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第52話 限られた情報で出された真実に近い推理。

「そういえば、怪盗さんはジジになんの用があったんですか?」

「ちょっとした確認をな」

「確認?」

「こっから先は企業秘密だ。知りたきゃジジに聞け」


ジジの実家が分からないことには真紅の暗殺者の件についても聞くことは不可能。

だが待てよ......。


「ジョーカー、傭兵は契約者が死んだらどうなる」

『基本的には身の回りからお金になりそうな物を奪ってお終い。もし無ければ親族を脅して取る』

「アメリア、最近誰か尋ねなかったか?」

「いえ、誰も来てませんよ?」

「なるほど」


ジジは実家に帰ると言った。だが契約中の傭兵がいるのにわざわざ居場所を変えるだろうか。

もし、本当に実家になにかあり帰るとしたら、なぜジジと契約中のはずの真紅の暗殺者が地下帝国の洞窟にいたのだろうか。

真紅の暗殺者の目的は冬馬を殺すこと。これは話から見て取れる。

だが冬馬は生きている。


どうも辻褄が合わない。

1人1人の行動なら不可解なことは無い。人間、動いている方が自然だから。

だが、繋がった人の行動なら謎だらけ。


「アメリア、ジジの実家は分かるか」

「獣国なのは知ってますけど詳しい場所までは」


獣国は水都の運河を渡れば行くことが出来る。地下帝国に寄る必要はない。

水都から派遣された暗殺者。その暗殺者が別の護衛対象と共にいた。

どうやら水都に来て正解のようだ。


「アメリア、次に片付ける書類はどこだ」

「あ、この山をお願いします」

「分かった」


冬馬が書類の山を持ち上げると同時に、ギラリと光る物が冬馬を襲った。

部屋中にばら撒かれた資料には血が飛び散り、腕を押さえて数歩下がった。


「......クソっ!」


腕に刺さった短剣を引き抜きながらアメリアは冬馬を睨んだ。


「やっぱりか」

「なんで......バレた?」

「行動の矛盾。地下帝国で道化と交戦していなければ分からなかったかもな」


交戦していなくても冬馬を警戒した時点でバイタルに変化がある。そうなれば八重の射程範囲。

どの道バレる。


「本物はどこだ。真紅の」

「殺したと言ったら鬼をどうする?」

「殺す」

「本物はとっくに殺した」


冬馬は拳銃を突きつけると撃鉄を下ろした。


「さっさと居場所を言え。この屋敷からは血液反応が出なかった。その代わり、所々カーペットが寄れている。なにかを引きづった後だ。他の獣人に気づかれるのを防ぐために時空魔法を使わなかったのが仇となったな」

「だから、殺した。鬼は動けない。だから殺すなら早く」

『この女、死ぬことに対して恐怖を抱いていない。超厄介』

「脅迫が一切通じないってことか。その程度、どうとでもなる」


時空魔法がある間は撃ったとしても躱される可能性がある。

飛び道具だと知られれば確実に時空魔法を使ってくるだろう。


「まあいい。お前の正体もなにもかも全て判明した」

「噓?」

「噓じゃない。なあ、ジジさんよ」

「ははは」


笑い声と共にゲートが開かれ刃物が飛び出した。

事前に八重から警告を受けていた冬馬は開いた瞬間に飛び下がっていた。


「道化も落ちたものだ。あんな簡素な変装に気づかないとは」


男が女に化けるのは結構大変だが、女が男に化けるのは簡単なのである。

胸が邪魔ならさらしを巻けばいい。さらしでダメならコルセットという矯正器具でどうとでもなる。

この世界にコルセットはないが、そんな従来の矯正器具なんかより便利な魔法というものがある。

体型は幻覚でも見せればいくらでも誤魔化せる。


「大正解。やはりあの時に処刑しておけばよかった」

「5人張りの弓を弾ける程の筋力がただの暗殺者にあるわけない。強化魔法を使ったとしても撃った後腕は使い物にならなくなる。お前はいったい誰だ」


アメリアに化けた真紅はニッコリと笑うと短剣を自分のゲートの中へと仕舞った。


「鬼は鬼。最初からそう名乗ったはず」

「魔族の類か」

「それはどうだろう。敵の言うことを信じるならそれで正解かもしれないけど」

「面倒な奴だ」

「道化だって同じことをする。鬼はそれを真似ただけ」

「んで、わざわざジジの変装を止めてまで道化を殺しに来たのはなぜだ。そこがどうしても分からなくてな。夜しか寝れないから教えてはくれないか」

「教えない。それを言ったらつまらない」

「嫉妬か」


冬馬が口に出した瞬間にわずかだが反応があった。

それを見逃すほど怪盗として鈍ってはいない。


「なるほど、ジジとしてアメリアに仕えている間にアメリアを好きになった。だが、急に現れた道化に盗られた。そう感じたわけだ。最初に会った時も「宝、盗んだ」としか言わなかったしな。鬼からしてアメリアは何物にも代えられない宝だったってわけか」

「うん。そう」


鬼は完全に警戒を解くと窓枠へと座った。


「鬼にとってリアは宝物。道化の駒と同じと考えて。道化の駒が急に誰かに奪われたらどうする?」

「奪った奴を殺す......そういうことか」

「そう。鬼も最初にそう考えた。だから道化を襲った」

「面白いことを考える奴だ」


冬馬の思考を完全に読み取り、実行に移した。

追い詰められても説得できるように。


「正直、鬼に勝ち目はない」

「なぜ、時空魔法を上手く使えば勝機はあるだろうに」

「違う。道化のは時空魔法ではない。それを道化が把握している限り全ての生物に勝ち目はない」

「ははは。なにを言う。時空魔法だとも。鬼も実際に戦ったではないか」

「戦ったから分かる。時空魔法はあくまで魔法。魔力を消費する。それも莫大な」


莫大な魔力を消費する時空魔法。それ故に使用者が少なく、素質があったとしても魔力不足で使えない。

そういった状況が起こりえるのだ。

だが、冬馬の魔力は叶恵とは対照的に少ない。攻撃魔法をまともに使っただけで魔力切れを起こすほど少ないのだ。

そんな魔力少の人間が時空魔法なんて高度な魔法使えるわけはない。


「道化のは昔に使用されていた『結界魔法』。世界と世界を結ぶ魔法。原理、理論、起源全てが未だ解明されていない失われた魔法。それと酷似している」

「なにを小難しいことを。結界魔法?世界を結ぶ?そんな大それた魔法じゃない。ただ行き来するだけのものよ」

「結界魔法には他にもある。次元の超越、惑星規模の範囲攻撃。情報至上主義の怪盗が知らないわけない」

「さあな。道化には難しい。次元の超越?範囲攻撃?さっぱりだ」


確かに、ゲートの大きさを変えられたり連続で出せば空中歩行だって可能だが、それもそこまでの話。

次元を超えることも、惑星規模の範囲攻撃だって出来ない。


そう簡単には。

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