第19話 メアの息抜き?2
定食屋を後にしたメアと叶恵は王都の街を歩いていた。
「街って初めて来たかも」
「え、女王様なのにですか?」
「女王だからよ。小さい頃は街に出ること自体禁止だったし今は街に遊びに行く暇もないわ」
日々公務に追われる女王は窓から外の景色や街の喧騒を聞くことは出来ても実際に行くことは出来ない。
街は危険だしなにがあるか分からない。街を平和に保つのが仕事なのに平和かどうか調べられないというなんとも皮肉がきいた地位なのだ。女王とは。
「抜け出してる間はどうしてるんですか?」
「お母様がいるし大半のことはアタシに通さなくてもいいと言ってあるわ。4日くらいアタシが抜けても問題ないわ」
「そうなんですね」
「ま、今見つかったら処刑されるのは叶恵だけど」
「……大丈夫なやつですか?」
「あそこに連れてかれて即処刑。ついでに公開処刑」
メアが指差す先には広場がある。
なんてことない広場、噴水に花壇と椅子がある普通の広場。
「広場のど真ん中でやるんですか?」
「あそこ、下に処刑場があるの。魔法陣を起動すると出てくる仕組みね。昔はそんな下に隠すとかまどろっこしい事しないで野ざらしだったらしいけど、お祖母様が女王になった時に隠したのよ」
「へ、へー。そうなんですね」
「安心なさい。叶恵の首が切られたら切った兵士の首も切ってあげる」
「そんな弔い合戦みたいなことしないで普通に助けてください」
「ピエロが助けてくれるでしょう。こんな良物件をピエロが逃すとは思えないけど?」
「え?」「え?」
お互いにお互いの意味が分からないとでも言うように叶恵は首をひねるだけだった。
「私が良物件?」
「アタシは少なくともそう思うけど?ピエロの性別は不明だけど男だったらまず逃すような体つきはしてないし女でも魔力お化けの叶恵を逃すとは思えない。どちらにしろ大事にされるわよ」
叶恵は今までの冬馬の行動を振り返った。
・異世界に飛ばされた直後に手錠で拘束され拳銃を向けられる。
・ヒールのまま森を歩かされる。
・崖からダイブさせられる。
・村についても放置。
・肉食の羊の前に放置。
・王都に着いたかと思うと放置。
・女王の前に連れてかれたと思ったら火の玉飛んでくる。
大事にされてるんでしょうか。
「大事にされてるんでしょうか……」
今までのことがあるだけに叶恵は自信をなくしていた。
ヒールのまま森を歩かされるのは仕方ないとして、崖からダイブとか肉食羊の前に放置とかは冬馬の匙加減で調整出来たはずだ。
なのにそれがなかったということは死のうが生きようが関係ない駒なのだと叶恵は思っていた。
「実はですね。私とピエロは元々は敵同士で今はわけ合って協力してるんです。かなり一方的ですけど」
「へー。よく疑いもせずに敵と組めるわね。アタシだったら怪しさ全開だし信用出来ないわよ」
「私だってピエロを信頼してるわけではないですが……メアはピエロと最初に会った時に疑わなかったんですか?」
「凄く疑った。けど無駄だってすぐに気がついた。女王を前にしてピエロが欲しがったのは情報だけ。身柄でも権力でもなく情報よ?おかしいと思わない?」
冬馬から言わせれば身柄なんて重さがあってうるさいだけの不要物なのだがメア達にとってはそれが一番不可解なのだ。
「おかしいことですか?」
「おかしいでしょう!情報なんて情報屋から普通に買えるしわざわざ王城に忍び込んでまで情報だけを聞こうとしないわよ。見つかって下手をすれば国家転覆罪で死罪よ!?」
「変なピエロですね」
「ほんと。変わってるわ」
メアと叶恵はお互いを見て吹き出した。
「アタシも女王を辞められたらいいのに」
「どうやったら交代なんですか?」
「そうね……お母様が弟を産むか、アタシが男の子を産むか、アタシが結婚して相手に国王になってもらうの3つかしらね。と言ってもお母様は病の身だしアタシの結婚相手なんていないから無理ね」
「女王様って難しいんですね。仮病を使ったりは出来ないんですか?」
「仮病を使っても王城の魔法使いに回復されてお終い。アタシが逃げるには馬よりも速く走って逃げる必要があるわ」
いくら魔法がある世界でも魔力量に限度がある。
一時的には馬より速く走れるだろうが魔力が切れればそこで捕まる。一般的な馬なら撒けるだろうが公爵や女王など地位の高い人が乗る早馬には到底敵わないのだ。
「自由な叶恵はまだいい方よ」
ため息をつくメアの前に猫耳の大男が立ち塞がった。
「なにあんた」
「失礼。女王陛下の命により探し人をしておりましてフードを外して貰えるだろうか」
「いやよ」
「理由を聞いても?」
「無愛想な男に顔を見せる気はないの。正式なものならまず名乗ったらどうなの」
「王国騎士団長、ビルマだ」
やはりとメアはフードを深く被った。
「騎士団長自ら出るなんて余程な御人がいなくなったのね」
「まあそうだな」
「誰が居なくなったんですか?」
「それは「秘匿にせよ」と陛下から仰せつかっている」
そもそもメアが居なくなっているのだからメアの命令とは考えられない。
騎士団が動くには女王陛下の命令とした方が動きやすくはあるがまさか捜索中に女王を見つけるとはビルマも思っていなかっただろう。
「ビルマ騎士団長。貴方が女性に声をかけるのは控えてくださいとアレほど言いましたよね?」
ビルマの背後にはメアの側付きで黒髪のメイドが真っ直ぐと立っていた。
「しかしだな……」
「しかしもなにもありません。いくらでさえ体が大きく無愛想なのです。今この場で叫ばれたら奥さんにも聴こえてしまいますよ」
「それは……嫌だな」
この一言でビルマ夫婦の上下関係が分かるという。
「ではビルマ騎士団長は男性に聞き込みをしてください。彼女たちはわたしにお任せを」
ビルマを退散させるとメイドはメア達に向き直った。
「2人ともこっちに来い」
メイドは口調を変えると路地裏にメアと叶恵を連れ込んだ。