第57話 墓場に行くなら水の駄女神を連れていかないと
「嫌!絶対に行かない!宿屋で待ってるから!」
さっきからメアの駄々がうるさい。
墓地に冒険に行くと言ってからこうして駄々をこねるようになった。
「それでも構わないが、なにかあってもすぐには助けには行けないぞ」
「それは嫌!でも墓場は嫌!」
「墓地のダンジョンって亡霊系のモンスターですよね?攻撃は通るんですか?」
「通る。そもそも、怨霊だとか幽霊系のモンスターというよりゾンビとかスケルトンとかアンデット系が多いらしいな」
「ほら!怖い!なんで怖いと分かってるところに自分から行かなきゃいけないの!」
「そんなの当然、宝があるからに決まってるだろう?」
冬馬が行こうとしてるのは昔の王家の墓。
今の都とは大分離れているがそこが代々王家が入る墓があるのだ。
「宝ってなに!ピエロが欲しがるってことは相当なお宝なんでしょうね!」
「ああ、ゾンビの心臓だ「嫌!それ以上なにも言わないで!」」
「なんでそんなグロテスクなもの欲しがってるんですか?」
「食べると不老不死になるっていう噂があるんだ。道化に死の概念はないから関係ないが駒に死なれたら困るんだ」
「だからって!せめて食べ物を持ってきて」
「火で炙ってタレでもつければ大抵のものは食える」
「男飯発想っすね」
まあ、それが美味いかは別のお話だがな。
「メアは後衛なんだからほぼ襲われる心配はないだろ。もし心配なら叶恵かパルを護衛に回す」
「正直どっちも欲しい。前と後ろ固めたいの」
「道化はそれでも構わないが」
2人に目線で確認をとると2人とも否定的な表情はしなかった。
2人の護衛とアシュという魔法のスペシャリストがつくことでなんとかSAN値を保ったようだ。
冬馬達がいざ墓地へ来てみると意外と普通の墓地だった。
獣国の港から徒歩で1時間ほど歩いた場所にある静かの場所。
昼間なため辺りは明るく墓石が建っているだけで幽霊やゾンビは気配すら感じなかった。
「なんだ、普通の墓地じゃない。ピエロが行きたがるからどんな場所かと」
「メアの中の道化のイメージはまさにピエロだな」
「ええ、不確定要素が多くて不気味。仮面では笑ってるけど心は氷のように冷たい。でも駒のこととなると優しい」
「そうかよ」
口では軽く話しているが体は震えているしアシュに抱きついていないとまともに立っていられない状態。
叶恵とパルをメアの周りに配置し冬馬が先頭を切って王家の墓地地下へと進んでいった。
『分かってると思うけど相手が死者の場合、生体反応がないからこっちからの支援は減るからね』
「勿論把握済みだ」
『なんでお兄ちゃんが前でて女共は後ろできゃっきゃしてんの?』
「駒を失いたくないがための処置だ。主人の務めと言った方が納得出来るか」
『八重1人いれば異世界でも怪盗業続けられるのに』
「だが有用な情報網や人材は必要だ。未知の世界、ジョーカーの探索範囲だって広くはないからな」
『不覚』
いくら機械に頼って情報を出すとは言え限度はある。
八重の場所からでは情報が規制される……つまり魔法を弾く処置が施してあったりした場合情報を得ることが出来ない。
逆に、女王の寝室や風呂場などは自由に見ることが出来る。
男としては十分なくらいだが危険な組織のアジトなどの情報が出てこないとあまり意味がないのだ。
そういう場所には実際に行って内部から情報を出す必要がある。
端的に言えば、冬馬が冒険する必要が増えたということだ。
いくらハイスペックなPCを使っているとは言えHDDには限度がある。
未探索の場所の情報を出すより探索中に情報を随時集めた方が八重の労力的にもPCのHDD的にも優しいのである。
「アシュから気配察知を貰ってるが普段は寝てるからなモンスター共は」
『じゃあどうやって探すの?』
「事あるごとにに慎重に行くしかない。ま、いつも通りってことだ」
仮面の暗視機能を使いながら墓地の地下を歩いていた。
「ねえ、まだ着かないの?」
「……まだ入ってそんなに経ってないだろうが」
「もう怖いの!なんか骨とか転がってるし足元ボコボコで歩きづらいし!」
「アシュに捕まっておいてなに言ってんだか。逸れると面倒だから離れるなよ」
「大丈夫よ。離れないからっあ!」
メアが足元の出っ張りに躓いた。それと連動するように壁が動きアシュとパルがメアと共に姿を消した。
「分断か……」
「メア達が!ピエロ!」
「分かってる。今捜索中だ」
『生体反応が少ないからすぐに見つかったよ。青色の点が地下に3つ。かなり深い。最深部に近いと思うわれる』
「どうやら最深部近くにいるそうだ」
「無事なんですね?」
「ああ、今はな」
「え……」
腐ってもダンジョンなのだ。
モンスターに襲われることだってあるし頼みの綱であった冬馬と離れたメアがまともに戦えるとは冬馬は考えられなかった。
「メア達の救出に向かう。道化から離れるなよ」
「は、はい」
叶恵は少し緊張した様子ながらも冬馬の後をついて行った。