第49話 他国に行く前に準備をしようか。
冬馬のパーティにパルが加わり宿屋に5人が集まった。
「異論はないけど、女だけのパーティって危なくない?」
「なら道化が男になればいい。変装は簡単だからな」
実際は変装を解くため素に戻るということである。
「いやー。自分みたいな地味女がキラキラした皆さんのパーティに入れるなんて光栄というか恐れ多いというか……」
「安心しろ、こいつらは見た目こそキラキラしてるが中身はその辺の同い年の女と変わらない」
「なにそれ、褒めてるの?」
「褒めているとも。無駄に着飾らずに己の武器を理解し振り回す、結構なことだ」
「そういうピエロは武器を無駄にしてる。外套が邪魔」
「そうですよ。もう旅をして結構経ちますし、いい加減外套を脱いだらどうです」」
何故外套を脱がそうとしてくるのか。
今脱いだところで叶恵達に見せている女が出てくるだけで面白いものはないというのに。
「次はどこに行くつもり?」
「魔都や風都に行こうと思っていたが、急遽変更だ」
「なにかあったんすか?」
「いやなに、王国だけじゃなく他の国にも行ってみようというだけの話だ」
「いいですね。どこに行きますか?」
この世界は王国の他に、王国とあまり変わらない帝国。獣人が人工の9割を占める獣国。法皇だけが君主となっている宗教国家法国。の3つの国がある。
大きいのが3つというだけで小国家が他にも100以上存在する。
だがそのほとんどは無人島、または大気汚染のため魔族以外は住めないなど特殊な事情を抱えた島国ばかり。
水都の側を流れる運河を渡ることで他国に行くことが出来る。
「他の国ね……」
「なんだ。浮かない顔して」
「あまり王国を出たくないのよね」
「なんで」
「見知らぬ土地って怖いじゃない?ピエロだってずっと側にいてくれるわけじゃないし、アタシ1人じゃ無力なわけだし」
「今回は道化はメア達と行動するつもりだぞ」
「珍しいですね。いつもなら「情報収集が先だ」とか言ってどこかに行ってしまうのに」
本来ならそうしたいが、ある程度の情報はあるし他国に行ってメアの正体がバレた場合どう使われるかわからない。
それに、控えめに言っても美少女揃いのこのパーティを男共が放っておくとは思えない。
王国ならメアの名前を出せばほとんどの男共は手を引くが他国でそれが通用するとは思えない。
そんな下らないことで駒を失うのは御免だ。
「それならいいわね」
「やった。ピエロが一緒」
だが他国に行く前にやることがある。
「まあ、出発はもう少し先になりそうだがな」
「まだやることがあるんですか?」
「ああ、情報収集とパルの能力調査だ」
「またですか……」
当然。
もし使い物にならなかったらパルを推薦したガルバに文句を言わなきゃいけないからな。
「あ、鍛錬ならアタシにオススメの人物がいるけど」
「アイツか」
メアの紹介でやってきたのは火都にあるクラディウス邸。
「怪盗……僕に一体なんの用だい」
「そんな嫌な顔をするな」
「ん。その子は?」
「ぱ、ぱぱぱぱ、パルといい、言います!ええと、あの、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」
「どういうことだい」
緊張で口が回ってないパルが挨拶をするとオスカーは冷たい視線を冬馬に向けた。
「こいつの能力審査をして欲しくてな」
「なんで僕ないんだい。冒険者ギルドでも能力審査は出来るのに」
「メアの紹介でな。「鍛錬ならアタシに心当たりがある」とかなんとか言ってたな」
「メア……無事なんだね」
「ああ、今頃次どこに行くか駒と決めている頃だろうよ。取り敢えず3時間したら戻ってくる。それまで頼んだ」
パルを前に出すと冬馬はゲートを開き情報収集へと向かった。
「まったく……人使いの荒い怪盗だな……」
オスカーは髪をガシガシとかいた後にパルへと向き直りいつもの爽やかスマイルを向けた。
『いいの?置いてきて』
「メアの命がかかってる時に俺の駒に手出したりしないだろ」
『分かんないよ。あの女結構ドジで胸もそこそこだから食べられちゃうかもよ』
「そうなったら怪盗ピエロ様が直々に殺してやるとしよう」
冬馬はパルをオスカーに預けた後、情報収集のために王城へと向かった。
王城に到着した冬馬は資料室を漁っていた。
「王城ってだけあって資料の保管は完璧だな」
『騎士団も見習ったほうがいい』
「まあ、この時代の紙は高級品だからな。羊皮紙に殴り書きが基本なんだろうよ。逆に、王国の中枢である場所にはそれ相応の保管がされる」
『情報の格差社会。んで、なんの情報が欲しいの?ある程度ならこっちで出せるけど?』
「各種族の対立とか、戦争の記録だ」
もし人間が他種族と仲が悪かった場合、叶恵達をそのまま歩かせるわけにはいいかない。
なにかしらの対策は必要だし、冬馬のパーティには人間だけじゃなく魔族もドワーフもいる。
各国の対立は第一に考えるべきもの。
「最悪の場合、王都でのアシュのように公開処刑がされることもあるからな」
『処刑されちゃえばいいよ』
「駒が減る」
綺麗に仕舞われた記録の中からそれらしきものを手に取り読む。
「やっぱり王城じゃ「魔族悪」としか書かれてないな。直近だとこの前のアシュの事件。首謀者は……仮面の者」
『やーい指名手配者ー』
「同じ怪盗ならジョーカーだってこの仮面の者に含まれるだろうに」
『お兄ちゃんと一緒なら望むところ』
頼もしい相棒だこと。
「しっかし資料が多いな。メアの誕生記まであるし」
『それだけじゃない。代々の女王の誕生から成人まである。ねぇ、お兄ちゃん』
「ん。なんだ」
『その「メア様の誕生記』ってのを見てみて』
「これか」
冬馬が手にしたのは赤い厚手の紙でまとめられた図鑑のような本。
『その両親の欄見て』
「おいおいこれってまさか……はっはっは!こいつは傑作だ!リーネに確認しに行くぞ」
冬馬は仮面の下に笑みを浮かべながらリーネの元へ向かった。