第3話 魔法
村の中に入るといくつかの住居と物珍しさで数人の村人が家から顔を覗かせていた。
「長、旅人を連れてきた」
「旅の者……なに分年寄りの身でな……迎えに行けずに申し訳ない」
「それは構わないが……ここが村長の村か」
「そうじゃよ。人数はいないが森に囲まれて平和な村じゃ」
「家屋は全て手作りか」
「旅の者なら各地の家屋を見てきたでしょう。この村は見ての通り男手が少なくそう頑丈な家屋は作れないのじゃよ」
「別に不便がないならいいんだ。それより少しばかり服と靴を分けて欲しい」
「それくらいなら構わんよ。すぐに2人分用意させよう」
「いや、用意するのは彼女の分だけで十分だ。道化はこの服が1番動きやすい」
村長は近くの村人に声をかけると女村人が叶恵を連れて行った。
「さて、ジョーカー。おかしな所があったな?」
『矛盾が凄い』
「村人が話すのは日本語で且つこの家屋。おかしいな」
『もしここが日本ならこんな木を組んだ程度の家なんて台風か地震で崩れるよ』
「だよな……日本は島国だから無人島と思われているだけ島かとも思ったが、それじゃ家屋の説明がつかない。日本近郊の海なら地震はあるし村人の服装を見るに北の方の島じゃなさそうだな」
『かと言って南だと台風の餌食に……あと興味深いモノが見つかった』
「なんだ」
『これ見て』
八重から送られてきた画像には色んな文字が書かれていた。
「えーっと。Hが水素でNが窒素だったか?まあ、日本の東京とほぼ変わらない空気成分だがそれがどうかしたか?」
『じゃあ、村人の周りの空気を見せるね』
また八重から送られてきた画像にはさっきと同じ光景に村人が写っている画像だった。
そこに不可解な文字が一つ。
「ん。この村人の周りの「Fan」の元素記号はなんだ」
『それが謎なの』
「フェルミニウムじゃないか?確かそんな元素があったはずだ」
『確かにあるけどそれは高濃度の放射能の元素だよ。もしそんなのが空気中にあったらピエロ達は死んでる』
「そらそうか。ならこの元素が示すモノはなんだ」
『今元素記号のページを見てるけどそれらしい元素はないんだよね』
「なら化合物とか?」
『空気中で化合するならもう全部の元素がこの元素になってるよ」
冬馬と八重は頭を悩ませた。
日本語を話す明らかに日本人ではない村人、日本の領地でありながら日本の気候をガン無視した家屋、地球の少なくとも日本にはない元素。
不可解な事が多すぎだ。
『ピエロ。村人に聞いて欲しいことがある』
「なんだ」
『魔法を見せて欲しいって言ってみて』
「はぁ?魔法だぁ?そんなのあるわけ……」
『聞いてみなきゃ分からない。もし魔法という概念があるなら電子機器が村にないのも納得が行くしなにより、この先の仕事に影響がある』
「それもそうだな」
冬馬は模擬戦をしている村人達に声をかけた。
「模擬戦中の所すまない。少し魔法を見せてはくれないか?」
「なんだ。見たことないのか?魔力なんて誰でも持っているものだろう?」
「道化も彼女も魔力の使い方が下手くそでな。まともに使えないんだ」
「そうなのか。ならばこの村で少し勉強して行くといいオレはハイドだ」
「ピエロだ。魔法の事は知っておかないと不便だからな。助かる」
『ね?魔法の概念があったでしょ?』
「ああ、びっくりだ」
「魔法のことはどこまで知ってる?」
「全くの無知と思ってもらって構わない。なにせ小さい頃から使えなくてまともに勉強してこなかったんだ」
「そうか。ならここから話そうか。魔法には攻撃と補助の2つがある。攻撃はそのまま相手に攻撃するための魔法だ」
ハイドはそう言うと木の人形に向かって火の玉を放った。
「基本的にはこの威力だが威力は人によって違う。それと使える属性も違う」
「火以外になにがある」
「水、氷、雷、風、土、光、闇だったかな。おれは火しか使えないが中には3つ使える者も居れば全て使える者もいる。まあ、全て使えるのは魔族の中でも極一部で人間では存在しないけどな」
「ふむ……魔法の威力は人によって違うと言ったが最大でどのくらい出せる」
「そうだな……王国の王城で働くお偉いさんなら街一つを吹き飛ばせるくらいか?辺境の村暮らしじゃ見たことはないがな」
ハイドは顎髭をさすりながら言った。
「魔法の撃ち方についても教わっておきたいだがいいか?」
「それは構わないが……ピエロの属性が火じゃないと教えるのは無理だぞ」
「どの魔法にも共通していることでいい。個々の属性の撃ち方は自分で覚える」
「そうか。じゃあまず火をイメージしろ。なんでもいいが自分が出したい威力の火をイメージするといい」
出したいイメージ。マッチ、ライター、コンロ……ガスバーナー。
イメージすると冬馬の手から真っ直ぐに火が吹き出した。
「うお!熱……くはないんだな」
「なんだ出せるじゃないか」
「初めてだ。昔はどんなにイメージしても出なかった」
「もしかすると火以外の属性を考えたんじゃないか?」
「そうだな」
冬馬は適当に合わせた。
「適正じゃない属性をイメージした所で出ないからな」
「なるほど。だが……疲れるな」
冬馬は体の気怠さを感じていた。
「慣れない魔力回路に魔力を通したから体がビックリしてんだな。ま、数回使えば慣れると思うが無理はするなよ」
「ああ、ありがとう。それじゃあ補助魔法について教えてくれ」
「無理はするなと……まあオレは補助魔法が使えないから口頭になるぞ」
「構わない」
「……補助魔法ってのはその名の通り自分もしくは味方を補助するための魔法だ。相手の速度を上げたり、力を強くしたり、用途は様々だが旅をするなら使える者が1人いた方が格段に楽になる」
「魔力切れを起こすことはないのか?」
「勿論ある。ただ普段から魔法を使っている者は自分の限界が感覚で分かるらしいから魔力切れを起こすことは殆どない。その前に使うのをやめるからだ」
「魔力切れを起こすとどうなる?」
「しばらく魔法が使えないのと疲労で動けなくなる者もいるな」
魔力切れが今の所の課題だな。魔力タンクとなる味方が欲しい所だが……。
「魔法のことは大体わかった。助かる」
「良いってことよ。もし旅の途中で近くに来たら寄ってくれ。そして旅の話をしてくれ。オレは村で数少ない男だから外には出られないが助けたやつが旅の話を持ってくるのがなによりの楽しみなんだ」
「お人好しだな」
「この村全員そんなもんだ。よろしく頼んだぞ」
「いつかな」
ハイドと別れた冬馬は森へと向かった。




