第18話 メアの息抜き?
ピエロはあんた簡単にお父様の死んだことを話した。
魔法や冒険があるこの世界で人が死ぬことは珍しいことじゃない。例え王族でも例外ではない。アサシンや狙撃、ウェルのように遠征中に死ぬことだってある。
ただ死んだだけなら諦めも付くがウェルは殺された上に食べられたという。
それがショックだったのだ。
「魔族って人を食べるんですね」
「魔族は基本人は食べないわ。でも古くからの教えがある魔族は食べたりする」
「そうなんですね......ピエロが言ったことは気にしないでゆっくり心を落ち着かせればいいですよ」
「そういうわけにはいかないわ。アタシは女王だもの」
「でもあまり無理はしないほうがいいですよ。あまり無理すると壊れてしまうもの」
「それはピエロに行ってあげなさいな。ここ最近動きっぱなしでしょう?」
「そうですね。夜は私が寝てから帰ってきて私が起きると同時にでていきますね」
冬馬が休むのは決まって夜だけ。それ以外は基本潜入したり王城に忍び込んだりしている。
しっかり怪盗として働いている。
「じゃあ少し街に出ましょうか。服借りるわね」
「それはいいですけど......ピエロに無断でいいんですかね......」
「別に部屋に居ろとは言われてないしアタシがどこにいようが関係ないでしょう?」
「それはそうですけど......」
「それじゃあ、行くわよ」
メアは叶恵の手を引っ張ると勢いよく宿屋を飛び出した。
「行ってらっしゃいです」
「い、行ってきます!ちょっと早いです!」
チェリに見送られメアと叶恵は王都の街に繰り出した。
「さて、どこから行きましょうか」
「お腹減ってませんか?」
「そうね。ここ最近はあまり食べてなかったからちゃんとしたものを食べたいわ」
「私が行ったことあるお店なら案内しますけど.....でも、女王様に失礼になりますよね」
「別に構わないわよ。今は平民の格好だしあと、女王様てのも止めて。メアでいいわ」
「では、行きましょうか。メアさん」
「今はそれでもいいわ」
叶恵達がやってきたのは一般的な大衆食堂的な店。
定食から1品物まで種類は多種多様。
「また来たね!シープも一緒かい!」
「アマゾネさん。こんにちは。ここのお店安くて美味しいのでまた来ちゃいました」
店中に響く大声で叶恵達を迎えた恰幅のいい婦人の名はアマゾネ。
数年前まで冒険者をしていたが結婚を期に引退をした。
大斧を振りましていた名残か腕は大木のように太い。
「嬉しいこと言ってくれるね!そっちはお友達かい?」
「あ、えっと.....」
「初めまして。叶恵の冒険者仲間のメアよ」
叶恵がなんと答えていいか決めあぐねているとメアが先に答えた。
「いらっしゃい。メアって女王陛下と同じ名前じゃないかい。運がいいね!」
「そうね、アタシも女王陛下の様な立派なレディになりたいわ」
「ならまず食べること!そして動く!食べずに痩せようとしたりするのは逆効果。さあ!何にする?」
「ここのメニューはどれも量は多いですけど美味しいですよ」
「お陰でギリギリ黒字さね!」
「それならもっと量を減らしたらどうなのよ」
「来た人にがっかりされるのは嫌なのさ。「聞いてたのと違う」とか「これなら楽勝」だとか言われると腹が立ってくるんさ。だから量は変えない味も落とさない!これがウチの経営方針さ」
「旦那さんはなにをしてる人なんですか?」
「王城の騎士団長さね。あんな偉い立場に立てるようなタマじゃないのにねまったく。「オレがヘタレてちゃ下に示しがつかない!」とか大見栄張ったみたいだけどね」
ビルマはあまり自分のことを語らない。
見栄を張っていることは勿論、嫁がいることも、気が弱いことも自分からは言わない。
女王のメアにすら言わないという徹底ぷり。
メアは聞き入っていた。
「ビルマがそんなことを……」
「うちのを知ってるのかい」
「ええ、まあ……」
「陛下にはよくしてもらってるらしいけど、どこまで見栄が持つかね」
「見栄なんてそんなことないわ。彼は立派に最前線に立つし後輩の面倒みもいい。彼以上に騎士隊長に適した人物はいない……って噂になってるわよ」
メアは必死になって誤魔化した。
「ま、噂になったとしてもその程度さ。旦那の格好良さに気づけるのはあたしだけさね」
アマゾネは豪快に笑うとキッチンへと入っていった。
「騎士団長ってどんな方なんですか?」
「そうね……猫の獣人なんだけど見栄とかそんなことは微塵も出さない人ね。少なくともアタシには一回も見せたことはないわ」
「強い方なんですね」
「まあ、今の話聞いた後じゃ印象がガラリと変わるけどね」
「本当ですね」
「はい。お待ち!」
運ばれてきたのは大盛りの白米に焼き魚、味噌汁と一般的な日本食ではあるがアマゾネが言ったようにここの食堂の量は多い。
どれくらい多いかというと。
「叶恵、それ1人で食べるの?無理じゃない?人間の胃袋に入る量じゃないと思うんだけど……」
と、一般人がドン引きする量である。もっとわかりやすく言うならば、メガ盛り料理に挑戦する番組の量より多いくらいだ。
サイズも量も規格外。叶恵はこれを一食として食べるのだ。
「アマゾネさん?アタシはこれの10分の1でいいからね?」
「なに眠たいこと言ってんのさ!食べなきゃ体力もつかないよ!冒険者ならこれくらい食べなきゃ!」
そう言って運ばれて来たのはやはりメガ盛り定食。
「アタシこんなに食べられないよ」
「大丈夫です。食べられなかったらシープが食べますから」
「あ、叶恵もそうやって……」
「ごちそうさまです」
「嘘でしょ……」
叶恵の料理が運ばれメアの料理が運ばれるまで10分とない時間。その間にメガ盛り定食を叶恵は平らげていた。
「私はこれくらいなら食べられますよ」
「魔力量が桁違いに多いのね……」
「魔力量?」
未知の力があることは先のルイ戦で知っていたが自分自身使ったことはなかった。
どんな魔法が使えるのかも、魔法の使い方も分からない。
思ってみれば叶恵は冬馬のお荷物だ。冬馬と共闘が出来るならまだしも、シープの後ろで怯えることしか出来ない叶恵と共に行動する理由など冬馬にはない。
駒が欲しいと言っているが奴隷商があるなら大人しく従順な奴隷を買えばいいだけの話。
大食らいでこの世界のことに関して無知で無力な叶恵と共に行動する理由はない。
そんな無知無力な叶恵と共に行動するなにかしらの理由が冬馬にはあるのだ。
「知らないの?魔力量が多い人は大食らいの傾向があるの。魔力量が多ければその分使える魔法量も多いし特大魔法だって撃てちゃうのよ」
「そうなんですね。でも私は魔法使えませんから。それと使う場面がありませんし」
「叶恵の場合はそうね。シープがいるものね」
「はい。シープは私を守ってくれるいい子です」
叶恵はシープを抱きしめシープもそれに応えるように叶恵の頬をすった。
「いいコンビ。そのいいコンビにお願いがあるんだけど」
「はい!なんですか?」
「残り食べて……」
メアの定食は焼き魚4分の1匹と白米が少しだけ減っていた程度。
「シープ。お願い」
「くるる」
シープは元の大きさに戻ると一口でメアが残した定食を平らげた。
「2人揃って化け物ね」