第67話 あらゆる可能性を排除して辿り着いた一番面白い答え
狐面に連れ去られた叶恵を奪還するために冬馬は八重と作戦を練った。
「正面突破。これしかない」
「でも大丈夫なの?」
「仮に、背後からの奇襲や陽動を行った所で奴は動かない。魔眼がある限りな」
「叶恵を縛る鎖は魔封じの鎖。ああなったら叶恵は使えない」
「鎖は自分なら引きちぎれますけど叶恵さんには荷重いっすね」
「そうか。分かった」
冬馬は狐の不可解な行動が気にかかっていた。
なぜ、無数の鎖を使っていながら叶恵だけを人質に取ったのか。
パルは引きちぎれると言っていたがメアとアシュには無理だろう。
叶恵の能力を知ってのことだろうと最初は思ったがそれでも人質を多くとって冬馬の戦力を剥ぐ方がなにより効果的なのは誰でも分かること。
実際に、冬馬だったら人質を多くとり殺すなり生かすなり自由にする。
いくら看破の魔眼があるとはいえ慢心が過ぎると考えたのだ。
「狐面。なぜ道化のことを知ってる」
「魔眼ってすごいわよね」
「僕も欲しいー」
「うーん。温度とかが分かる魔眼なら欲しいすね」
冬馬が真剣に考えている横でメア達は魔眼雑談に花を咲かせていた。
「メア達は叶恵が心配じゃないのか?」
「心配よ?」
「なら普通は焦るもんじゃないのか?」
「これでも焦ってるわよ。でもピエロがなにも出来ないのにアタシ達がなにか出来るとは思わないし下手に動いてピエロの足手まといになるのはごめんだわ」
「ピエロがここまで焦るなんて珍しい」
「失礼ですけど、本当にご主人っすか?」
別に冬馬とて叶恵が攫われたことに対しては焦ってはいない。
焦っているのは冬馬のことを知っているということだ。
叶恵達に話していない妹の八重のことも知っていたし八重が情報を渡しているということも知っていた。
魔眼の力を発揮されれば冬馬の策は全て無駄となり完全能力勝負となる。
そうなったら相手の土俵。
魔力が少ない冬馬は鎖を無数に操るなんて不可能だし、相手が時空魔法を使うなら能力戦では同じ。
ゲートの内側にゲートを開かれて貫かれるのが目に見えている。
「相手の居場所は予想がついてるの?」
「ああ、さっきの応接室だ」
「......ピエロ?」
なぜだろうか。メアの声音が凄く冷たくなった。
「噓じゃない。あの狐面はバルトラが雇った用心棒みたいなもので、依頼者のもとを離れるわけにはいかないだろ。一度どこかに立ち去ったあと、戻ってきている。叶恵もそこにいる」
「なら行こう?」
「待て。今突っ込んでも門でやられるぞ」
「じゃあどうするつもりっすか?」
ゲートなど看破の魔眼で見ることが出来るのものは実質封じられる。
変装も不可能、恐らく冬馬が持つ武器も封じられる。
魔眼持ちがここまで厄介とは思わなかった。
「あまり使いたくはないが、使うしかないか」
「なに?秘策?」
「ああ、パル。設計図を渡しただろう。出来ているか?」
「出来てますけどまだ完成品とは言えないんすよ」
「なにが問題だ」
「多分弾けるっす」
「問題ない。一回分あれば十分だ」
「それなら工房にあるっすよ」
冬馬がゲートから取り出したのはライフル。しかもスナイパー。
いくら魔眼持ちと言っても見えなければ意味がない。拳銃では距離が近くて見破られるがスナイパーライフルなら狙撃が出来る。
高い塔の上でスコープを覗くとまずお茶を飲む叶恵の姿が目に入ったが問題の狐面が見当たらない。
「どう?いる?」
「いや、いな......」
冬馬が視線をスコープから外し背後を見ると狐面が肩越しに覗き込んできた。
急いでライフルを仕舞い、銃を取り出すが相手の方が速かった。
「はいはい。動かない」
「っく!バインドの魔法か」
「またまた大正解。ご褒美に素顔を見てあげよう」
狐がピエロの面を取ると現れたのは茶髪の女の子。
冬馬が水都でさんざんイジメた真紅の暗殺者だった。
「女の子?」
「残念。大不正解だ。化け狐」
バァン!という発砲音が聞こえた時には、狐面が砕け狐の素顔が晒されていた。
黒髪黒目の日本人によく似た顔が。
「まさか嵌められるとは。さすが怪盗ピエロだ」
発砲音のした先にはもう1人、怪盗ピエロがゲートを開き銃身が弾けたライフルをかかげて中指を立てていた。
なにも正面切って戦う必要なんてない。相手が籠城しているというのなら乗り込む必要があるがそうでなければ相手の興味を引き、誘い出せばいい。
冬馬は狐の性格を見抜いていた。
叶恵が攫われてからあらゆる可能性を考え、そしてある1つの答えに辿りついた。
答えというのなら、相手が看破の魔眼使いで見破ったというのが最短で一番つまらない答えだ。
だから冬馬はそれを真っ先に否定した、それしか答えがないのなら全ての可能性は今ある証拠で否定出来てしまうから。
その答えがこれだ。
「どうだ。久々の弾丸の味は」
「最高に美味い」
「ああ、そうだろう?クソ親父」
狐面が自分の父、犬神慎也だという冬馬からすれば一番面白い答えだ。




