第14話 女子トーク
「ピエロ。最近しっかり休んでいますか?」
「休んでるからそこを退け」
朝、目を覚ますと叶恵が冬馬に跨り見下ろしていた。
「最近、王都中を飛び回ってますよね?休んでるわけないですよね?」
「叶恵の体力と道化の体力は違う。頻繁に休む必要はない」
「ダメです。今日は私に付き合ってもらいます」
「ふざけるな」
冬馬は自分の下にゲートを開くと叶恵ごとゲートに入った。
「道化は忙しいんだ。お遊びなんかに付き合ってられるか」
「じゃあピエロの仕事を見せてください。労働基準法に違反してないかのチェックです」
そういえば刑事だったな。
だが丁度いい。メアに押し付けるとしよう。
「いいだろう。ただし暴れるな。周りに迷惑をかけるな」
「これでも大人ですから」
駄々こねてたの誰だよ。
冬馬がゲートを開いて連れて来たのは王城。
「ここは?」
「王城で一番偉い人の部屋だ」
「それって......」
「あら、珍しいわね。日が昇っている時間に来るなんて」
表に出てもいいようにドレスを着たメアが冬馬達を出迎えた。
「寝巻と大分印象が違うな」
「当たり前でしょう。仕事とそうでない時と分けたいもの。で、彼女がピエロが言っていた魔族賛成派の人かしら?」
「そうだ。頭は足りないが駒として居て困ることはない」
「初めまして。警視庁組織犯罪対策課の白石叶恵です!」
「女王のメアよ。貴女も大変ね」
「いい加減慣れましたよ」
「メア、道化は他にやることがある。こいつの相手をしていてくれ」
「え、ピエロ!結局置いてけぼりですか!」
「それじゃあ、頼んだ」
冬馬はベランダから飛び降りるとゲートでどこかに行ってしまった。
「もう......私だって今は仲間なのに」
「どうしてそこまでピエロのこだわるのかしら?」
「ピエロは強いです。盗賊を瞬殺しますし駒の私にも一応は面倒を見てくれます。何と言いますかピエロから離れたらなにも出来ないような気がして......」
「完全に洗脳されてるわね」
メアはソファに座るとメイドを呼んだ。
「飲み物となにか食べ物を持ってきて頂戴。それと、これも仕事だからサボってるとか言わないでね」
「かしこまりました。ですが、確認の書類は溜まっていく一方ですが」
「分かってるわ」
「私のことはお気になさらずに......」
「そういうわけにはいかないわ。叶恵はアタシのお客様だもの」
「恐縮です......」
メイドを下がらせたメアは叶恵に向きなおった。
「さて、まず本題から入っていいかしら?」
「はい。構いません」
「叶恵は魔族のことどう思ってるのかしら?」
「魔族のことはよく分からなくて、王都に来る途中にも1人会いましたが悪さをするようには見えませんでした」
「そう。肯定派と捉えていいわね?」
「はい。私は魔族を恨んではいません」
いい事が聞けたとメアは笑った。
「今この国で魔族を肯定しているのはアタシと貴方達2人だけよ」
「そんな、他の人は否定的だと言うんですか?」
「そうでしょうね。原因はアタシの兄、ウェルお兄様が遠征先で魔族に殺されたと報告が入ったからよ。魔法の適正は皆無で武術もそこまでだったけど人当たりもよく頭も切れたお兄様は国民からかなり人気があったわ。アタシは憧れたの。権威を振りかざさないお兄様を」
「良い人だったんですね」
「ええ、お兄様の死を魔族による襲撃としたから国民は魔族を恨むようになったは」
メアの表情は兄の話をしている時とは変わって重く沈んだ顔をしていた。
「襲撃としたってどういうことですか?」
「ピエロに言われたわ、「兄の死は魔族のせいじゃない。王城の誰かだ」って」
「犯人は見つかったんですか?」
「まだよ。遠征先だから証拠もなにもないの。ま、不利な王城で騒ぎは起こさないでしょうし大丈夫よ」
メアは紅茶を啜ると意地の悪い笑みを浮かべた。
「ねえ、ピエロとはどういう関係なの?そもそも性別はなんなの?なんで武器の1つも持ってないの?冒険者ではなく怪盗ってしつこく言われたけど怪盗ってそもそもなんなの?盗賊となにが違うの?」
まさにマシンガン。冬馬に聞いても流されるメアの疑問が一気に叶恵に襲い掛かった。
「実は私も分かってないんです。性別もなんで武器を持たないのかも」
「そうなのね」
「でも怪盗の意味は答えられますよ。怪盗っていうのは人の物を盗む人のことです」
「盗賊とは違うって言われたけどどう違うの?」
「そうですね......盗賊は堂々と人だったり荷物を襲いますが怪盗はこっそり持ち主にバレないように盗みます。ので、気がつかないうちに盗まれていたりします」
「今までに盗みを働いたことは?」
「たくさんありますよ。その度に逃がしてしまって逮捕には至ってませんが」
「そう。ならピエロは死罪ね」
「え」
足を組み肘を膝に乗せたメアがやはり意地の悪い笑みを浮かべる。
「死罪っていくらなんでも重すぎるのでは?」
「いいえ。妥当な判決よ」
「普通は殺人の方が重いはずでは?」
「そんなわけないでしょう?人が死んだ所で回復魔法で生き返るもの。成功率は確かに低いけど助かる保証がある以上、そこまで罪は重くないわ」
「ではなぜ窃盗が死罪なんですか?」
「いい?盗むっていう行為は人から思い出を奪うってことなの。それがお宝だとうよガラクタだろうと関係ない。さすがにゴミ捨て場に捨てられているものを持って帰ったからと言って窃盗にはならないけど、所有中の物を盗んだら死罪は確定よ」
日本では窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となるが、世界が変われば法も変わる。
魔法があるこの世界では生き返る殺人より取り戻すことが出来ない窃盗や強盗の方が罪が重い。
「まあ、今のは聞かなかったことにするけど。魔族肯定派が少ない今人手が減るのは都合が悪いわ」
「それはありがたいです......」
人に簡単に情報を渡すなという冬馬の言葉が身に染みた叶恵だった。
コンコン
「誰」
「失礼します!王国騎士隊護衛班、ルイです!」
「あら、どうかしたのかしら?」
「騎士隊長から護衛の指示が出ました。なにやら侵入者が現れた模様です!」
「そう。なら外で......」
「いえ、その者は特別な魔法を使います!危険ですので中で待機せよとの指令でした!」
「そう。居てもいいけど聞いた会話は全て忘れなさい。いいわね?」
「はい!了解しました!」
ルイに指示を出すとメアと叶恵は女子トークに花を咲かせた。