第134話 心の底からの笑顔
魔力というのは血管と同じで一旦心臓に集まる。
冬馬は皮膚に手を置くと微弱な電気を流した。微弱と言っても人間用の数万倍には強く辺りにはバチバチ!と音が鳴っている。
「ピエロなにを」
「道化に近寄ると感電するぞ」
「なにしてるの?」
「魔力の流れを調べてる。魔力回路の先に心臓部となる宝石があるはずだ」
「そんなことが出来るなら最初からやりなさいよ」
「無茶言うな。攻撃魔法だから魔力を大量に消費する」
冬馬の意識はすでに切れかかっており、八重の解析を待っている所だった。
『出たよ。ここより左手方向に1キロ圏内が心臓部。そこから先は電波が弱くて読めなかった』
「いや、十分だ。あまり割り出すよメリーに先を越される」
冬馬はよろよろと心臓部へと移動した。
「この辺りのはずなんだがな」
「なにがこの辺りなんです?」
「神の宝石の在処。ここから1キロ圏内だそうだ」
「結構広いですね」
「大都市規模から近所規模まで絞ったんだ。これ以上は無理だ」
「ご主人様より早く見つけてもらう」
メリーは冬馬の視線の先や意識の先を探り場所を割り出そうとするが冬馬とて分かってはいない。
否、分かってたとしても意識したりせずまずは別の場所を探しに行くだろう。
「ここは今どのあたりだ」
『どの辺りって言われると難しいけど、図説するならここ』
冬馬達がいるのは楕円形の真ん中より少し右側寄った所。
そこが神の胸であり心臓がある場所なのだ。
「うーむ。見つからんな」
「怪盗。目星はついてるんだろ。とっとと見つけたらどうだ」
「バカ言うな。道化とて一キロ圏内が精いっぱいだ」
「補助でも頼めばいいのに」
「頼んだ結果分かったのがこの範囲だ」
あと冬馬に出来るのは今までの経験を活かし探すだけだった。
他の人が探した場所も念入りに探していく。
時には皮膚をよく探し、時には空中から荒く探したりもした。
だが見つからない。
兵士も全員右に左にキョロキョロとするがそれらしきものは見当たらない。
「ピエロ。シープがそろそろ限界だそうです」
「限界か......」
「ご主人。メリーに強めに気配察知を施してくれれば探れる。でもその場合、メリーが宝石を貰う」
「......」
「ピエロ?まさか弟子に負けるのが嫌とかいいませんよね?」
「目の前にある宝を指くわえて待ってろとでもいうのか」
「時間がないぞ」
そう言っている間にもブチブチとシープの毛を引きちぎり触手が活動を開始した。
「道化と叶恵、メリー以外は撤退しろ!速く!」
「うわああああ!「「離せ!やめろ!」
「遅かったか。捕まった兵はどうする!」
「既に手は打ってある!叶恵はメリーに気配察知を付与しろ」
「分かりました」
叶恵が付与している間にも触手は迫ってくる。
「ほーすー!」
元気いっぱいな声が聞こえ、赤羽の少女が冬馬に突撃してきた。
「ナナ!突っ込んでくるな!」
「大丈夫!ナナは鳥人族だから!」
「大丈夫な理由をもっと道化に分かるように説明しろ」
「飛べるから!」
「落ちるとかの心配はしてない。それより連れてきてくれたか」
「うん!お友達たくさん!」
「よし、宵闇!触手を斬れ!鳥人族は捕まっている兵士を保護しろ!」
宵闇が剣を一閃すると横一閃に触手が消え、その隙をついて鳥人族が兵士の肩を爪でガッチリつかんでいく。
「ご主人!全体が見たい!」
「ナナ、空から案内してくれ」
「分かったよ!」
メリーがナナに連れ去られ、冬馬は叶恵を自分の元へと引き寄せた。
「狙いはやっぱりこっちか。シープは!もう少しだけ耐えろ!」
「グルガアアア!」
「早くしろって言ってます」
「そう焦らせるな。こっちも失敗が許されない一度キリの賭けに出てんだから」
もし神がこの体積のまま海に落ちれば、海は荒れ都市など海の底に沈んでしまう。
そのためなんとしてでも止める必要がある。
「見つけた!ご主人様!離脱!」
「任せろ!」
冬馬は足の電極に電源を入れると冬馬は叶恵を抱え、空に向かってゲートを広げた。
6つのゲートで四方を固めすれ違うようにゲートを移動させた。
「きゃあ!」「......!」
「主の上に座るとはいい度胸してんな花畑刑事が重いからどけ」
「重くないです!体重変わってません!」
「3キロの増減を繰り返してる奴が何言ってんだか。それより、メリー。宝石を見せてはくれないか?」
「ん。手は動かさないで」
「しっかりとっていれば問題はない」
冬馬の目線の先では紫色の物体がシープの毛の間でもがき徐々に小さくなって言っているのが見える。
『テキストファイルが届いたよ』
「読み上げ頼む」
[ありがとう。少し痛かったけどありがとう。おかげでエイミと一緒にいれそう]
「騒がせやがって。それだけかよ。大損だな」
冬馬がポケットに手を突っ込むとなにかが入っていた。
「指輪?」
『効果は......能力増強とだけ。不良品?』
「いや、これは一番の宝かもしれない」
冬馬はこの世界に来て初めて心の底から笑った。