第35話 積極的な有志による断罪
昼。太陽が高く上っているなか、冬馬は磔刑に処されていた。
事の発端は朝、冬馬達が出発しようとしている時に起こった。
「この寝坊魔は......」
「なにをそんなに急いでいるの?まだ日は登ってないわよ?」
「気配」
魔力に適性にある魔族なだけあって魔力察知はお手の物か。
「相手が夜明けまで待ってくれるような優しい奴らだったら良かったな」
「?」
わけが分からないと首を捻るメアをよそに宿屋の扉がノックされた。
「仕方ないか。どちらさんで」
「怪盗ピエロ。女王陛下及び重要人物誘拐で身柄を確保させてもらう」
「ちょっと!どういうこと!」
「陛下。お許しを。ここは水都カリン。全ての決定権はアメリア様がお持ちなのです」
「だからって!アタシは好きでついて行ってるの!誘拐なんか断じてないんだから!」
「申し訳ございません。よし、つれていけ」
冬馬の手には手錠よりも武骨な木の手枷をされ連れていかれた。
「もー!頭硬いんだから!こうなったらリアに直談判!アシュ!行くわよ」
「うん。分かった」
未だに寝ている叶恵を放置しメアとアシュは領主宅へと向かった。
回想終了。
で、今の今までここにずっと磔にされているわけ。
ジョーカーがいるからそこまで寂しくはない
『やーい。捕まってやんの』
「俺が捕まる度に言ってるよな。これが初めてじゃないだろう」
『捕まるなんてダサい。しかも逃げもしないで大人しくついて来ちゃって』
「これは怪盗ピエロのスタンスだ。売られた喧嘩は買う。そして完膚なきまでに叩きのめして力の差を見せつける」
『オスカー・クラディウス』
「あれは別だ」
オスカーをあの場で殺すのは勿体ない。
いざとなった時のメアの護衛にもなるしなああいうタイプは。
「しっかし暇だ」
『可愛い妹がいるじゃない』
「それは大いに助かってるんだが一向に処刑されないんだ。魔法の練習をしようにも魔封じの枷で魔力を使えなくされてるしな......俺がここに磔られてから数時間が経過してもなにも起こらない」
『あの女王が掛け合ってるんだよ』
「そうか。んじゃ、繋いでくれ」
『不満。人に頼むときはどうするの』
「八重、大好きだ。だから繋いでくれ」
『今すぐ繋ぐね』
妹の将来が心配。
まあ、怪盗を一緒にやってる時点であまりいい方向には進まないだろうけど。
耳元からノイズがして次第に声が鮮明に聞こえてきた。
「だから!あのピエロ面の怪盗はアタシの部下なの!今息抜きの旅行の途中なの!」
「お言葉ですが陛下。女王ともあろうものが怪盗などと一緒に居るのはいかがなものかと思いますが」
聞こえて来たのはメアの声とジジの声、そして映像からはメアとアシュ。アメリアとジジが確認できた。
「そんなのアタシの勝手でしょう!実際に彼女はなにも盗んでないわよ!」
「ですが水都のみならず各都市に女王陛下が誘拐されたとの速報が届いております」
ジジが取り出したのは一枚の手紙。
冬馬が設置したカメラの位置では内容までは分からないが話の流れからしてオスカーが送った誘拐の件だろう。
「そんなの嘘っぱちに決まってるでしょ!こうしてアタシがこの場にいるんだから!」
「ですがこれは公爵様であるオスカー・クラディウス様の印、遊び半分とは考えにくいのです。こうしてお話しておられる陛下に洗脳や脅しをかけ無理矢理している可能性も我々は考えなければならないのです」
「だ・か・ら!アタシは洗脳もされてないし変な脅しもされてない!さっき洗脳除去の魔法使ってたでしょ!」
「お話になりませんな。そこまでいうならあの怪盗が安全だという物的証拠をお見せいただきたい」
「物的証拠?なにそれ」
裁判なんて法的なものがない世界。カメラもなければ録音装置もない。そんなんで物的証拠と言われてもすぐには出せない。
だが、冬馬の無実を証明するのは実に簡単である。
少しの間だが冬馬と旅をしたメアとアシュがいる。「それじゃあ短い」というならば叶恵を連れて来ればいい。
叶恵は日本から冬馬と睨み合う仲で本当なら敵同士だが彼女の体は至って健康体で傷一つない綺麗な体をしている。
敵を傷つけずに一緒に居られるなら敵対していないメアやアシュに手を出すこともない。
が、メアにはそれが分からないのだ。
「証拠ならある」
「ほう。魔族風情が一体なんだと言うんです」
「僕たちが証拠。旅をしてきたけど一回も暴力を振るわれたことはない。むしろ、魔族の僕にもめ、メアと同じように接してくれる優しい怪盗」
『罪な男』
照れるぜ。
『照れるな』
「魔族など所詮捨てられないように媚びへつらっているだけでしょう」
「ちょっと!アシュのこと悪く言わないで!これ以上アタシ以外を侮辱したら本当に怒るから」
「申し訳ございません。既に処刑せよとの指示は出しているのです」
「いつのまに!」
「ああ、失礼。出してはいません。積極的な有志による断罪です」
メアとアシュが窓際へと近寄ると屋敷からはうようよと動くものしか見えなかった。
冬馬の周りには水都の住人が槍だの剣だのを持ってもの凄い顔をしていた。
「いやー。道化は人気者で困るなー」
『その数はまずい。お兄ちゃんのゲートは最大でも10つしか開けない。それ以上で攻撃されたら死ぬ』
「そうなったら水の駄女神に転生させてもらおうか」
『八重はエリス様がいい。駄女神はなんか適当になりそうだから嫌だ』
「中の人は凄い可愛いのにな」
冬馬は八重と声優議論を繰り広げてる間に住民たちは徐々に迫ってきている。
「お、お前が浜辺で騒ぎを起こした奴か!」「どうなんだ!」「答えろ!」
「暴れたのは別の奴。暴れさせたのは道化だ」
「やっぱりお前が浜辺を荒らしたんだ!」「アメリア様が守る大切な海を穢したんだ!」「大罪人には死を!」
「待て待て、さっきも言ったろ、暴れたのは別の奴だって」
「それはそうだが......」
「暴れさせたのは道化だが自分で片付けた。道化が処刑される理由はないはずだ」
どういうわけか今にもとびかかってきそうだった住民の熱意は急低下。
ざわざわと困惑が広がっていた。
「皆さん!この怪盗に騙されてはいけません!」
声と共に壇上に上がって来たのは3人。
イケメンとパステルカラーの兎と長靴をはいた猫。
なにこいつら、サーカス団かなにかか?