第131話 決戦への第一歩
日が高く昇り、城壁前には各種族の兵士が集っていた。
その前には神の眷属が群れを成しており今すぐにでも戦いが始まろうとしていた。
「皆さん聞いてください!今日をもってあの神との戦いに決着をつけます!長期戦になればこちらが確実に不利となります。ので今回で削れるだけ削ります!どうか力を貸してください!」
『うおおおおお!』
叶恵が精一杯に宣誓をすれば兵士陣から力強い声が平野に響いた。
「それでは!出陣です!」
叶恵の声と同時に兵士は平野を駆け抜け眷属と衝突していく。
魔族やエルフからの援護があるにしろ相手は神の眷属。
そう易々と倒れてはくれない。
なんなら先の戦いより強化されているようにも見える。
「隊列を崩すな!盾兵は歯を食いしばって堪えろ!剣兵槍兵は盾兵に接近した瞬間に攻撃しろ!弓兵は盾兵に近づく前に撃ち殺せ!」
バルトラが指揮をとり前線で眷属を殴り殺していく。
「俺達は神本体を叩く」
「目星はついているんですね?」
「ああ、全ての攻撃を叶恵に強化してもらう。下手に攻撃して返されても面倒だ」
今人間陣営が恐るのは神による殲滅魔法。
神の殲滅魔法に対抗出来る手段は今のところなく、放たれたら王城諸共吹き飛んでしまう。
「まず俺とバルトラを強化してもらう。俺達は接近して触手を引き付ける。パルは護れ」
「分かったっす」
「アシュはパルとメアの強化だな。ルージュとニュークは適宜状況を見て動いてくれればいい」
「分かりました。お2人とも気を付けてください」
「宵闇こそ、昔の癖で突っ込んで死なんようにな」
「ははは!気を付ける」
宵闇とバルトラが駆け出し本陣には女性陣とオスカーだけが残された。
「この中で男一人ていうのは結構くるものあるね」
「唯一の男がコレとは先が思いやられるな」
「魔族の王からしてみれば確かに僕は貧弱かもしれませんね」
「肉壁にすらならない」
「辛辣ですねー。事実なのでなにも言い返せないですけど」
オスカーは1人肩をすくませると神が佇む空を見つめた。
冬馬から言われた仕事の量が尋常でなく今までまともに見たことなかったオスカーだがアレを見てしまったら一領主の息子と言えど震えは抑えられない。
「怖いの?」
「ああ、アシュと言ったね。あの時はごめんよ」
「ううん」
「そうだね。僕は冒険者をやっていたこともあるけどあれほど大きい敵と戦うのは初めてだよ。弱点も適正属性すら分からない。そんな敵と戦おうなんて思わないね」
「じゃが戦わねば死ぬだけじゃ」
「それはそうですけど」
「お喋りはここまでですね。来ますよ」
全員が空を見上げると紫色の触手が高速で迫って来ているのが目に入った。
だが向かってくる触手は今までの丸いものではなかった。
「犬に獅子に......龍か。また器用なことを」
「魔法封じを施します。叶恵さん、メア。最初だけ援護お願いします」
「ええ」「分かりました」
犬と獅子の頭がメアの防御壁にかぶりつき外側からガリガリと音を立てて削っていく。
「ダメ!削られる!」
「アシュ。僕を少し強化してほしい」
「わかった」
オスカーは足に自身の魔力を流すと急加速した。
目指す先は触手の首元。
背負った大剣を体を曲げて抜剣と共に首を斬り落とした。
だがそれを神が見逃すはずはない。
「狙われるよね」
「ガアアアアアアア!」
「無駄だよ」
オスカーは大剣の切っ先を向かってくる頭へと向けた。
切っ先に頭が当たるか当たらないのほんの一瞬、オスカーは大剣を軸に空中で体勢を変えた。
「大剣使いが身軽じゃないって誰が決めたんだい?」
大剣を一閃させれば首が斬られ高速でしぼんでいった。
「そら!よっと!魔族の強化を使えばここまで動けるんだね!今で調整がしずらいよ」
「オスカー!無理はしないでよ!」
「わかってるさ!メアこそ防御を切らさないようにね!」
オスカーは笑顔を向けると防御の外で縦横無尽に飛び回った。
剣で受け止めては防御を足場に切りかかる。
防御の上にオスカーがいる限り、触手は防御に攻撃することが出来ない状態なのだ。
「オスカー......もう無理......」
「既に魔法封じは施してあるので切っても問題ありませんよ」
「じゃあ僕も下りようかな」
メアが防御を解いた瞬間、猪の頭が魔法封じを突破しようと突撃してきた。
「無駄です。多少ですが神の補助も入っていますから」
「そうでもないようじゃぞ」
「え?」
今までバラバラだった触手は1つの束となって魔法封じに襲い掛かった。
「そんなのありですか?」
「相手は神じゃからの。想定外が想定内ってやつじゃろ」
「言ってる場合ですか!今すぐ魔法封じを強化します」
「オスカーとやら。妾の踏み台となるがよい」
「女性に踏まれて喜ぶ趣味はないんだけどなー」
「その首引きちぎられたくなければ早くせよ」
「女性陣はみんな手厳しいね」
オスカーは背中を向けると跪いた。
「あ、しっかり強化しないと骨諸共崩れるからの」
「アシュ。またお願い出来るかな」
「行くぞよ!」
ニュークが駆け出しオスカーは衝撃に備えた。
オスカーを足場に飛び上がったニュークは猪の頭に拳を一撃。
「これでどうじゃ!」
魔封じを出た瞬間に強化されたニュークの拳は頭にめり込み吹き飛ばした。
「各自防御をとるのじゃ!デカいのが来る!」
「なにが起こったんですか!」
「妾の魔力が吸われたのじゃ!」
ニュークが殴った頭は再び分裂すると全て猪となり突進を開始した。
魔族の王の魔力を吸収した攻撃は威力を増幅させ魔法封じの外にいたニュークは城壁まで吹き飛ばされた。
肝心の内部にはビキビキと音を立て、今にも割れそうな勢いであった。
そしてついにバリンッ!という音と共に決壊した。
「皆さんには!指一本触れさせないっすよ!」
「なら僕もお手伝いをしよう。魔族の王が戻ってくるまで耐えるんだ」
「分かったっすよ!」
パルとオスカーは非戦闘員を背に猪の頭を切り落としていく。
血こそでないものの消えては生えての繰り返し。
いくらパルが大剣を振ろうとも敵の勢いが衰えることはない。
「キリがないっすよ!」
「もう少しだ!大丈夫!」
大剣を振るパルの腕は強化込みでも上がらなくなって来てしまった。
速度は落ち踏み込みも甘い。
そんな剣、攻撃のうちには入らない。
「.....っく!剣が!」
踏み込みの甘いパルの剣は切っ先から折れてしまった。
だが神の攻撃は終わらない。パルの心臓を目掛けて猪の角が迫る。
「パル危ない!」
「避けなさいよ!」
アシュとメアが引っ張り一撃は躱した。そう、一撃は。
「あぁ......」
座り込む3人に触手が迫る。
3人が3人とも目の前の圧倒的な死に啞然とし口をパクパクとさせるだけ。
その時、ふとアシュが呟いた。
「ピエロ......助けて......」
近くのメアとパルにすら聞こえないような小さなつぶやき。
「きゃあ!「っ!」「おわ!」
「世話の焼ける駒だ」
猪が通り過ぎる寸前、メア達は姿を消した。