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第72話 労働基準法?なにそれ美味しいの?

王都に飛んだ叶恵達は真っ直ぐにアマゾネの食堂に向かった。


「いらっしゃい!あんた達!よく来たね!人数も増えて!楽しくやってるようだね!」

「おかげ様で。アシュちゃんもこの通りです」


アシュはフードをかぶったままペコリと挨拶をするとアマゾネは満足そうにうなずいた。


「王都に戻ってきて大丈夫なのかね」

「ピエロがいるので大丈夫です」

「ピンチになったら駆けつけてくれるしね」

「今日はお願いがあって来た」

「お願い?」

「えっと......自分らに料理を教えてほしいんすよ......」

「なんでまた急に」

「それは......」

「淑女たるもの。料理の1つも出来ないとまずいでしょう?だからよ」


固まるパルを見かねてメアが助け船を出した。


「ちなみに料理経験は」

「全員皆無」

「あちゃ......ま、家は大盛り料理用に多く仕入れてるからね!食材はたんまりさ!」

「でも失敗作がいくつも出来ると思うっすよ」

「安心しな。胃袋なら大量にあるから」


アマゾネが指すのは壁かけの時計。時刻は夕方17時を回った所。

ぼちぼち夕食時である。


「安心して練習しな!なんだったら客に出せばいいさね!」


アマゾネに連れてこられたのは厨房。

広さは畳8畳あればいい方。その上調理器具が置かれているため人が動けるスペースは実質2畳ほど。

狭すぎるスペースに5人も入れば動くことなど出来ない。


「流石に無理だったか。それじゃあ、2人は調理、2人はウェイターをしてもらおうかね」

「どっちもやったことないんだけど」

「大丈夫。注文聞いて調理係に教えればいいさ。分かんなかったら補助するから。勿論、お駄賃も出すよ」


料理が勉強出来て且つ失敗が許され、給料まで貰えるという好待遇な仕事先があったら誰でも応募するだろう。

労働基準法?なにそれ美味しいの?状態の異世界だから出来る荒業だった。


「それじゃあ早速料理をしようか」

「でもまだ準備明けでお客さんは誰もいないっすよ?」

「客が来てから料理じゃ遅いんだよ。客が来る前から料理の準備をしておく。料理屋の鉄則」

「まずメアと叶恵がやって。その次が僕とパル」

「分かったわ。なに作ればいいのかしら」

「手始めに簡単なオムライスなんてどうだい」

「オムライスなら作ったことあります。失敗しましたけど」


さて、料理の特訓が始まったわけだが、料理をしたことがない又はしたことがあっても失敗ばかりの人達が集まった調理場というのはまさに地獄。


「あわわわわ!火が!」

「これどうやって斬るの?こう?」

「甘い!パル砂糖と塩間違えてる!」

「ええ!申し訳ないっす!」


慌ただしいことこの上ない。


「頑張ってるねー」「料理は最悪だけど」

「これも練習さね。あの子達が料理屋出したらどうするよ」

「絶対にそっち行く」

「だろう?教育もあたしらの仕事さ。ほら、またなんか黒いのが来たよ」


皿に乗っていたのは辛うじて食材だった。

だが作ったオムライスの卵はボロボロだし米も所々焦げていた。


「うむ。苦い!」「味が極端だな!ガハハハッ!」


来る客来る客に失敗作を出していく。

そのうち大勢の団体客が訪れた。


「疲れた......」「ビルマ団長。なんか焦げ臭くありません?」「気にするな。料理屋なら多少の焦げくらいあるだろうよ」

「お、団体客のお出ましさね」


やってきたのは王城の騎士団。ビルマ騎士団長を含め20名あまり。

それだけで食堂の椅子が埋まるほどだった。


「アマゾネ。なんでこんなところで突っ立ってるんだ。いつもは厨房から顔出して終わりなのに」

「今日は少し趣向を変えてみようと思って」

「ん?どういうことだ」

「見てればわかるさ」


なんでもいいから腹に入れたいビルマは料理が出てくるのを待った。

料理を運んできたのはパルだ。当然ビルマとは初対面ならためそこでは違和感はなかった。


「まっず!」「なんだコレ!」


料理を食べた騎士団からは不評の嵐だった。


「どういうことだ。なんでこんなものを出す」


アマゾネはニコニコと笑っていた。


「今作ったの誰?」

「アタシよ」


厨房から出て来たのは現女王。メアだった。


「じょ、女王陛下!なぜここに!」

「安心して、お母様には説明してあるわ。了承もとってある」


メアは怖い程に笑顔だった。


「で、アタシの料理がなんだって?食べられるわよね?食べ物だもの」

「いや......」

「んー?」

「いや!美味いです!」「陛下の手料理が食べられるなんて光栄です!」「騎士団に入って良かった!」


騎士団員は涙を流しながら皿の料理をかきこんだ。

やけくその涙か嬉しい涙かは明白だろう。


「まだあるからドンドン食べてね?」


元は食べ物でもメアの手にかかれば超物質へと変化する不思議。

次第に上手くなっているがそれも遠い目で見ればの話。食べた1,2品ではその違いも変わらない。


「な、なぜ陛下は料理を?メイドに任せればいいのでは?」

「だって、料理出来ないとレディとしてどうなのって感じじゃない?料理出来ないより出来た方が都合がいいことだってあるし。ピエロにお礼もしたいし」

「ピエロというのはあの怪盗で」

「そうね。今はピエロと旅をしているわ。勿論叶恵達も一緒にね」

「メア~。また焦げちゃいました」

「火力が強いのよ。叶恵は魔力量が多いから調整は大変だろうけどもっと強くイメージすれば簡単よ」


と、メアは言っているがメアもまだ魔力コンロの仕様には慣れていない。

理解はしているが実行できないというジレンマ。


「そうだ。あんた達、明日からもここに来なさい。そして失敗作を食べなさい」

「それは命令でしょうか」

「勿論。女王からの命令よ。これも騎士団の仕事とするわ!」


もう一度言おう。

労働基準法?なにそれ美味しいの?状態の異世界だから出来る荒業であると。

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