第130話 怪盗ピエロの遺言
「メアおかえ……顔赤いよ?」
「え?そ、そう?」
「なにかあったっすか?」
「な、なにもなかったわよ」
そう言うメアだがその顔は明らかに上気しており誰が見ても赤かった。
「怪しい。オスカーとなに話たの?」
「昔話よ」
「あー。それで恋心に火がついちゃったすか?」
「それはないわ。オスカーは優しいけど王には向かないしタイプじゃない」
「可哀想」
オスカーは知らない所でかなり痛めの攻撃をくらっていた。
「不謹慎かもだけどワクワクしてるのよ」
「この状況をですか?」
「ええ、この皆で協力するってことがアタシが女王になった理由でもあるわ。種族、貧富も関係なく過ごせる国作り。アタシが夢見た国の形が目の前にあるのよ?笑っちゃうのは許してほしいわ」
「相変わらずの思考じゃな」
「ニュークも手伝ってくれるでしょう?」
「勿論じゃ。メアを支えるのは妾の役目じゃからな」
ニュークは八重歯が見えるほどにニッと笑った。
「ですが笑ってばかりもいられませんよ」
「今は我々エルフが食い止めてはいるがそれもあと数日しか持たないだろう」
「それまでにアレをなんとかしないといけないのか……無謀としか言いようがないな」
「だがやらなければならない!ワクワクするのも分かるぞ!」
「アタシのワクワクはそんな物騒なものじゃないから。ま、今は宴を楽しみましょうか」
メアは料理が運ばれてきたのを確認すると手を叩いた。
「それじゃあ、皆。今宵は目一杯楽しんで頂戴。それが女王からの命令よ」
メアが笑うと宴会が始まった。
不安そうな顔をしていた民衆は徐々に笑顔になっていった。
その光景だけ切り取れば世界が滅亡間近だということなど誰もわからないだろう。
だがその中で浮かない顔をしている魔族がいた。
「アシュ。今は楽しみましょう?」
「分かってるけど……」
「あ、メア」
メアを呼んだのは孤児院の方に出ていたオスカーだった。
「そういえば渡し忘れていたよ」
「なにこれ」
オスカーがメアに渡したのは小型の機械。
現代の録音機器であり当然、メアは使い方は分からない。
「叶恵ならなにかわからない?」
「はい。分かりますけど、どうしてオスカーさんが録音機器を?」
「怪盗から預かっていたんだよ。「もし道化が消えたら渡せ」ってさ」
「録音機器ってことはなにかが録音されてるってこと?なら聞こ。ピエロからのメッセージかもしれない」
「分かりました。再生しますよ……」
叶恵が再生ボタンを押すと少しのノイズの後に声が聞こえてきた。
「聞こえているだろうか。怪盗ピエロだ」
聞こえてきたのは冬馬の声だった。
『この音声が届いているということは道化は側にいないのだろう。死んだか逃げたか……どちらにしろ伝えておくことがある。道化が死ぬことはない。叶恵達が忘れない限りな。だから悲しむな。叶恵、刑事としては半人前どころか新人もいいところだが退屈はしなかった。メア、最初は頭弱々女王だと思ったが意外としっかりしていて頼りになった。アシュ。教えたことの飲み込みが早く魔族としての魔力は非常に役に立った。パル。道化唯一の攻撃を確立できたのもパルのおかげだありがとう。まあ、色々あったがお前達との旅は楽しかったぞ』
それはまさに遺言といって差し支えないようなものだった。
今まで我慢していた涙腺を破壊するには十分な威力だった。
「ピエロ……」
「あの怪盗は……最後の最後で泣かしにくるんだから……」
「ううぅ……ぐすっ……ピエロ……」
「ご主人も罪っすね……」
影の方で冬馬と旅をしていた4人は涙を流した。
枯れたと言ってたアシュですら声を出して泣いていた。
「明日からは僕も戦場に出るよ。そうピエロから指示を受けているからね」
「そう……オスカーまでピエロの後を追わないでよ」
「そうならないように気をつけるさ」
オスカーは空気を察してか少しぎこちなく笑った。