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第80話 「土産だ。それを国に戻って見せるといい。道化の駒に手を出すとこうなるぞというなによりの証拠だ」

『屋敷の自室で筋トレしてる』

「ブレないな」


冬馬が屋敷の中を突き進み、部屋の前に来ると扉を蹴破った。


「どうしたんだい」

「招集しに来た」

「今度はどうしたんだい」

「メアが攫われた」


冬馬が言うとオスカーは溜息をついた。


「僕から奪って置いて奪われるのかい」

「相手は蜥蜴族。姿が見えないから道化だけ撤退してきた。メア達の居場所も把握している」

「それなら。行こうか。場所は」

「獣国の街道上で襲撃、今は海の上だ」

「どうやって行くんだい?船で近づくのかい?」

「補助魔法は使えるか」

「一応だけど、君の所の魔族の子より精度は悪いよ」

「それでも一発でいい。説明は現地についてからだ」


オスカー宅に来てからわずか10分で冬馬は襲われた現場に帰って来た。


「ここが獣国か。で、メア達はどこに?」

「ここから真っ直ぐ行ったところで止まっている」

「それで、僕はなにをすればいいのかな?」

「こいつに魔法付与だ。魔封じのな」

「これでいいのかい?」

「ああ」


冬馬が発砲するとさっきと同じ場所からヒビが入りバリン!と音を立てて割れた。


「なるほど蜥蜴族ね」

「この海自体が幻影。カモフラージュなんだよ」

「で、どうやって船まで行くんだい?相手は動き出しているようだけど」

「自分の脚でだ。氷の使い手さんよ」

「無茶言うね。船につく頃には魔力は空になってしまうよ」

「そこは道化がなんとかする。ここで話していても距離を開けられるだけだ」

「君といるとホント退屈しないよ」


オスカーは大剣を担ぎ、冬馬は足の電極にスイッチを入れた。


「行くぞ」

「はいよ」


海に走り出す公爵と怪盗。

海の上をまるで地面を走っているかのように疾走しかたや海に氷を張りその上を疾走するという常人離れ

した荒業。

少しでも魔力調整をミスれば人食い魚のいる海に飛び込むことになる。


「もう少しだけど......そろそろ魔力が限界だよ」

「それなら魔力を贈呈しよう」


オスカーをゲートにくぐらせると青くなっていたオスカーの顔色がみるみる回復した。


「凄い純度の魔力。いったいどこから?」

「風都に行った時にエルフと鳥人族の魔力を奪ったまで。道化には使えないからオスカーが使うといい」

「これなら、イケそうだよ」


海の上を疾駆する2人の存在は当然船の上からでも確認が出来ている。


「ヤバイ!ヤバイ!追ッテ来テル!」「慌テルナ!コッチニハ人質ガイル!」

「来たみたい」

「遅いじゃない」


後ろで拘束された叶恵達は帆にくくりつけられていた。

目下では蜥蜴族が2人の接近に焦り慌ただしく動いている。


「守備隊!撃テ!」「アイアイサ!」


甲板にある大砲に弾が込められ次々と発射されていく。

が、大砲や魔法など飛翔物を冬馬にぶつけたらどうなるか。


「ウワ!ナンダ!」「船ガ!揺レテイル!」「掴マレ!落チルゾ!」


船近くに着水した砲弾は波を起こし船を揺らす。

固定された叶恵達が落ちることはないが自由に動く蜥蜴族が落ちない保証などどこにもない。


「侵入サレタ!」「排除!排除!」「八ツ裂キダ!」

「やかましいぞ。蜥蜴共が!過去に道化の駒に手を出そうとした者がいた。それの末路を知っているか」

「知ラン!死ネ!」


槍を振るった蜥蜴族の心臓を見事に槍が貫いていた。


「1人は塵となり、1人は海の藻屑となった。そして、今1人追加され心臓を串刺しだ」

