第78話 百合の前では世界大戦など幼稚園児の喧嘩くらい可愛らしいもの
王都に戻った冬馬はつくなりそうそう、メアに壁際に押さえつけられた。
「今ピエロが持つ情報を全て開示しなさい」
「断る」
「女王の命令よ」
「道化にそんなものが通じるとでも思っているのか?」
「いいから!さっきみたいにいきなり情報を出されても混乱するから!」
壁に両手をつき見上げるメア。
美少女に壁ドンされるとか今のラブコメでもなかなかない展開。
「ピエロ、僕からもお願い。僕たちに関する情報だけでいいから」
「ふむ......といっても叶恵以外は至って普通。今まで通りだ」
「あのピエロ?私が神様というのは本当なんですか?」
「正確には依り代として現界しているに過ぎない。が性能は馬鹿げている」
見た目は人間でありながら魔族より格上の魔力量と質を持ち、エルフより効率のいい回復の魔法が使える。
放つ魔法は世界滅亡規模。叶恵1人いれば核兵器なんていらない状態。魔力が続く限り魔法を放つことが出来る。
「ご主人はいつから気づいていたんっすか?」
「最初からだ」
「最初って?」
「王都から南に少し行った所に森があるだろう。道化たちはそこからここに来た」
「じゃあ僕と会う前にはもう分かってたんだ」
「正確な神名や神性は割り出せなかったが神ということは分かった」
もし本人に神の自覚があり隠すように意識していたら冬馬にも分からなかっただろう。
だが叶恵は今まで普通の人間として過ごして来た。
神の自覚なんてないしまだ信じられないのか当の本人は半ば放心状態。
「ま、叶恵はほとんど戦闘には参加してなかったからな。分からないのも無理はない」
「もう少し戦ってたら魔力からでる気配で分かったかもしれない」
アシュはいつでも冷静で頼りになる。
ってわけでもないようだ。
『そのロリも結構動揺してるよ』
「だろうな」
目が泳いでるし。
「さっきも言ったが、今まで通り接すればいい。神だろうと悪魔だろうと道化の前では等しく駒だ。駒同士に上下関係はない。それを忘れるな」
「叶恵はそれでいいの?神よ?崇拝されて一生働かなくても暮らすことだって可能なのよ?」
「それは......魅力的ではありますけど神と分かった今、ピエロから離れるのは返って危険な気がするんです」
「ご主人についていくってことですか?」
「はい。私はピエロの駒なので」
「駒としての自覚が出てきて結構。道化の駒である限り、安全は保障しよう」
神として魔族より上の魔力を操る叶恵と結界魔法という世界規模の魔法へ昇華させることが出来る冬馬が手を組めば2人で世界を滅ぼすことだって出来るのだ。
叶恵が適当に撃った魔法を冬馬は主要部への誘導と、最強のタッグが完成する。
「では、これより神エイミもとい叶恵は道化と行動を共にする。異論がある奴はいるか」
「異論があったとして、素直に受け入れるの?」
「いや。無視する」
「意味ない」
「素直に聞くって言ったら病気を疑いますけどね」
『すっかり魔王が板についてきたじゃん』
「道化は魔王ではない。道化は怪盗だ」
魔王などという可愛い嫁と結婚したり転生して一般人に紛れ込んだりと忙しくなりたくはない。
怪盗として自由気ままに欲しいものを求める方が性に合っている。
「それじゃあ。改めてよろしくね。叶恵」
「はい、よろしくお願いします」
美少女同士の友情とはなんと素晴らしいことか。
今この映像を全世界の紛争地で中継すれば戦争なんてなくなるのではないだろうか。
『変態』
「なんとでも言え。百合の前では世界大戦なんて幼稚園児の喧嘩と同列だ」
『うわー。実際に世界大戦なんて余裕で止められるから反応に困る』
「そういうことだ」
『次はなにするの?今の所欲しい宝もないんでしょ?』
「そうだな......獣国を観光しながら目的は決める。神の宝があるならばぜひとも手に入れたいからな」
『その情報いる?一応王国の書庫からそれらしき文献はピックアップしてあるけど』
「流石は道化の相棒だ。仕事が速い」
冬馬は叶恵達に向き直ると目的を伝えた。
「次の目的地は獣国王都に向かう。情報が欲しいのでな」
「いいけど、また問題起こさないでよ」
「またとはなんだ。またとは」
「王国の女王を攫っておいて自覚ない?」
「慣れって怖いっすね」
日本で『宝』を盗み続けた冬馬の感覚はとうの昔に麻痺している。
勿論、女王などの人を盗むのは初めてのことであるがそれでも『宝』であれば今までと変わらない。
相手が神だろうと悪魔だろうと『宝』を持っているなら盗むのみ。
それが、怪盗ピエロである。