第40話 妹がガチギレしてます。誰か助けてください。
「やっと帰って来た」
「情報を集めて来ただけだ」
「なに集めてきたの」
「それぞれの国の関係と魔人について少しな」
「私には教えてくれないのにアシュちゃんには素直に教えるんですね」
「アシュはどっかの誰かさんみたいに馬鹿じゃないし主人のピンチに寝るような駒でもない。優秀な駒だ」
冬馬がアシュの頭を撫でるとアシュは冬馬にピッタリと抱き着いた。
『こんのクソロリが!今すぐそのロリにイヤホンして。大音量の高周波で脳みそぐちゃぐちゃにしてやる!さあ早く!』
八重嬢ご乱心。
ただ兄に小さい子がくっついてるだけじゃないか。
『それが許せない!八重もくっつきたい!そしてハスハスしたい!ずるい!』
もし冬馬と八重、立場が逆だったら相当やべぇ奴である。
14歳の妹の匂い嗅ぎたいとか犯罪者予備軍じゃなく完全に犯罪者。
『妹物のライトノベル見せて妹の素晴らしさを脳に焼き付けようとしてたのに!』
そんな恐ろしいこと言わないで。お兄ちゃんちびっちゃうから。
「落ち着けよジョーカー。夜道化のベットで寝てるのは知ってるんだぞ。声とか音質が微妙に違うからな」
『なんのこと?八重わっかんない』
「母さんにシーツとか洗濯するよう伝えてくれ」
『分かったー。伝えとくよ』
「やっぱり変わってくれ。自分で言う」
『八重がしっかり言うから安心して!』
相棒がここまで信用できないのは怪盗業は始めてから初めてのことだ。
「ピエロ?」
「どうした」
「んん。なんでもない。僕、眠いから少し寝ていい?」
「それは構わないが......なぜ道化の膝で寝る?」
「気持ちいいから」
「叶恵の方が足太くて枕にはちょうどいいと思うが」
「誰がデブですか!」
「言ってないから。アシュが寝たから静かにしろ」
そして耳元の愚妹も静かにしろ。
アシュが冬馬の太ももで寝始めてから馬車はゆっくり進んだ。
銃声を聞いたせいか盗賊たちの姿は見えず、呑気な動物だけが道草を食べていた。
「ピエロ」
「なんだ」
「ピエロはどうして怪盗を続けるんですか?ピエロほどの頭があれば教師でも研究者学者なども向いてるでしょうし動くのが好きならその道のスポーツも出来ると思うんですよ。怪盗に固執する理由がよく分からなくて......」
「道化が怪盗を止めたら、誰が盗品を持ち主に返すんだ」
「......ピエロってそういう怪盗キ〇ド的な怪盗なんですか?」
「そうだ」
確かに、後々になって調べてそうだった結果はある。だが、盗むものは世界的に有名、または馬鹿な持ち主による挑発。
その挑発に乗り冬馬は盗みを成功させている。
盗んだ結果、盗品だったことが分かり持ち主に返したことは何度もある。
「そういうのって大変じゃありません?」
「ほう。なぜそう思う」
「だって、宝石とか貴金属って軽くてどこにでも持ち運べるじゃないですか。例えば、日本でピエロが盗んだものがアメリカの誰かの持ち物だったりするわけですよ。その時も返しに行ってたんですか?」
「さあな。どうだろうな」
「そういう秘密主義なところ、ピエロらしいですね」
「......たまたまアメリカに盗みに行けば返してた」
冬馬が答えると叶恵は目を大きく見開いた。
「なんだ」
「ピエロが教えてくれるとは思わなくて」
「ま、本当かどうかは道化のみ知るところだがな」
この一文を付け足すことで本当か噓か分からなくなる不思議。
「素直じゃないですねー」
叶恵は寝ているアシュを撫でると元のサイズに戻ったシープに乗り馬車に並走した。
長いと思われた馬車も2日が経てば終わりが見えてくる。
「デカい山だな」
「この中に街があるのよ。それも大都市がね」
「僕、地下帝国には行ったことない」
「アシュはないのか。魔族でも入れるはずだが」
「地下帝国は遠い、バルの体がもたなかった」
そうか。アシュはバルと一緒にいたから行先はバル次第だったのか。
「なら、存分に楽しめ。道化が職人を見つける間、叶恵とメアとな」
「まーたアタシ達置いてけぼり?主人としてどうなの!」
「なら首輪してリードつけて四つん這いでついてこさせようか」
「そこまでされると嫌だけど。でも、不安なの」
「不安?不満じゃなくてか」
メアは頭を悩ませ途切れ途切れに言葉を話した。
「不満というか不安というかって感じ。このメンバーで一番火力があるのはピエロなわけだし。か弱い女の子を守れるのもピエロだけなわけよ。だから......ね?」
「火力なら叶恵の方がある。道化は強化も出来なければ防御壁を作ることも出来ない。相手の攻撃を利用して攻撃するしかない。それのどこが火力があるというんだ」
なんならこの中で一番火力が不安定と言っていい。
相手が剛腕ムキムキのパンチなら強く。幼稚園児ならば弱くなる。攻撃力が不規則とか誰も使わない。
魔神斬りでももう少し倍率は高い。
「なにが言いたい」
「メアはピエロと一緒に居たい。寂しがりやだから」
「アシュ!余計なことは言わなくてもいいの!別に寂しくないし!怖くないいし!ただピエロの仕事ぶりを見てみたいなーっていう好奇心で......」
「そうか。寂しいのか」
「なにがそうかよ!なにも分かってないじゃない!」
「そう吠えるな。今回は職人を探すだけだ。フードを被るなら道化と共に行動することを許そう」
「それでいいわ。連れてって」
「僕も一緒にいい?」
「ああ、いいぞ」
「じゃあ私も!」
「お前はダメだ」
「なんでですか!」
「騒ぐから。うるさいから」
「静かにしますから!」
腕に泣きつかれ振りほどこうとしても案外握力が強い。
外套が鼻水などで汚れるかうるさい叶恵を連れて行くかの二択。選択肢がこれしかないとかなんてクソゲーでしょう。
「分かったから放せ。外套が汚れる」
「分かりました。連れてってくださいね」
「クソが」
「そろそろ入り口よ」
メアに言われ前を見ると馬車は山の中へと入るところだった。