「僕はどうすればいいんだい」

「怒りをぶつけたらいいんじゃないか。メア達は上にいる。上にさえ攻撃しなければ当たりはしない」

「分かったよ」

「タダノ人間ガ調子ニ乗ルナ!」

「僕の婚約者を誘拐した罪はなによりも重い。本来なら怪盗にぶつけるべきものだが、攻撃が通じないのでは仕方ない。八つ当たりだ」


盾を構え突貫してきたがオスカーの大剣により真一文字に斬られてしまった。

蜥蜴の尻尾はそのままにしておくと普通に生えてくる。

それは人型の蜥蜴族でも例外ではなく、心臓さえ潰されなければそのうちに再生する。

魔法を使えばものの10分で動けるようになる。


「ナ!生エナイ!」

「当たり前だろう?心臓を潰さない代わりに氷漬けになってもらうよ」

「次に死ぬ馬鹿は誰だ。飛び降りるなら見逃してもいいぞ」


揺れる船の上、岸からは大分距離があり泳いだとしても途中に人食い魚に食べられる可能性が高い。

背中合わせに立つ冬馬とオスカーに蜥蜴族は囲みこそすれど動けないでいた。

遠距離で攻撃すれば冬馬によって返され、近接で近づけばオスカーによって両断される。


「動かないならばこちらから行こう」


冬馬が動くと回避のために蜥蜴族は動く。だがそれが逆効果。

次々と刎ねられていく蜥蜴族の首。

肉眼で見えるかどうかのギリギリの細さと鋭さ。太陽に照らされてキラリと光るなにかが周りに無数に張られていた。


「そいつはピアノ線と言ってな。力加減次第で首すらも斬れる優れものだ」


辺りにピアノ線が張られてしまえば透明化しても意味はない。

船の上に冬馬が降り立った時点で張られていたピアノ線はその時点で蜥蜴族の敗北を知らせていた。


「二度としないというのなら見逃してもいいよ。僕は」


オスカーがチラリと冬馬を見るが笑顔のピエロ面があるだけ。

だが笑顔のピエロとは真逆に冬馬の声は酷く冷たかった。


「見逃すわけはない。全員死んでもらう。道化に殺されたくないというならば海にでも逃げるがいい。死体を捨てたから今頃肉食魚たちが集まっているころ合いだろう」


冬馬がいい終わる頃には蜥蜴族の戦意は完全に削がれ武器を持つ手にはほとんど握力が入っていなかった。

その蜥蜴族の首を刀で切り落としていく。


「善人。心が痛むならメア達を下ろす準備をしていてもいいぞ。というかそうしろ、邪魔だ」

「了解。下ろすためのクランクはどこにあるのかな?」


1人の蜥蜴族をオスカーが連れて行くと残りは冬馬によって殺された。

ワイヤーで首を切り、勢いそのまま胴体ごと心臓を真っ二つに切り裂く。

心臓を潰さないと死なない蜥蜴族からすれば冬馬の戦い方は残虐非道そのもの。

一撃で心臓を狙えるのにわざと外し苦痛を味合わせてから殺すというもの。


「君、真紅の暗殺者にでもなりたいのか?」

「そう見えるか」

「ああ、返り血が酷いよ」

「こんなに浴びたのは初めてだ」


黒い外套は返り血でべったりと汚れており到底それで街中を歩けたものじゃない。

今の冬馬がイタリアのトマト祭りの帰りと言ったら誰でも信じるだろう。

それくらい赤く染まっていた。


「そこの蜥蜴族。道化の顔と貴様らが攫った女の顔をよく覚えて置け。そして仲間にも伝えろ。『怪盗ピエロの駒を盗むと死ぬ』とな。これはその証拠だ」


冬馬がゲートから出したのは蜥蜴族の首。先ほど刎ねられたためまだほんのり温かい。


「土産だ。それを国に戻って見せるといい。道化のものに手を出すとこうなるぞというなによりの証拠だ」


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