第54話 獣人は犬族と猫族の他にも鳥人族や蛇族、馬族に人魚もいる
アシュを叶恵達の元へ送り届けた後、冬馬は火都で訓練をしているパルの元へと向かった。
「3時間と言って置いてその倍遅刻とはね」
「急用が入ったんだ」
「血の匂いがするっすね」
「道化のことはいいんだ。パルの能力はどうだった」
冬馬が返答を求めるとオスカーはなぜか少し答えるのをためらった。
「なにをためらっている」
「いや......ね。もしコレを話したらピエロはパルちゃんを殺すんじゃないかと思ってね」
「なんだ。ハッキリ言え」
「正直、彼女を扱うのは極めて難しいと思うよ。筋力が僕より上でさらに一撃が重い。振りは早いからただ破壊力だけに特化したって感じかな。もし狭い場所で戦えば確実に通路が崩れるだろうね」
「それは武器の問題だろうが。剣なり槍なり破壊には向かない武器だってあったはずだ」
「どれもだよ。怪力すぎて武器の方が耐えられない。武器が砕け散った後には大きなクレーターが出来てるよ」
確かに、通常じゃ使いずらくてお邪魔虫だろうが、冬馬のパーティでは多いに活躍できる。
振りが速く攻撃力があるというならば、あとは回避を覚えさせるだけで最強戦士の出来上がりだ。
「そう思って回避術をいくつか教えたよ。それと、各距離の武器の使い方も教えた置いたよ」
「助かる。パル自身はどうだ。なにか変わったりしたか」
「えっと......自分ではあまり......でも公爵様は本当に優しかったです」
「そりゃよかったな」
「べ、別にご主人が優しくないと言いたいわけじゃなくて、ただダメな自分にもこう......優しくしてくれるんすよ」
パルが顔を赤らめながら言った。
「照れるな~。パルちゃんのような可愛い子ならいつでも訓練しに来ていいよ」
「今の聞いたなパル」
「え、ああ、はい」
「メアに聞いたことを一字一句そのまま伝えるんだ」
さすればオスカーは終わる。
「メアによろしく」
「次に会う時はメアも連れて来よう」
「それはありがたいね」
パルを連れ大股でゲートをくぐった。
「おかえりなさい」
「おかえり。なに不機嫌なの」
「別に不機嫌なわけあるか」
「誰が見ても不機嫌」
「パル。なにかした?」
「えっと......公爵様が優しいって言ったら不機嫌になりました」
「なってない」
不機嫌な冬馬とは反対に叶恵達の頬はドンドン緩んでいく。
「ピエロにも人間らしい所があるんですね~」
「可愛い所あるじゃない~」
「ピエロ。可愛いよ?」
「あのご主人?自分が言ったことを気にしないで貰えると助かるっすよ」
「だーかーら。不機嫌じゃねぇって言ってんだよ。それより、旅を続けるぞ」
冬馬が宿屋を出るとニヤニヤ顔の叶恵達が後に続いた。
「結局どこに行くの」
「獣国だ」
「なんで獣国?」
「帝国は王国と大差なくて暇そうだし法国は宗教が面倒だからだ」
「獣国も各都市に分かれてるけどどこから行くの?」
「水都から行ける港町だ。そこが目的地」
だがそこはあくまで獣国の入り口に過ぎない。
そして、叶恵達は忘れている。
冬馬は怪盗ピエロであり、宝を求めて各地を動いていることに。
☆
馬車諸共水都へと戻り、宿屋に馬車を預けた冬馬達は他国への検問所を通るところだった。
「ほら、さっさと通って来い」
「ピエロは通らないんですか?」
「獣国まで泳ぐつもりっすか?」
「まさか。怪盗が素直に検問所を通るとでも思っているのか?」
「本当にブレないわね」
叶恵達が通ったことを確認した冬馬はゲートを開き、叶恵達の元へと飛んだ。
「ちゃんと通ればいいのに」
「調べられると不都合なことでもあるの?」
「ある。拳銃を調べられたら面倒だ」
他にも調べられたらまずいものばかりで身体検査のある検問所は素通りするしかないのだ。
「これが運河横断の船か。デカいな」
『サ〇ー号だ!悪魔の実食べなきゃ』
八重の言う通りライオンをモデルとした船首はないがそれに匹敵する程度には大きかった。
それもそのはず。肉食の羊がいるように、運河にはサメなり肉食の生物がたくさんいる。
だから泳いで渡るのは不可能だし小船で行こうものならひっくり返されてパクリだ。
「人が多いっすね」
「はぐれるなよ」
「ピエロが心配するなんて珍しいですね」
「探すのが面倒なだけだ」
獣国の国土は王国とそこまで変わらない。だが自然の多さではどの国よりも勝っているだろう。
木の中をくりぬき住居としている都市や水中で生活する都市もある。
「獣人って一体どれくらいいるんですか?」
「種族数で言ったら一番多いわね。魔族が2番目に多いけど獣人は圧倒的に数は多いわ」
「水都にいたジジは犬だしアメリアは猫。他にも鳥人族や蛇族、馬族、人魚とか色々いる」
「師匠に聞いたっすけど、今はどの都市も観光名所になってて人でも暮らせるようになってるらしいっすよ」
「ぜひ会ってみたいです!鳥人族とか憧れます」
甲板に置かれた椅子に座り雑談をする叶恵達とは反対に冬馬は警戒に当たっていた。
『今の所向けられる敵意はなし。あったとしても女を多く連れている故のやっかみ』
「それならいい。駒であって仲間ではないのだ。勝手に思わせておけばいい」
『あ、今警戒になった。こっちに近づいてくるよ』
来るとは思っていたがまさかこうも早いとは。
離陸からまだ数分しか経っていないというのに。