第64話 ハーレムなんて男の肩身が狭いだけ実質無権利状態じゃまいか。
と言いつつ作者はハーレム物が好きです。
ハーレムしたいとは思わないだけです。
冬馬が寝ている間に買い物を済ませたメア達が帰ってきた。
「ただいま……って寝てるし」
「叶恵だけずるい」
「んん……あ、お帰りなさい」
「ピエロに用があるとか言ってなに添い寝してんのよ」
「ピエロの眠っている姿を見たら眠くなっちゃいまして……」
「でもご主人がいないと荷物の置き場所ないですね」
「仕方ない。端にでも置いておけばいいでしょ。一応叶恵の分も買ってきてあるけどサイズ適当だからキツくても文句言わないでよ」
「ありがとうございます」
荷物を置くと冬馬の周りに集まった。
「ピエロがこんな熟睡してるのって初めて見るかも」
「いつも僕らより遅く寝て僕らより早く起きてる」
「ご主人も疲れてたんすね〜」
メアは叶恵の顔をジーっと見つめた。
メア自身より前に冬馬と共に行動し酷いことをされよう反抗せずにいる。
そして、邪魔物排除主義者の冬馬に大事にされる存在。
叶恵と冬馬と一緒にいるだけで疑問は増えていく。
「ねぇ、叶恵ってピエロとずっと一緒なのよね?」
「そうですね」
「じゃあ聞くけど、ピエロってなんなの?」
メアはかなり漠然とした質問を叶恵に投げた。
聞きたいことが多すぎた結果の言葉だった。
「なんなのと言われると困りますね。怪盗です。犯罪者です」
「そうじゃなくて、本名とか出身とか色々あるじゃない。本当は本人に聞くべきなんだろうけどこのピエロのことだから適当にはぐらかされるのは目に見えてるから叶恵に聞くわ」
「分からないんです」
叶恵から出た言葉はメアにとって驚くものだった。
「え?でもずっと行動してるのよね?なにも知らないの?」
「はい。本名も出身も分かりません。ピエロに関する情報の一切を持っていません」
「でも敵同士だって聞いた。なんで敵と一緒にいるの?」
「私1人では無力だからです」
「叶恵さんの魔力なら無敵レベルだと思うっすよ?ご主人の時空魔法は素質的な問題なので使えないっすけど……」
パルの言葉に叶恵は首を横に振った。
「どんなに魔法への適正があろうと私は人を殺せません。状況にもよりますが、盗賊と出会っただけで殺すことなんて出来ません」
それは刑事としての叶恵ではなく、人としての叶恵としての価値観の問題だった。
怪盗としてやってきた冬馬と刑事としてやってきた叶恵はでは価値観は違う。それは命の価値観も例外ではなく、冬馬は邪魔なら殺すが叶恵は相当な状況でなければ人は殺せない。
「自分の身を守るにしても人を殺すなんてこと私には出来ません。ピエロと一緒にいるのは変わりに守ってくれるからです」
「どんだけ田舎で育ったのよ。人なんて魔法でいくらでも生き返るのよ」
「でも、死ぬという恐怖は一生消えないですよね?」
「そうだけど、そんなこと言ってたら生きていけない」
「それはそうなんですけど……中々吹っ切ることが出来なくて……」
「どこで育ったのよ」
「え」
叶恵はメアの問いに固まった。
本来は日本なのだが冬馬がまだなにも言わないことから言わないようにしていた叶恵だが頼みの綱は先ほど自分で寝かしてしまった。
勝手に言って冬馬の怒りを買うのは叶恵ですら怖いのだ。
「えっと……遠い村です」
「名前は。行商していたアシュなら分かるでしょうから言ってみなさい」
叶恵の逃げを察したメアがさらに追い討ちをかける。
冬馬はどう思ってるか分からないが叶恵からすればメア達は立派な仲間であり信頼している。
叶恵は自分の信頼に賭けてみることにした。
「私の生まれは日本です」
「にほん?どこそれ。アシュ知ってる?」
「僕が言ったことない場所かも。パルは?」
「今までにほんという場所から依頼が来たことはないってことくらいしか言えないっす」
「日本はこの世界にはありません」
「どういうこと?」
叶恵はこの世界に来た経緯を話した。
「この世界より近代的な場所から来たと?」
「ピエロが持つ銃もその一つ」
「つまり……どういうことっすかね?」
にわかには信じがたい話にメア達は眉を寄せた。
「にわかには信じがたいけど……なんで黙ってたの?」
「えっと……それは……」
叶恵はチラリと寝ている冬馬を見た。
「メア、ピエロが本気で怒ったらなにすると思う?」
「そりゃ、銃でバンと……そういうことね」
「そうです。ピエロが怒るとなにするか分からないんですよ」
実際にはある程度は想定できるが、船での虎獣人との戦いの後ではその想定もアテにはならなかった。
「あまり驚かないんですね」
「まあずっと疑問には思ってたわよ。ピエロは言うまでもなく異次元的な存在だし叶恵も時々ボロが出てたし」
「え、いつですか?」
「叶恵、なんか難しい字書く」
「難しい字?」
「ああ、宿帳に記入する時すね。ご主人は代筆でしたけど叶恵さんはなんかゴチャとした字書いてましたよね?」
叶恵が宿帳に書いたのは日本人なら当たり前に使う漢字だ。
だが、この世界は識字率は高いものの漢字というものはない。平仮名かカタカナだけである。
「世間的な一般常識は知らないのに学はあるなんておかしいと思ってたし」
「叶恵はすぐガバる。ピエロはそんな素振りは見せなかった」
「ご主人の場合は能力とか使う物が違和感ありまくりっすけどね」
「ま、なにはともあれ話してくれたのは嬉しいわね」
「そ、そうですか後はピエロが起きた時に怒らないことを祈るだけです」
「安心して。僕が止める」
自信満々にぺったんな胸を張るアシュ。
「ピエロは駒を殺せない。だから大丈夫」
「自分も精一杯守るっすよ」
「ありがとうございます」
冬馬が熟睡している間に女達は友情を深め合った。
ハーレムなんて夢のまた夢。
これではいつしか冬馬が駒となりセコセコ働く日本とあまり変わらない状況になるのも近いかもしれない。




