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第70話 見た目によらず明るい性格の王

写真を墓地に預けた冬馬はその足でジャックの元に向かった。


「よかった!戻してくれたんだね!」

「ああ」

「ありがとう!礼を言うよ!」

「ああ」

「不機嫌かい?」

「ああ!」


冬馬のあまりの剣幕にジャックは飛び退いた。


「写真を戻したはいいけど弔いはどうするつもり?」

「あの写真を複写したからもう大丈夫みたい」

「なぜ去年やらなかった」

「やったのはあの狐面の人だからね」

「......」

『考えたらお父さんの思うつぼ。深くは考えない』

「そうする」


冬馬は慎也の目的を考えることを止めた。


「女王陛下は父に挨拶はしないの?」

「するつもりよ。でも忙しいのではなく?まあ、それを確認しに来たんだけど」

「今なら大丈夫じゃないかな」

「なら行ってくるわ」

「案内するよ」


冬馬達はジャックの案内で国王がいる部屋に向かった。

屋敷の中には赤い絨毯が敷かれ一つ一つの通路が広い。オスカーの屋敷に侵入したときに感じた屋敷感はない。

広さ的には王城ほどある。


「父が心配していたよ」

「急に居なくなったことは申し訳ないと思っているわ。でも冒険は自分のタイミングで始めないとダメなのよ」

「冒険というのはよくわからないよ。そもそも剣を振れるほどの筋力はないし私は回復しか出来ない魔法使いだからね」

「アシュの下位互換か。いや、互換じゃないな。劣化版と言ったところか」

「手厳しいね」

「ピエロは出会ったときからこんなよ」


冬馬は別に手厳しくも優しくもない。

これが人間の普通であり、忖度というものを消した社会の縮図とも言えた。

上司だろうが同僚だろが、使えないと思ったら使えない、面白くないとハッキリ言う。それでクビにされるなら解雇上等。

その会社は去るべき会社である。

だが逆に、こっちが使えないと意見が出来るなら相手はもっと容赦ない言葉を浴びせるだろう。

これらを普通にやっているのが今の冬馬達のパーティだ。


一応の主従はあるものの形だけ、敬語も要らなければ遠慮もいらない。

本来の会社の図がここにはある。


「さ、着いたよ」


扉をノックすると中から野太い声が廊下に響いた。


「父上、王国女王が挨拶するっていうから連れてきたよ」

「うむ。入れ」


扉が開き、鼻をついたのは圧倒的な獣臭。ペットショップのあの臭いだ。

そして部屋のソファに座るのが獣国の国王、バルトラだ。

獣国というだけあって王も獣人である。


獅子。

王たる地位に相応しい動物。

金色に光る鬣は王者の風格を感じさせ、ソファ越しにチラリと見える上腕二頭筋は業物すらも弾くと思われる。

いくら公爵家で鍛錬をしていると言ってもオスカーでは勝ち目がないというのが分かる。

それに、背中越しでも分かるその威圧。

武器で斬りかかろうとすればその重圧に押しつぶされて擦り傷すら与えられないだろう。それくらい圧がある。


『無防備に見えてかなり警戒してる。もし武器の一つでも出せばすぐに拳が来るよ』


分かっている。その拳が避けられるような速度じゃないってこともな。


「久しぶりね。バルトラ」

「元気そうでなにより!誘拐されたと聞いたときは肝を冷やしたぞ!」

「それについてはごめんなさいね。冒険のことを考えたらいてもたってもいられなくなっちゃってね」

「分かる!分かるぞその気持ち!我も王となる前は各地を飛び回ったものだ!」


見た目とは裏腹にかなり豪快な性格をしているらしい。

ニカリと笑った時に見せる白い歯は無邪気さが出ていて先ほどの威圧が嘘のようだ。

そして傍らにいるのは狐面。


一応護衛として立っているためアクションを起こす事はないだろうがそばに居るだけで不快になるという。

今この場で殺すことも可能だろうが、流石に無害な王の前でそれは無礼千万だろうと、冬馬は銃をおさめた。


「それでこちらの女性方は?」

「アタシの仲間。剣士の叶恵、魔法使いのアシュ、鍛冶師のパル、お世話係のピエロよ」

「お世話係までいるとは随分豪華な旅をしているな!」

「女王たるもの、旅先でもケアはしっかりする物よ」


まぁ、ケアをしていると言えばそうだがもっと気をつけるべきものは沢山あると思うがね。

寝ている時に人に抱きつくとか、怖いとすぐ泣くとか、売られた喧嘩は勝てなくても買うとか.....etc


「獣国は王国と比べて国土は狭いが民は元気だ!ぜひ観光して欲しい!」

「ええ、そうするわ」


バルトラに挨拶を済ませると冬馬達は宿屋へと戻って来た。


「疲れる.....」

「素で話せばいいだろ。無理に女王気取らなくても」

「気取ってない!本当に女王なんだし国の印象に関わるの、そうすると貿易にも関係してくるのよ」

「難儀なもんだな。女王は」


冬馬は王だとか英雄だとかそういう肩書きを嫌う。

勝手に呼ばれる分には気にしないがおおよその場合、その肩書きに伴い責任が発生する。

王なら国を維持しなければいけないという責任が発生し、英雄は人類の敵を倒すという責任が発生する。

自分が知らない所で発生した責任を全うしろと圧力をかけられるのは我慢ならない。

冬馬が果たす責任は冬馬自身が選んだ道筋上で発生した責任のみである。


「どうしたパル。さっきからずっと悩んでいるが」

「いや、なんでもないっすよ.....」

『お兄ちゃんの前じゃ話しにくい話題なんじゃない?』

(道化は今女だぞ?男なら分かるが.....)

『試しにその場から居なくなってみれば?』

「そう言えば、道化はこの後行く場所があるから少しいなくなるぞ」

「少しってどれくらい?」

「1時間もすれば帰ってくる」

「ピエロ。早く帰ってきてね?」

「ああ、なにかあればこれで呼ぶといい」


冬馬は叶恵に簡易的なトランシーバーを投げた後、ゲートを開いて王都の書庫へと飛んでいった。

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