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第76話  特訓の成果とこれから始まる地獄

『よしじゃあ地獄へ行こう』

「正直気が進まない」


誰しも料理が下手と分かっている人の料理は食べたくないだろう。

某剛田のように逆らえないほどの圧力があるならまだしも冬馬は自ら行かなければならない。

なんたる理不尽。


「限界まで時間を潰す」


夜に立ち寄れば食べるのは一食で済む。

今行けば昼も夜も食べることになる。マズ飯を食べるのは一食で十分だ。

だがそんなことは許さないと鳴り響くはトランシーバーの声。


『ピエロ?ちょっと王国のアマゾネさんの食堂まで来てください』

「今忙しい」

『ちょっとでいいので』

『来ないとメアが駄々こねる』

『だからこねないって!』

「分かった。行こう」


女王の駄々が面倒なことくらい旅をしていれば嫌というほど分かる。


『いってらっしゃい。女を仲間にするとこういうことが起こるんだよ』

「そのクソみたいなジンクスはどうにかならんのか」


特大のため息をつきながらゲートを潜った。

ゲートを出た瞬間に目に入ったのは地面に倒れ伏す王国騎士団の姿だった。


「おい、大丈夫か」

「き、気を付けろ。陛下の料理は『へいき』だ」

「なん……だと……!」

「ほら言ったでしょ?『へいき』だって」


おそらく字が違うであろう。

兵器と平気では大分差がある。それが料理など本来兵器ではない物なら尚更。


「逃げずによく気たわね」

「駄々をこねられても困るからな」

「それじゃあ、食べて?」

「メアをか?」


キーン!

嘘です冗談だからハウリングを止めてください。


「食べても大丈夫なんだろうな」

「大丈夫よ、騎士団にも同じ物を出したけど生きてるでしょ?」


食当たりのことを聞いたんだがまさか生死まで関わるとは。

しかも本人が自覚して出してくる所が図々しい。

見た目は日本でいう生姜焼きのような主菜タイプ。見た目も匂いも申し分ない程にいい物だが問題は味である。

毒物は入っていないと八重からの情報はあるが正確な味は教えて貰えない。

食べてからのお楽しみだと言う。


「もし不味かったら吐き出すからな」

「どうぞ。因みにこれ、アタシとアシュの合作だから」

「肉焼きは僕が。タレとかの味付けはメアがやった」

「ほう。分担か。なるほど、効率的だ」


魔力コンロは制御が得意な魔族が。味覚などの感覚は人間のメアが担当したと。

確かに、王国は魔族が少なく魔族向けの味付けは好まれない。味覚に大差はないが多少の誤差もなくしたといった分担方法。


一口。冬馬が口に運ぶと果物の香りが口の中に広がり、その次に肉本来の香りが鼻を突き抜けた。

端的に言って美味い。

店で出されても違和感がないレベル。


「美味いな。タレに果物を使ってたり果物のあとに肉の香ばしいさを出す焼き方もいい」

「ピエロが手放しで褒めるなんて……」

「珍しいっすよね。ご主人が素直に褒めるなんて」

「それはどう言う意味だパル。道化だって良いものは良いと言うし、悪いものは問答無用で排除する。道化のスタンスはかわっていないぞ」

「い、いや今のは戯言なのでお気になさらず……あはは……」

「美味しいでしょ。試行錯誤して考えたんだから」

「頑張ったよ」


正直食べられればマシな方だと思っていたがこれは良い方向に予想外。


「王都にわざわざ帰った理由がコレか?」

「そうですよ。料理の練習もこの世界では重要なスキルですから」

「まだ数品作れる程度っすけど……」

「なんでわざわざ料理なんて……今まで一言も言わなかっただろ」

「それはご主人に……モゴモゴ!」

「なんでもないから!ピエロはちゃんと最後まで食べて」

「ああ。分かった」


冬馬は箸を進めた。


『鈍感主人公を演じる気分はどう?』

「これを天然でやるって正気じゃねぇな。って思った」

『それを物語の主人公はやってるんだよ。とんでもないよ』

「そうだな。まここまでしなくてもどっかで気付くタイミングはあるだろうからな。恐ろしい」


相手が本気で隠すきでいれば分からないのも無理ないが、顔を赤らめて告白紛いのことをされて分からないのは正直言っておかしい。

脳味噌医者に見てもらった方が社会不適合者の烙印を押されずに済むと言うもの。


『現実世界でやれば。鈍感主人公ごっこ』

「ただただ相手をイラつかせるだけだろ。相手によってはビンタじゃ済まないぞ。グーパンが飛んできても文句は言えない」


「それじゃあ、次は私達のを食べてください」

「連続主菜は無理だぞ」

「その辺は大丈夫っす。食後のデザートとして作ったので」


そう言って出されたのはカップに乗ったアイス。

アイスの見た目は白くバニラアイスのような印象を受けるが微かにだがコーヒーの匂いも感じ取れる。


「あのご主人?警戒するのはわかるんすけど食べないと溶けちゃうすよ?」

「……ああ」


冬馬がスプーンで一口すくって口に運んだ瞬間、コーヒーのほろ苦さとアイスの甘さが口の中を支配する。

バニラの甘さかと思ったがやたらに甘いということはなく優しい甘さだった。


「なにを使った」

「普通に牛乳とお砂糖ですよ。あ、でも少しだけコーヒー豆を擦り潰して混ぜてます」

「叶恵さんがカプチーノ味と言ってましたけど、自分にはなんか難しい味で調整が大変でした」


おそらく味の考案とアイス部分は叶恵が、味の細かい調整は器用なパルがやったんだろう。

この二人あってのこの味なんだろう。


「こっちも美味い。男も女も好くような味だろう」

「そのおかげでここ最近客足が増えたよ」

「そいつは良かった。道化の駒がいきなり押しかけてすまないな」

「いいよ。客もあたしの味に飽きてるだろうからね。たまにはドデカイスパイスが必要なのさ」


そのスパイスが効きすぎたのがここの兵士だと。


「ビルマ。なにをそんなに怯えている。至って美味いじゃないか」

「お前……毎食ここで食べるんだぞ。陛下がここで料理をお作りになってからずっとだ!この気持ちが貴様に分かるか!」


不味かったんだな。でも主君の料理を不味いといって残せるわけもなく無理やり腹に押し込んだと。


「ご苦労だったな。でもよかったじゃないか。忠誠を誓う主君の手料理が食べられるんだぞ。前騎士団長はリーネの手料理なんて食べたことないだろう」

「それは……そうだろうが……それとこれとは話が別だ!なぜ陛下に料理などさせた!」

「本人がやりたいと言い出したんだ。それを道化が止める権利はない」

「陛下を誘拐した責任はしっかりとれ!本来なら打ち首なんだぞ!」

「あ、腕切り落とした兵士は無事だったかね。道化に刃など向けるからああなるのだ」

「そうだったな……貴様に処刑は通じなかったな……」


刃でも魔法でも殺せない相手を殺せると思うほどビルマの経験は浅くない。


「これで毎食美味い飯が食べれていいじゃないか」

「そ、そうだな」


ビルマ達騎士団はまだ本当の地獄を知らない。

ここから冬馬に出すための練習台として使われる地獄を。

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