第22話 駒志願2
メアとの夜の散歩を終えた冬馬は宿屋へと飛んだ。
「でも王家の宝はアタシなわけだし、盗まれるのは確実?」
「さあな。宝石がないレックレスがただの紐同然なように女王としての価値を失ったメアはただのゴミだ。そこんとこ覚えておけ」
「ゴミって酷い言い草ね」
「それが嫌なら道化の駒は無理だ……ん?」
「どうしたの?」
メアを送ってベットに近づいた冬馬は自分のベットのタオルケットが膨らんでいる事に気がついた。
叶恵はちゃんと自分のベットで寝ているしシープもその側。
2人部屋に3人いて全員の所在は分かっている。
だとしたら4人目がいることになりその4人目は侵入者なのは確実なのだ。
「道化の寝床を占拠する馬鹿者は誰だ。姿を現せ」
「んん……ピエロ……」
タオルケットから聞こえた声は意外にも幼く無防備だった。
「アシュ。なんで道化のベットにいる」
「相談?お話?がある」
「明日にしろ。今日はもう遅い」
「今がいい。昼は人が多いから」
「……分かった。聞こう」
アシュの我儘を受け冬馬は再びゲートを開いた。
やってきたのは王城の屋根の上。空を飛ぶか人間離れした身体能力が無ければたどり着くことが出来ない場所。
「で、話ってなんだ」
「僕をピエロの駒にして欲しい」
今度は直球ストレートで飛んできた。
「なぜだ。アシュにはバルがいるはずだろ」
「バルはいい人でも老い先短い」
「まあ、確かにそうだな」
「バルが死んだら僕の居場所はない」
だから他に居場所を作ろうと言うのだ。至って一般的な考え。
「どうして道化なんだ。行商人なら他に頼れる人物がいるだろ」
「いない。バルが行商人に会う時は馬車の中だった」
「そうか。他に頼る人がいないと」
アシュはコクンと頷いた。
「駒になるってことは言いなりになるってことだぞ」
「それでもいい」
「囮になるかもしれないんだぞ」
「それでもいい」
「資金が苦しくなったら奴隷商に売るぞ」
「それでもいい」
ここまで言ってもいいとは。謎だな。バルが老い先短いと言ってもアシュは魔族。1人で戦う力は十二分にあるはずだ。
確かに魔族とい言う立場があるから街へは入れず食料も調達出来なければ宿屋もない状態だから当然の考えなのかもしれない。
「魔族と共に行動するということは道化にもリスクがある。ただで連れて行くわけにはいかない」
「どうしたら連れてってくれる?」
「宝としての価値があれば道化の方から盗みに行く」
「宝としての価値?僕は宝石とか持ってない」
「価値だって言ったろうに。アシュがアシュしか出来ない事があればそれは宝としての価値がある。ということだ」
「お金にならないのに宝なの?」
「ああ、直接はならないけど使い方によっては大金を生むことだってある。しかも一時的ではなく永続的にな」
ただ問題があるとすればアシュは魔族でその能力が活かせる場所が極端に少ないということだろう。
「僕の価値……ないよ」
「ないければ連れていけない。あれば連れてってやる」
「……分かった。探しておく」
「もし見つかれば道化の名前を呼ぶといい。それじゃ帰るぞ」
「待って。少しお話がしたい」
「もう夜遅いんだぞ」
八重はとっくのとうに寝てしまって今の時間は酒飲みすら寝てしまっている時間。
徹夜耐性があるとは言え叶恵の前で寝ることは出来ないし冬馬にはやることが山ほどあるのだ。
だが……
「まあ、ここ最近働き過ぎたな。明日は少し休むとしよう。だから話は明日でいいな?」
「……分かった。明日は一緒にいる」
「よし、今日は帰るぞ」
「うん」
冬馬は足元にゲートを開くと宿屋へと飛んだ。
「うし。それじゃあまた明日な」
「また明日」
アシュは部屋から手を振って出ていった。
「疲れた……」
冬馬がベットに寝っ転がると横から暖かい感触があった。
「こんのクソ刑事が……」
ベットの間には隙間があるにも関わらず叶恵は冬馬のベットへと潜り込んできたのだ。
「ピエロ……えへへ」
「これがあと10歳若かったらよかったのにな」
26歳の寝顔には男冬馬もなにも感じなかった。