第4話 考察
「話ってなんだジョーカー」
人気が完全に消えた森の中に冬馬は1人立っていた。
『これ、ピエロのバイタル』
「なんでそんなもの今……」
八重から送られてきた画像は何度も見た画像。
脈拍や血圧の数値があり異常があるわけでもない。
だがその画像には見慣れない文字があった。
『ゲート』
この文字が画像の備考欄に書かれていた。
「ゲート?なんだこれ」
『多分これがピエロのこの世界での能力』
「魔法とか能力とかまんま異世界だな」
『そこは地球上のどこでもない。異世界だよ』
「知ってる。あんな何もない所から火は出せない。手品かと疑って見たが道化自身出来たから信じるしかなくなった」
『そのゲートはピエロ専用の魔法。詳細は行ったことのある場所に行けるってある』
「なら早速移動してみるか」
冬馬は目の前に黒い円形状の空間を出した。
「簡単に開くな……あとは、ほい」
近くにあった石を投げ入れるとポチャンという音がした。
完全な水音。冬馬がゲートに入ってみると村に行く途中にあった滝の側に出た。
「こいつは便利な魔法だ。1度でも行ってたら中が密室だろうと関係ない。盗み放題だな」
『怪盗として相応しい能力』
「あとは検証を繰り返せば戦いにも使える」
『戦うの?』
「そうなるだろうな。最初に防人に盗賊のワードを出しても不思議そうな顔をしなかった。つまりこの辺りには盗賊がいて旅人が襲われること自体珍しいことじゃないんだろ」
ハイドの言葉からも同じようなことが考えられる。
最悪の場合、村ぐるみで盗賊と繋がっているかもしれない。
「それよりも今は今後の予定だな」
『村の側に集落はなし。あったとしてもかなり大きな街。この規模なら大都市の可能性がある』
「なんにしろ、情報は重要だ。この世界の事とかお宝の事とかな」
『最重要だけど無理はしないで。ここからじゃ出来る事が限られるから』
「一度でも仕事を失敗したことはないと思うが?」
『魔法の概念がある世界で今まで通りの盗みが出来るとは思わないだから無理はしないで』
「分かったよ。母さんにもよろしく言っておいてくれ」
『了解』
冬馬はゲートを開くと村へと戻った。
「使うと中々便利なもんだな」
「ピエロ!」
突如後ろから呼ばれ冬馬は深く息を吐いた。
「なんだ」
「どこ行ってたんですか!急に居なくなったから置いていかれたのかと思いました!」
頬を膨らませて腕をブンブン振る26歳。身長は冬馬より小さいため知らない人が見れば可愛いのだろうが20代も折り返しを過ぎた成人女性がやっているとなるとかなり痛く見える。
「お前がのうのうと着替えてる間に情報を集めていたんだ」
「そうなんですか?なにか聞き出せましたか?」
「教えない。教えて欲しければ情報を寄越せ」
「ジャイアンですか!仲間にくらい情報提供してください!今は怪盗とか警察とか言ってる場合ではないでしょう!幸いここの人達は日本語なので日本の領地ということは判明していますが……」
つい先程否定された仮説を自慢げに語る残念刑事にため息しか出ない。
「私だって刑事ですから!これくらいの推理は出来るんですよ!」
「ならば答え合わせた。残念ながらここは日本ではない」
「そんな!でも日本語を……」
「話している言葉は日本語だが服装、家屋などから日本である可能性は皆無。怪盗の見解は以上だ」
「……私もそう思います……」
悔しそうに唇を噛み締めながら叶恵は言った。
「もっと考えてから発言するように」
「怪盗に負けるなんて……」
「怪盗から情報を取るんだったら先にそっちが情報を寄越せ。そしたら情報に見合った情報を渡そう」
「なら私にだって勝機はあります!」
自慢げに胸を張る叶恵。
「この村から近いのは最大都市の王都か水の都、水都です。先程服を下さったご婦人から聞きました」
「ならば王都へ行くぞ。情報がなにより優先される」
「分かりました。いつ出発しますか?」
「今すぐにでも出たいが……道化にはまだやることが残っている。だから明日だ。朝までに用意しておけ」
「分かりました!」
ビシッと敬礼をすると叶恵は家の中へと入っていった。
『やることまだあるの?』
「予定が決まったら能力の検証だ。攻撃は通すのかとかどれくらいの量を運べるのかとか色々検証し足りないものが多い。あのバカ刑事は触れなかったが盗賊がいる以上対抗策は必要だ」
『サポートする』
冬馬が来たのは最初に来た森。
「最初は攻撃を通すのかだ」
冬馬はゲートを出すと石をゲートに向かって全力投球した。
『裏からは出ない。ってことは攻撃は貫通しないね』
「これなら剣で刺されようが切られようが関係ないな」
『攻撃面はこれで終わり?』
「まさか、重要なのはこれからだ」
冬馬は新しく2つ目のゲートを出すと中からさっき投げた石が同じ速度で出てきた。
「ふむ......ゲートの中で速度を操作するのはやはり無理か」
『ゲートから石出してどうするの?』
「相手が攻撃した来たと同時に相手の首元にゲートが開ければ相手は自分で自分の首を斬ることになる。カウンターだな。だが、相手次第では避けられる可能性がある。不利となる可能性は潰して置きたいんだよ。あとは......」
冬馬はいくつものゲートを開いた。
『今度はなにするの?』
「いくつゲートが開けるのかの確認だ。いざってなった時に開けなかったら意味がないからな」
『今ピエロの側に開いているのは10つほど。増えそう?』
「いや無理だな。これ以上は開けない。魔力量の問題か工夫不足か......どちらにしろ限りがあるのは不便だな」
『もし無かったらチートだから。ずるだから』
「望んで手に入れたわけでもないのに後ろ指指される意味が分からん」
『今のネットはそんなもんだよ。自分で書けもしないのに『この作品はダメだ』とか『テンプレ過ぎて面白くない』とか好き勝手言うんだよ』
「世知辛い世の中だなまったく」
冬馬はゲートをしまうと次なる検証に移った。