第46話 地下での遭遇
「ここ何階層?」
「ジョーカー」
『14階層』
「結構降りて来たな」
『途中7階層辺りで道があったけど降りるのに夢中でピエロ、気がつかなかった』
つまりあのムカデは14階層から来たってことか。
中ボス倒したらそいつの色違いが出てくるようになる。RPGあるある。
『火薬もこの階層にあるよ』
「そうか。ありがとう」
冬馬はライトで照らされた明るい道を進んだ。
ムカデに捕食されたからか道中にモンスターの気配はなかった。
「静かだな。罠もないしモンスターもいない。いい場所だ」
『隠れ家にはもってこい』
「ピエロは静かなのが好き?」
「基本はな。あまりうるさい所だと耳が痛くなる」
「叶恵とか結構うるさいけど?」
「ああ、アイツの口には毎度ガムテープを張りたくなる」
「痛い?」
「いや、痛くない」
ゆっくり剥がせばガムテも痛くはない。髭が生えていれば別だが。
「今の面子じゃアシュが一番静かでいい」
騒ぐでもなく冬馬の邪魔をするわけでもないアシュを冬馬は偉く気に入っていた。
そのためアシュを贔屓してしまうこともしばしば。
「そう?嬉しい」
「そうかそうか。駒としたの自覚で出て来たな」
『おいロリコン。足元にある粉が火薬だよ。とっとと集めて衛兵に出頭して』
「怒るなって。駒を褒めることも主の務めだ」
『はいはい。犯罪者犯罪者』
60歳を褒めてロリコンと罵られる理不尽で矛盾だらけな世界。
火薬を渡された革袋いっぱいに詰める袋をゲートに入れた。
「よし、これで洞窟探索は終わりだな」
「うん......そうだね」
「もう少し奥まで行くか。少しくらい鉱石を取って置こう」
「うん!」
アシュは冬馬の袖に飛びつくとさっきの落ち込んだ顔とは打って変わって口元をほころばせにっこり顔だった。
『鉱石を取るって言っても分かるの?』
「多少は情報はあるが地球の鉱石と同じかどうかは分からない」
『しょうがないなー。ピエロの相棒であり右腕でもあるジョーカーが案内してあげる』
「そりゃどうも。アシュ、剣に使える金属は知ってるか」
「それくらいなら知ってる。アメジストやコロナタイトっていう鉱石。アメジストは紫色でコロナタイトは橙色」
「そうか。なら探そう」
アメジストなどの鉱石系はもっと深くの階層に向かう必要がある。
当然敵の強さは上がるし量も上がる。
少し無茶をしてもすぐに逃げることが出来る。それが冬馬の能力のいい所でもあった。
「ん、鉱石って結構どこにでも埋まってるんだな」
「でもどれも使い道がない鉱石ばかり。ダイヤモンドは高価だけど武器には使えないし魔法付与もしにくい。完全に装飾品」
「この緑の鉱石はなんだ」
「ジェードだね」
ジェード。たしか翡翠のことだったような気がする。5月の誕生石で成功と繁栄だったか?
あまり武具の加工には向かないのは確かだな。
『パワーストーンっていう物がない文化だから採掘されないのも納得できる』
「日本ならこんだけあればかなり儲けられるのにな。少しだけ持って帰るか」
「なにに使うの?」
「王都で世話になったイザベラとアマゾネにな。道化の村ではパワーストーンって言ってな、宝石には意味があるとされてきたんだ」
「アメジストとかにもある?」
「勿論、あまり覚えちゃいないがな」
「じゃあ、ジェードにも?」
「ある。成功と繁栄だったと思う。だから置物として置いているだけで効果があるんだ」
「ピエロ。物知り」
実際は八重のバックアップ受けて内政チートみたいな事してるわけだけどな。
内政チートする人達は自分の記憶だけで内政チートしてるから冬馬よりも記憶力はいいし情報に関しては強いと言えるだろう。
洞窟を進み、数十階層と降りる頃にはアシュは完全に疲弊していた。
「疲れた」
「かなり降りて来たからな。ま、次からはゲートで来れるから楽出来る」
「なにか......来る!」
ランプがない階層でいきなりの襲撃。よくある事であり、冬馬も当然知っていた。
なんなら、八重からの情報で人がいることは階層に降りた時点で分かっていた。
分かっている攻撃を避けられないほど馬鹿ではない。
「誰だ。道化の駒に手を出すのは」
アシュの数センチ前ではゲートが開かれ、何者かの腕が突っ込まれていた。
狙われたのは冬馬ではなくアシュだった。
誰だという声かけにも答えずゲートから飛び退く際の音から相手は手練れの暗殺者ということが分かる。
ただ相手の欠点は暗闇でも分かる、身に纏う赤いローブだった。
「真紅の暗殺者だったか。暗闇でもよく見える」
「む。失敗だった」
「なぜお前がこんな所にいる。暗殺者も武器の素材が必要なのか」
「違う。護衛」
「護衛対象置いてけぼりでいいのかよ」
「問題ない。ピエロは十分強敵」
「最強の暗殺者に強敵と言われるとは光栄だね」
言い合いをしながら声で相手の位置を探ろうとお互いに耳を澄ませるがゲートから声を出しているために居場所がコロコロと変わってしまう。
だがそれは視覚、嗅覚、聴覚などという人間本来の機能をだけに縛った場合の話。冬馬にはジョーカーという追跡のスペシャリストがいる。
『真紅の暗殺者。一歩も動いてない。ピエロから見て左11時の方向』
「そうか」
冬馬はゲートに手を突っ込むと発砲した。
暗闇で銃を撃つと爆薬の光で相手に居場所を知らせることがある。
機動隊など重厚な装備をしていれば普通に撃ってもいいが今冬馬は生身だ。一応防弾防刃素材の外套を羽織ってはいるが暗闇でアシュを狙われるのは危険。
そう判断したがための作戦だった。
ゲートを通り弾丸は真紅の暗殺者を襲った。
「......!」
「ほう。今のを避けるか」
「飛び道具。矢より小さく、速い。危険」
「正直、こっちも疲弊していてな。引くなら見逃す」
「いや、殺す」
前は空中戦。今は地中深くでの迎撃戦。
天井は5メートルほどの少し開けた広場で道化面と鬼面が睨み合っていた。
だがアシュが疲弊しているため魔法での援護はあまり期待できない。さらに、相手は1人で時空魔法の使い手。冬馬がアシュを守ろうとゲートを開いても躱される可能性がある。
アシュという駒を失いながらも戦い、首を差し出し賞金を手に入れるか、安全第一に逃げるか。
冬馬の答えはこの二択になった瞬間から決まっていた。
「ならばこちらが逃げよう」
「逃がさない」
「逃がさないのは結構だが。お足元にご注意を」
真紅の暗殺者の足元に転がって来たスプレー缶。
冬馬はそれに向けて発砲。
発砲による光より強い光と圧倒的な熱気と衝撃波が洞窟全体を駆け抜けた。
相手が怯んだその隙に冬馬はゲートを潜った。
「時空魔法に炎魔法?あり得......ない」