表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/136

第58話 静かな怪盗と騒がしい刑事

見事に分断された冬馬は王家墓地の地下を順調に進んでいた。


「きゃー!きゃあああああ!」


順調なのは冬馬だけで後ろからついてくる叶恵は叫びっぱなしで涙やら鼻水で酷いことになっている。


「ビエロ!ビエロ!骨が!人が!」

「うるさい!なんでもいいから鼻水を拭け!」

「うううぅぅぅぅぅぅ!」

「お前......」


冬馬の言葉も今の叶恵には聞こえていない。

冬馬の外套に顔を埋め、顔を拭う叶恵を冬馬は心底ウザそうに無理矢理叶恵を引きずりながら進んだ。


「お前、さっきからぎゃあぎゃあうるさい」

「だって怖いんですよ!ピエロは見えているかもしれませんが私からすれば真っ暗なんです!怖いんです!」

「目を開けていろ。そうすればいずれ慣れる」

「慣れたくないです!今よりハッキリ見えるなんて無理です!」

「じゃあどうしたいんだ!今までそんな我がまま言わなかっただろうが!」

「私だって怖いんです。怖いものは怖いんです」

「急に変わりすぎだろ」

『甘えたいんだよ。女王とか偽物ロリとかコミュ障鍛冶師とか年下が多かったから甘えられなかったんだよ』


俺だって年下なんですがそれは。


「せめて自分の脚で立て。重い」

『やさしーね。キレそう』


どうしろというんだ。


「分りまじだ」

「あと、死体踏んでるからさっさと退いてあげろ。可哀そうだ」

「きゃあああ!なんで早く言ってくれないんですか!」

「そういう顔と反応が見たいからだ」

「変態!」

「褒めるなよい」


メアと分断されて静かになると思われた地下墓地も叶恵がいるせいでうるさい程に賑やかである。

だがその賑やかさを迷惑に思う住人もいる。


「ああああ......」

「カタカタカタ」

「ひっ!きゃ!」


叫びそうになった叶恵の口を冬馬が塞ぎ物陰に身を隠した。

路地から出て来たのは所々骨が剥き出しになったゾンビと完全に骨だけになったスケルトン。

どちらも武装していて戦闘する意思があるのが窺える。


(なんですかあれ!)

(大方、巡回兵と言ったところ。狭い通路で不死身共の相手をしている場合じゃない。やり過ごすぞ)

(分かりました)


元々埃っぽい地下墓地。

人間が埃っぽい場所にいると起こる生理的な現象。


「くしゅん!」

「お前!」


叶恵のくしゃみが可愛らしいとかそんなことは言ってられない。

音を聞きつけたアンデット達が一斉に冬馬達に刃を向けた。


「お前ホントに!次やったら宿屋に強制的に飛ばすからな!」

「ごめんなさい!くしゃみはどうしようもないんです!」


防御役のメア、攻撃役のパルがいない今は戦闘は出来るだけ避けたい。

止む負えず戦闘となった場合は叶恵を宿屋へと飛ばす必要がある。

この場で叶恵を失うことは冬馬だけでなくパーティー全体、もしかしたら国全体に損害が出るかもしれないのだ。出来るだけ戦闘は避けたい。


「ピエロ!」

「あーもうお前は!耳塞げ!」


叶恵が耳を塞いだ直後、キーン!という甲高い音と共にアンデット達は音の方へと向かった。


「今のうちに逃げるぞ!」

「ごめんなさい。脚がもう動かなくて......」


叶恵の脚は恐怖からか疲労からかガクガクと震えていて真っ直ぐ立つことも難しい程だった。

冬馬達がいるのは狭い路地のような道。

八重のナビゲートもあって逃走経路は分かってはいるがそう近くはない。

今の叶恵の脚では途中で見つかる可能性が高い。


「まったく足手まといが」


悪態をつくと冬馬は叶恵を横向きに抱きかかえた。


「あ......」

「顔赤くする暇あったら鼻水拭けクソ刑事が」

『敵をそう簡単にお姫様抱っこしていいもんかねー。八重は一回もされたことないのになー』

「状況を考えろ。こいつを殺して道化にメリットはない」


今はの話ではあるが。

静かに足音を立てないように巡回兵の後ろを通り過ぎていく。物音1つが命取り。

こっちが命取りなのに対し相手はその命がないという超アウェー状態。


『あと少しで次の階層への階段があるはず』

そう。あるはずなのだ。


『けど崩壊してるぽい?』

「ああ、一応下の階層は目視できるが道具ないしに渡れる距離じゃない」

『ならお兄ちゃんが先に行ってあとからそのクソ刑事を連れてくるしかない』

「はぁ......どうやらそんな時間はないようだ」


通路の両側からは巡回兵が列をなして行進してきている。隠れ場所もないこの場所では見つかるのは時間の問題と言えよう。

冬馬にはゲートがあるため逃げようと思えば目の前の穴へ飛び込むことだって出来る。だが叶恵はどうだろう。

一応剣を帯剣してはいるが少し振っただけで筋肉痛を起こしまだ続いているため戦闘は絶望。

逃げるにしても脚が動かないのでは意味がない。


『この穴は次の次の階、3階層まで続いてる』

「流石は相棒。道化の意図を的確に読み取ってくれる」

『『唯一の』相棒だからね』


「ピエロ......黙ってろ。舌を噛み切りたくなければな」

「え......ここから飛び降りるつもりですか?」

「大丈夫。ちょっと1階層分降りるだけだから」

「なにも大丈夫じゃ......きゃあああああ!」


叶恵の心配を無視し冬馬は目の前の暗闇に飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