第13話 駒≠人間
「では最初はピエロから」
「なぜだ」
「私から言うとピエロは言わない可能性があるので」
「そんなことはない」
「口ではなんとでも言えます。行動で示してください」
冬馬は言葉に詰まった。
たしかに冬馬は本当の情報を渡す気はさらさらなかった。
叶恵が持っている情報によっては冬馬が仮定した前提が崩れる可能性がある。
だが本当の情報を渡せないのだから嘘をつくしかなかった。
「次の目的地を探していた」
「どこにしますか?」
「……まだ決めていない」
「本当の情報を渡してください」
「本当だ。王都から少し出ていた」
「……そうですか」
「そうだ。お前の情報はなんだ」
「教えません」
「あ?」
まさかの手のひら返しに素が出てしまっていた。
「どういうつもりだ」
「もし私が今情報を渡したら私はただの駒に戻ってしまいます。情報を渡して欲しければ私を名前呼びをすることとちゃんと人間扱いしてください」
「駒を人間扱いしろと?お前、チェスの駒に対して「殺さないからね」とか言ってるのと同じだぞ。道化はそんな頭のオカシイ奴と同じになりたくはない」
「大丈夫です。私は人間なので」
「誰から聞いた」
「教えません。大人しく私を人間扱いしてください」
叶恵を人間扱いして情報を貰うか叶恵からの情報は諦めて他の情報で仮定を固めるか。
だが叶恵の情報が役に立つとは限らない。
どうするべきか。
「人間扱いってどうすればいい」
「ただ毎回名前で呼んでくれればいいです。あと、囮には使わないでください」
「囮なんて攻撃の邪魔だ。いらん」
「では名前で呼んでください」
「叶恵」
冬馬が名前を呼ぶと叶恵はシープに頬ずりをした。
「で、お前の情報ってなんだ」
「この国には四季がないみたいです。地域によって気温はほぼ一定らしいです」
思ったよりしょうもない情報だった。
「まだありますけどそれはピエロが人間扱いし続けたら話します」
「しょうもない情報だったら奴隷商に売り飛ばす」
「現役刑事の情報収集力を舐めないでください」
叶恵は自信たっぷりに答えた。
その日の夜。
「まったく……気温が一定なことくらい知ってんだよ」
『店の品揃えが一定なんだから気温または育て方が一定なはず』
「ま、あまり期待はしていなかった。逆に問題が出来た。それは、新たな駒が必要になった事だ」
『補助魔法の使い手だね』
「ああ、しかも魔力量があり出来れば女が好ましい」
『なんで女?男女で魔力量や質には関係ないはずだけど?』
「普通に考えて男いらないだろ。道化が男なんだから周りの駒は女がいい」
『変態』
なんとでも言え。ハーレムなんて好意が絡まった面倒な物よりずっといい。
男だと下心ある奴がいるのは確実だしそれで面倒が起こるのは勘弁だ。
冬馬は屋根伝いに城へと向かった。
城のベランダでは女王のメアが黄昏ていてキョロキョロと辺りを探していた。
「なにしてんだアイツ」
『密会?』
「辺りに生体反応は」
『廊下にメイドがいるけど通りすぎた』
「ふむ。少し様子を見るか」
冬馬は柱の後ろに隠れた。
「陛下。夜更けにいかが致しましたか?」
「ひゃあ!ノックくらいしなさいよ!」
メアがベランダで夜空を眺めていると背後から声をかけられた。
黒髪の肩口で切り揃えたメアの側付きのメイドだ。
「しました。お返事がなかったのでなにかあったのかと思い入らせていただきました」
「アタシは平気よ」
「そうですか。ですが夜は冷えますのでどうかお部屋にお戻りください」
「今人を待ってるの」
「待ち人……でございますか?」
メイドは首を傾げた。
「そう。黒い外套を羽織った道化師よ」
「前に陛下がお会いしたという」
「ええ、いつも来るのは夜だから今日も来るんじゃないかなと思って」
(大正解。今日も来てるよ)
「アサシンが狙っているかもしれませんので窓はお閉じください」
「わかった。ねぇ、王都で1番価値があるものってなんだと思う?」
「価値のあるもの……ですか?失礼ながら女王陛下ではないでしょうか」
「アタシが物だと?」
「いえ、そうではありません。陛下が婚姻の儀の時におつけになるティアラも財産としての価値は高いでしょう。ですが売るのも難しく傷をつけずに持ち歩くのも一苦労です。それに比べ人間ならば捕虜にして身代金を要求したりなにか企む者なら交渉の材料になります。それ故に王都で1番価値があるものは陛下なのでございます」
「確かにそういう考えがあるわね。貴方もピエロと似たような考え方なのね」
「仮面の方がそのような事を?」
「いえ、ピエロだったらそう言うかなと思って」
(またまた大正解。王都での宝はティアラでも指輪でもない。メア自身だ)
「ですが今宵は来ないようですのでお休みになってください」
「仕方ないわね。ピエロも忙しそうだったし」
「あまり仮面の方の話ばかりするとオスカー様が嫉妬なさいますよ」
「別にオスカーとは幼馴染ってだけだし。嫉妬なんかされても困るし」
「左様でございますか。それではおやすみなさいませ」
メイドはお辞儀をすると部屋を出ていった。
「ふむ......今日の所は帰るとするか」
『会わなくていいの?』
「ああ、城の者が定期的にメアの部屋の前を通る。その時に声を聴かれたら厄介だ」
『そう。じゃあ、今日はおやすみ』
「しっかり休め。大仕事が待っている」
冬馬は屋根から飛び降りると夜の闇に紛れた。




