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第75話  騒音と惰眠の神=静寂と慈愛の神

誰もいない獣国の宿屋で冬馬は目を覚ました。


「誰もいないとこんなにも熟睡できるのか」

『帰って来たら八重が一緒に寝てあげるから』

「人の話を聞け。俺は1人で寝たいんだ」


冬馬も20歳の成人である。

高校生の頃とは違って体も衰えてきている中、仕事から帰ってきて家に引きこもっている妹の相手をするのは骨が折れる。


「さあて、目が覚めた所でクソ親父を殴りに行きますか」

『おー』

ゲートを開き、応接室に出ると狐面の慎也が朝の体操をしている所だった。


「おお冬馬。どうした」

「転生して若返ったのにもうガタが来てるのか」

「若返ったつっても40代から20代になっただけだ。それにメアが生まれて16年。元の世界の年齢に近くなっちまったよ若い頃にやんちゃしまくったせいでこの通り、朝体操しないと体が動かんでな」

「やんちゃねー。エルフの姫を攫ったのもそのやんちゃなのか?」


笑顔の冬馬に対し引きつった笑いに冷や汗を流す慎也。

体操の姿勢から逃走の姿勢へと急転換。


「逃がすか」


お互いに怪盗として活動しお互いにゲートが使え。親子という関係。

考えることは一緒なのだ。


「なんでここまでついてこれる!?ここはリーネとのデートスポットなんだぞ!」

「王都の書庫にはリーネの日記もあってな。読ませてもらった。親父を逃がさないために王城に記録された場所全て行った。自己強化なしだと結構かかったぞ」

「一度自分で行ったことがないといけないゲート。冬馬はここにはたどり着けなかっただろう!ここならどうだ!」


慎也が自信満々に移動した場所。

恐らく王城の記録にもリーネの日記にもない場所。そして、冬馬がいけなかった場所。

風都のエルフの城だ。


『お父さんは風都にいるよ』

「了解だ。すぐに向かう」


ゲートを出し風都に飛んで出て来た先はエルフの街の外。そこから先は敵陣であり、後ろに下がれば鳥人族のテリトリー。

ならば父親の顔をぶん殴るために前に進むのみ。


「止まれ!不審者よ!」

「悪いな。道化は急いでいる」

「貴様!っく!」


気づいた時にはもう遅い。麻酔針が睡魔を襲う。

魔法の類ではない物理的な麻酔はどんだけ魔法抵抗力を持とうと関係ない。

門番を眠らせた冬馬は足の電極にスイッチを入れエルフの街中を駆け抜けた。


「貴様!まだ懲りないのか!姫はどうした!」

「姫の居場所を知っている者を追っている。今は王城の中だ」

「なにを寝ぼけたことを!姫を返せ!」

「今お前と遊んでいる暇はない」


外套の袖から出てくる針を騎士は間一髪で避けると地面へと着地し風を纏い冬馬を追った。


『お父さんの他にもう2人いる。黄色だから中立だけど敵対するかもしれないから気を付けて』

「了解」

「待て!王城には近づけさせない!」


王城まであと一歩と行った所でエルフの騎士団が壁となって立ちはだかった。


「もう一度だけ忠告してやる。お前たちと遊んでる時間はない」

「こちらももう一度だけ言う!男は帰れ!今すぐ帰れ!脅しても無駄だからな!」

「ならば仕方ない」


冬馬はゲートを出すと1つのゲートから弾丸を射出した。


「しっかり防御しないと死ぬぞ!」

「卑怯だぞ!」

「目に見えない魔法使って置いてなにを言う。こちらのはしっかり見えるし感触もある。それ故に激痛を伴うがな」


騎士団の壁の一部から苦痛の声が聞こえ動揺した周囲一帯が被弾した。


『今しかないよ。エルフは回復も得意だから』

「分かってる」


電極の効果が切れた冬馬のスピードなんてスポーツ選手の走りと変わらない。

冬馬の現代的な戦い方にエルフの騎士団は翻弄された。

