界が確保できていい」
「ならいつも外して置けばいいんじゃないっすか?」
「それは出来ないんだ」
なぜなら八重から送られてくる画像や情報は全て面を通さないと見えないから。
ピエロ面の目の部分に取り付けたレンズを通さないと情報などが視認できない。
「さて、僕は孤児院に行かないといけないから送って貰っていいかい?」
「ああ、また用があればそちらに出向こう」
「お手柔らかに。それじゃあメア。元気でね」
多少の血を浴びながらも爽やかさがあるのだから不思議なものである。
「旅を続けるぞ」
馬車に乗り込み街道を馬車が歩く。
『爽快だったね』
「あんなに暴れたのは風都以来か。動くというのは楽しいものだ」
『魔法とか剣術とか使えればもっと良かった』
「無茶を言うな。道化は剣士でもなければ賢者でもないんだ」
『外套が黒いから黒の剣士いけるよ』
片手剣と言えど剣を二本振り回すこと事態頭おかしいからな。
それならどこぞの人斬り抜刀斎のように一本で戦った方が武器の消耗的にも体力的にも優しい。
「あれはスキルあっての二刀流だから。現実じゃ出来たもんじゃない」
『魔法で強化すれば二刀流イケるかもよ?』
「仮にイケたとしてもどこで使うんだ。青眼の悪魔でも探しに行くのか?」
『よし目的を変更!』
「しない」
強化して二刀流が実現できても使う日は来ないだろう。
冬馬は正面切ってぶつかり合う剣士ではなく、相手を騙し陥れる怪盗なのだから。
「そういうのは本物の黒の剣士に頼んでくれ」
『ケチ』
「ピエロ」
「なんだ」
冬馬と八重の談笑を遮ったのは叶恵だった。
冬馬は屋根から飛び降り馬車の後ろに飛び乗った。
「ピエロ。さっきの蜥蜴たちは私を狙ったものなのでしょうか?」
「知らん。船でなにか言ってなかったか」
「確かに言ってましたけど『急げ』とか『逃げろ』とかそういうのばかりで情報と呼べるものはなにも......」
叶恵は暗い顔をして俯いた。
「なにをそんなに落ち込んでいる」
「私のせいで旅の予定が遅れピエロの外套も汚れてしまいました。私が不用意に気絶している人に近づかなければ......」
「言って置くが、蜥蜴共は叶恵の神の力を狙ったわけじゃない。女を狙ったにすぎない」
「でもピエロは攫われませんでしたよね?」
「アシュが身代わりになったからだ。もし叶恵が目当てならば最初に叶恵を捕まえた時点で船に引き上げ逃げてもよかった。でも船が見えても粘って女を手に入れようとした。それが現時点での情報で出せる仮説だ」
もしかしたら神の力を狙っていたのかもしれないが全滅してしまった以上聞くことは出来ないし、冬馬がそばにいるのだからもう少し使える奴を送り込んでくるはずだ。
神の存在は見抜けて冬馬の正体を見抜けぬ馬鹿には到底叶恵は手に入らないだろう。
「もし襲撃されて迷惑をかけたというのならそれはお門違いというもの。あのまま素通り出来るものでもなかったしなにより、なにより、道化は暴れられて楽しかった」
「そうよ。叶恵が気負いする必要はないの。どうせ情報を集めるための旅だもの」
「少しくらい遅れても大丈夫な旅」
「ゆっくりしましょう?あんなことがあったばかりですし」
なんと素晴らしい支え合いの精神。
1人が病みかけても他の3人が支えるという構図。
「そもそもだ、自分が神だからと言って気負いするな。叶恵が神の責任を感じるなど片腹どころか腹筋痛いぞ。羊大好きな大食い女が」
「なっ!今それ言う必要ないじゃないですか!」
「事実だろ」
叶恵が顔を押さえるとシープが主人を守ろうと冬馬を威嚇。
「グルルルル」
「なんだジンギスカンにでもなりたいのか?神獣と言えど容赦はしないぞ」
「シープは私の大切な眷属なんです!手出しはさせません!」
「そうか。なら大事に抱えて置け。道化の首を狙うようならば容赦なく肉塊と化すぞ」
言い終えると冬馬は馬車の屋根の上に戻った。
『不器用すぎて草』
「やかましい。慰めるつもりなんて最初からない」
『ほんとかな~。珍しく言葉選びが慎重だったけど』
「それはジョーカーの主観だろう?道化からすれば言いたいことを言っただけ。実際に神としての責任が~とか自分が神だから~とか叶恵が言ってみろ。バカバカしいだろ。ついこの間まで好きな時間に起きて好きなもの食べて寝るだけだった奴がだ」
ある日急に友人が『俺、神になったわ......世界を救わなきゃ......』とか言い出したら誰だって笑うだろう。
それと同じだ。
エイミという静寂と慈愛の神を必要としていないのならわざわざ仕事を探す必要もない。
大人しく旅を楽しんでいればいいのである。