第32話 温暖な気候で吹雪という地球温暖化も真っ青な天変地異
「回り込め!おれは砂の壁を崩す!」
「どうするのピエロ」
「簡単な話だ」
「燃え死ね!」
冬馬は魔法をゲートで飲み込むと砂の壁を崩した。
「この!」「もらった!」
「違いの首をな」
男達の刃が通ったのは冬馬の首ではなく、お互いの首だった。
ごとりと首が地面へと落ち体は崩れ落ちた。
「なんだ今の魔法!風か!」
「どうだろうな」
「風ならおれも使えるんだよ!」
男は負けじと風を纏い砂埃が辺りに飛び散った。
「アシュ。離れておけ。道化がこいつを殺すまで」
「その威勢木っ端微塵に砕いて!おれの肉便器にしてやるよ!」
いくつもの風の刃が飛んできたが見える。
通常、風なんて見えない。だからこそ風は属性の中で強いとされている。
だがそれは人間対人間の争いでの話であって獣人は気配察知が出来魔族は魔力の流れでなにをしようとしているのか丸わかりだという。
では、その種族特有の長所を人間同士の争いでどちらかに付与したらどうだろう。
人間にこれといった種族的アドバンテージもなくただポカポカ殴り合うだけの戦いは一気に蹂躙へと変わる。
「魔法を2つも使いこなすとはよほど有能な血筋らしい」
「そうだ!あの公爵家のオスカーとも知り合いだ!おれはまだ伯爵の地位だがいつかはオスカーを抜き去る!」
「なにか鍛錬でもしてるのか」
「鍛錬?必要ない。必要なのは血筋だ!優秀な血筋で魔法の適正が決まると言っても過言ではないんだからな!」
だからお前はオスカーに勝てないんだ。
たしかにオスカーは氷の魔法しか使えない。魔法の血筋は薄かったんだろう。だが公爵という地位に甘えず自分で鍛錬を積んでいた。
俺と戦ったのだって魔族の脅威からメアを守るためだ。相手が時空魔法を使いどう考えても不利な状況でもオスカーは戦いきった。だから殺さなかった。
怪盗ピエロにとって有益な人間だから。
「オスカー・クラディウス。たしかにあの男はいい男だ。だが魔法適正が足りない」
「な?そう思うだろ?」
「だが能がないバカよりはいい男だ」
冬馬は殺しより挑発の方が得意である。
人と会話する中でコンプレックスやイラッとする事を見つけるのが得意でそれを利用して相手を怒らせたり励まして懐柔したりするという人心把握が冬馬の得意事項なのである。
「は?」
「だってそうだろう?血筋だけを重視して伯爵としての態度も言葉遣いも女への敬意も全て足りない。魔法の練度は高くはなく道化の刀でも両断出来るレベルだ。オスカーの氷は刀で斬ったら刀が折れるほどの強度だ。魔法の数では劣っていてもオスカーは一つ磨く事で実践でも使える程の強度と性能を生み出した。つまりだ、お前がオスカーに負けるのは必然でありなんら不思議なことじゃない。そして、お前は一生オスカーには勝てない」
自信たっぷりの人の自尊心を真っ向から否定してバキバキに折るという中々にえぐいことを軽々と冬馬はやってのけた。
「お、お前になにが分かるってんだよ!貴族でもない平民が!知った口を聞くな!」
「そうやってすぐ激昂して怒り出すのも能がないのを証明するようなものだ」
「クソが!」
顔を真っ赤に染め男が魔法を飛ばすが魔法なんて遠距離の攻撃は更に冬馬を調子に乗らせるだけだった。
「どうした。この男どものようにお前も剣を握りしめ戦いに来い。いつまでチキン戦法をしているつもりだ。道化に魔法が効かないのは分かっただろう」
「うるせぇ!もういい!この場にいる奴全員死ね!死ねよ」
男は身体中から炎を吹き出し炎天下に拍車がかかる。
「メア、叶恵とアシュを守れ。ガード次第では火傷じゃ済まないぞ」
「それはいいけどピエロはどうするの」
「止めるしかないだろ。アメリアの仕事を増やす事にはなるかもしれないが」
この世界において貴族を殺すというのは日本でいう政治家を殺すようなもの。だが民主主義なんて何世紀も先の時代の政治体制が整っていない世界ならば貴族だろうと殺しても問題はない。
どうせ生かしておいてもロクな事しないだろうしな。
「コロス……コロシテヤルゾ!」
完全に魔力に呑まれた男が火だるま状態となり火の玉を飛ばしてきた。
「魔力に呑まれても考えはそのまんまか。いい情報だ」
冬馬はゲートで火の玉を飲み込んだ。
『攻撃しないの?』
「ジョーカー。火事を消すのに火は使わないだろ」
『炎炎の……』
「あれはそういう世界感だから。太陽神の加護なんて持ってないから。て
あの人達は炎人を倒すのに火を使ってるだけで火を消すのは普通に水だからな」
『じゃあどうするの』
「ここは水都。水が大量にある都市だ。なんなら俺の目の前にも水がある。こうすれば万事解決」
冬馬は男の足元にゲートを開くとそのまま海へと捨てた。
じゅうっ!という水が蒸発する音と共に海に穴が空いた。
「ふむ、海の水じゃ足りないか」
『多分水じゃ足りない。もっと冷たいものじゃないと』
「そうか。アシュは補助魔法しか使えない。メアは防御で手一杯、俺は魔力量が少なくて危険」
またしても冬馬は自身のパーティの欠点を見つけてしまった。
主力となる戦力がいないのだ。
冬馬の能力は使い方次第でかなり化けるがそれも相手次第。
ポケットのモンスターでも同じ属性は「効果はいまひとつのようだ。」というテキストと共にあまりダメージは入らない。
レベル差や種族値などでダメージは変わるが今の状況はじめんタイプの敵にでんきタイプで攻撃しようとしているのと同じ。
詰まるところ、『いまひとつ』ではなく、『効果がない』というようになる。
ポケットのモンスターなら火に水は効果抜群のはずなのだが肝心の水すらも効果がない状態。
「こいつは困った」
「シネシネシネ!」
「ジョーカー。なにかいい案はないか」
『逃走する』
「どこにだ。連れ去ったメアと共に王都に戻れと?即死罪待ったなしだぞ」
『戦いない今は撤退するしかない』
「それもいいが、一つだけなら俺にも考えがある。あまり使いたくはないが」
冬馬はメアの方をチラリと見るとシープを抱え心配そうに冬馬を見る叶恵の姿が目に入った。
「叶恵!吹雪をイメージしろ」
「なんでですか!今はそんな場合じゃ.....」
「やらなきゃ全員お陀仏だ!」
「分かりました!やりますー!」
「アシュは叶恵を強化だ」
叶恵に魔法を使われるのはかなり厄介なのである。
魔法による攻撃、及び補助は物理的に破る事は不可能で魔法には魔法で対抗する必要がある。
だが叶恵の魔力は常人のそれとは違い、魔族であるアシュですら抵抗するので精一杯なほど。
それを魔力が貧弱な冬馬に向けたらどうなるか。
主人と駒の立場が逆転してしまう。
そうならないために今まで魔力の使い方を教えないで来たのだ。
『気をつけて、物凄い勢いで気温が下がってる』
「この温暖な土地で吹雪とか地球温暖化も真っ青な天変地異を見せてやるよ」