第6話 魔族
「お助けいただきありがとう......」
「ただで助けたつもりはにない」
「どうか敵意をお収めください。老いぼれにか弱い子供では貴方様には勝てません」
「知っているか。王が一番に恐れなければならないのは勇猛果敢な戦士ではない。なにも持たぬ平民だということを。フードを取れ、取らなければ敵意があるとみなす」
「そんな!この子はある呪いで......」
「関係ない。呪いだろが恥ずかしいからだろうが取れ」
フードを取らせようとする冬馬と取らせたくない老人の間にピリッとした空気が流れた時、それをぶち壊す者が現れた。
「ピエロ!やっと追いつきま......なんですこ惨状は!」
全身白いモフモフで覆われ冬馬の横腹ほどの高さの羊に乗った叶恵が羊に跨りながらやってきた。
「なんだそのふざけた乗り物は」
「この子はシープです。私に癒しを提供してくれる可愛い子です」
「ジンギスカンにしてやろうか」
「やめてください!動物愛護団体が黙ってませんよ!ついでに私も黙ってません!」
登場と同時にぎゃあぎゃあと騒ぐ叶恵が面倒臭くなり叶恵を放置し冬馬は老人に向きなおった。
「もうフードは取らなくていい。既にその者の正体は分かった」
「では!」
「安心しろ。道化は怪盗であり憲兵ではない。今この場でどうこうするつもりはない」
「それはありがとうございます」
「その代わり、王都まで馬車で乗せてはもらえないだろうか。もし断られたらついうっかり憲兵に言ってしまうかもしれないのでな」
「そのようなことでよろしければどうぞ。盗賊に襲われ荷物が少し減りましたのでお2人なら座れるはずです」
「私はシープに乗っていくのでピエロ1人で乗ってください」
冬馬が馬車に乗り込むと老人は手綱を掴み馬に指示を出した。
「おじいさんはどうしてこんな所に?」
「儂は行商人をしていますバルと申します。こっちは孫のアシュ。今は木のみを煮詰めたものを運んでおります」
「ジャムですね!通りで甘い匂いがすると思いました!でもどうやって盗賊をやっつけたんですか?」
「後ろに乗ってらっしゃる仮面の人が助けてくださいました」
「因みに方法というのは......」
「首を一撃でスパンと切っておられました」
「ピエロに剣術の才能があったなんて......」
「おかげで生い先短い人生を延長出来ました」
そういうとバルは穏やかに笑った。
その後ろで冬馬はアシュを見つめていた。
『どうしたの』
「あのアシュって子供。魔族なんだってな」
『うん。こっちの情報が正しければだけど』
「だがバルは人間」
『人間と魔族のハーフかもしれない。もしかしたら孫っていうのは噓でただ匿っているだけなのかもしれない』
「どうだろうな。それと、魔族は処刑対象だっていうのは事実か」
『それは事実。多分王都には入れない』
「無理やり入ろとした場合は」
『まずどの都市でも憲兵に見つかれば即死刑。街中で見つかった場合は公開処刑だって』
「怪盗より世知辛い存在がいるとは」
冬馬がアシュを見ていると控えめに後ろを向いたアシュと目が合った。がすぐに逸らされてしまった。
「嫌われたな」
『隠していることを無理矢理にしようとしたら当たり前』
「理由があるなら無理矢理にはしなかった」
あとで謝っておくか。
「ピエロ。バルさんが腰が痛いみたいなので代わってあげてください」
「お前がやれ」
「車の運転は出来ますが馬の操縦は出来ません」
「使えない駒だ」
冬馬がバルの元へ行くとアシュはバルに張り付いた。
「すいません。老いぼれの体は既にがたがたのようで。少し馬車を止めて休ませてもらえれば......」
「いや時間が惜しい。運転を変わろう。バルは奥で休んでおけ」
「助かります」
「ただし背中を空けることになるから。アシュは置いていけ」
バルを荷台で休ませ前には冬馬とアシュだけになった。
「さっきは悪かった。無理矢理フードを取らせようとして」
アシュは無言のまま首を振った。
「1つ聞きたい。魔族はなぜそんなに毛嫌いされてるんだ」
「......魔族は悪魔の眷属だから」
アシュはフードが飛ばないように手で押さえながら言葉をこぼした。
「大昔に悪魔と天使の大戦争があった......その時に生み出されたのが魔族」
「おとぎ話だろう?そんな大昔のことなんて誰も見てない」
「見てなくても魔族は悪という言い伝えは消えない」
「くだらん言い伝えだ。悪と言われているものが必ずしも悪とは限られないのに」
現代の日本にも似たようなもの残っている。
鼠小僧という江戸時代にいた泥棒。将軍や代官など上級層の家などから金品を盗み出し貧しい下級層の住人に配ったという物語。
庶民の視線からすれば正義の味方だろうが上級層からすれば悪でしかない。
どんな物語も捉えかた次第。語られる物事全てが真実だとは限らない。
相手の言ったことを鵜呑みにするのは馬鹿のやることだ。脳みそがあるなら少しは考えどんなに親しい間柄でも疑うことを覚えたほうがいい。
「なんで僕を殺さない」
「理由がないから」
「僕は魔族」
「それは道化にとって理由になり得ない。もっともアシュが道化に敵対するというなら話は別だが敵意がない相手を殺すほど人間やめてない」
「意味が分からない」
「分からなくてもいい。謎が多いそれが怪盗らしくていい」
長閑な平原を馬車が駆ける。
聞こえるのは馬の蹄の音と馬車の車輪が地面を転がる音だけ。
隣で並走する羊の上ではさっきまで喋っていた叶恵が完全に羊に寝っ転がり涎を垂らして寝ていた。
それにしても馬の速度に並走出来る羊は本当に羊なのか疑問である。
「アシュも眠かったら寝てもいいぞ」
「うんん。眠くない。それよりお話がしたい」
「物好きな奴だな」
「それはピエロも一緒だよ。魔族を殺さない人なんて久しぶり」
「バルとはどこで出会った」
「どこか分からないけど道の真ん中で倒れてた僕を見つけてくれた」
八重が睨んだ通り、バルとアシュは血縁関係ではなかった。
「よかったな。見つかったのがバルで」
「うん。もし違う人間だったら死んでた」
「街に入る時はどうしてる。憲兵がそのフードを気にしないわけはないが」
「近くの茂みに隠れてる。隠れてる間は寂しいけど慣れた」
「そうか」
「今度は僕が質問する番」
「ああ、いいぞ」
冬馬がそう答えるとアシュはフードの中で少し笑った。