今まで魔法しか使ってこなかった連中だ。魔法が通じない相手なんて久しくしたことがない。

唯一。魔法が通じなかったのは規格外の魔力と時空魔法でエルフを翻弄し姫を攫った怪盗ピエロだけだった。


『真正面から入って一番上』

「なら入るより外から入った方が都合がいい」


外壁を登り窓を突き破って冬馬が見た物は天使だった。

勿論比喩であるが、天使と言って差し支えないほどの白髪の美少女だった。

白髪のストレートが風に揺れるとキラキラと輝き紫紺の瞳は楽しいものでも見るように輝いていた。


冬馬のパーティの誰とも被らず誰よりも静かで大人しい。

メアは冬馬と会うなり死ぬだの殺せだのうるさかったが目の前の少女は首を少し冬馬の方へと動かすと静かにほほ笑んだ。

全く知らない侵入者に対してだ。


「どうだ冬馬。可愛いだろ?盗みたくなるだろ?」

「なる」

「「痛った!」」


2人の怪盗の耳に極大のダメージ。


『変態親子。殺すぞ』

「冬馬?お父さんが知らない間に八重が凶暴になってるんだけどおおおお!痛い痛い!」

「自業自得だ。なんでここに逃げた」

「ルージュを探していたんだろう?じゃなきゃお父さんの所には来ないだろ。攫った姫はルージュとリーネだけだし」

「よし。ご苦労だった。あの世でゆっくり休め」

「ちょいちょい!女王陛下の御前だぞ!銃はしまえ!」


目の前で物騒なやりとりが行われても顔色1つ変えず冬馬に微笑み続けた。


「反応がないとこんなにやりづらいのか」

「分かるぞ。その気持ち。お父さんもはじめは首をかしげるだけで一言も発さなかったからな。おろおろした」

「怪盗さん」


冬馬の耳に入った声はまるで鈴の音のように小さく澄んでいた。


「怪盗さん。お久しぶりです」

「いや、初めましてのはずだ」

「お久しぶりです」

「冬馬。お前ピエロの面してるからだぞ。彼女は完全記憶能力者だ。数十年前の出来ごとだろうと覚えてる。勿論、オレと出会った時のことも覚えている。ちなみに御年1000歳だそうだ」

『ロリババアとかいう次元を超えている気がする』

「大丈夫だ。どこぞの吸血鬼姉妹がロリババアなんだから」


だがロリババアと表現するのが失礼だと冬馬が思う程に美しかった。


「貴様いい加減に......!姫様!お戻りになられていたんですか。窓からの入室、どうかご容赦を」

「なんださっきまで殺すだのなんだかんだ言ってたくせに。姫の前だと頭低いな」

「貴様らも跪け。姫様は王国建国前からこの地にお住まいになられる神霊なんだぞ」

「神霊......それなら姫様に質問だ」

「おい!」

「羊を眷属とする神を知っているか」

「羊......眷属......」


ルージュはポーっと冬馬を見ながら動かなくなった。


「今彼女は記憶に検索をかけている。彼女さえいれば1000年前だろうとその前だろうと情報さえあれば記憶できるバケモンだ」

「姫様を化物呼ばわりとは......罰当たりめ」

「いたよ。エイミ。静寂と慈愛の神様」


ルージュから出た言葉に冬馬は解釈に苦しんだ。


「静寂?慈愛?八重、それぞれの意味を調べてくれ」

『静寂は「物音もしない静かな様」。慈愛は「常に慈しみを注ぎ可愛がる」だって』

「当てはまってると思うか?」

『全く。騒音と惰眠の神の間違いじゃない?』

「言えてる」

「エイミを知っているの?」


鈴の声が聞こえると自然と答えてしまう不思議。


「ああ、おそらく依り代としているだけだろうがな」

「会いたい」

「姫様。いけません。外部の人間と会うなど」

「いいだろう。道化の駒にいるぞ。静寂と慈愛の神がな。今度連れて来よう」


毎朝寝坊をし誰かが起こしに行かないと朝食も食べないという堕落ぷり。

これが刑事だというんだから日本警察の将来が心配。

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