第129話 士気向上の要となる神
「ここが避難所さ。自身の家がない人はここに避難して貰ってるよ」
「数は」
「ざっと3000人かな」
「思ったより多いの。食糧は魔獣の肉が大量に余ってるから問題ないとして問題があるとすれば防御面じゃな」
「見たところ我の拳で粉砕しそうな建物だな」
「元々ここは兵舎だったの。兵が装備を持って出ていく建物。立て篭もる用の建物じゃないのよ」
広場に建てられたレンガ造りの建物。
急遽建てたため穴も多く触手の一撃で倒壊するだろう。
「その不安を払拭するのがお前さんだ」
「私にそんなこと」
「大丈夫よ。責任はアタシも持つから。というか女王が持たなきゃ誰が持つのって話よ」
「僕も。仲間は大事だから」
「自分も少しなら持てるっすよ」
「ありがとうございます」
「紹介はメアがやるといい。その方が合わせやすいだろう」
「そうね。そうするわ」
メアが前に出て声を張った。
「皆。聞いて、今王都は存続の危機に陥っています。外で見た人もいるでしょうけど今アレと戦っているの。でも大丈夫!ここには各種属を代表する王達がいる!それに力強い助っ人がいるのよ!」
メアは叶恵の腕を引っ張ると叶恵を前に出した。
「彼女の名前はエイミ。エルフの女王、ルージュと肩を並べる神よ!その実力は法王も認めたわ!」
具体的な人物名をあげ現実味を増していく。
不安しかない人を安心させる上で必要なことだ。
「今現在、勝機があるとすれば彼女の力が絶対条件。さらに、皆さんの信仰が必要です。わたし達、神や神霊は信仰をそのまま力へと変換します。ですので皆さんの信仰が必要となります」
「もしエイミが信じられないというのならルージュでも構わん。自分が信じる者を信じるがよい」
「紹介はここまでにして、勝利を願って晩餐といきましょうか。食材は大量に取れたことだし。準備させるから少し待っててもらえるかしら」
メアはオスカーを連れ王城へと戻った。
「……」
「……なにか話なさいよ」
「情けないことに。どう接したらいいのか分からないよ。メアは大切な人を失っているわけだからね」
「ピエロの死はどうやって知ったの」
「兵士から状況を聞いたんだよ。そこで教えてもらった」
「そう……オスカーから見てピエロはどんな人だった?」
オスカーはメアの質問の意図が分からず首を傾げた。
「話題作りよ」
「そうだね……自分勝手だとは思うね。大体僕を呼び出す時には急だしメアを助けろだとかメアを生かす代わりに情報寄越せだとか、メアを引き合いに出されて色々とコキ使われたよ」
「なんで反発しなかったの」
「出来るわけないよ。メアが側にいるからね。メアの反応を見るに酷い扱いは受けていないんだろうとは思ったけどあの怪盗に反発出来るだけの保障がなかったよ」
「アタシなんてお兄様の下位互換じゃない」
「確かに怪盗は身勝手だけど一つだけ意見が一致したことがあってね」
「へー珍しいこともあるものね。どんな意見?」
メアは気になったのかオスカーとの距離を近づけた。
「メアが宝ということさ。初めに会いに来た時に聞いたから今まで任せたというのもあるけど」
「そうよね。ピエロが現れなければオスカーは国王になれたんだもんね。アタシが宝で当然よね」
「手厳しいね。確かにそうかもしれない。怪盗にメアを奪われなければ僕は国王だったかもしれないからね」
「残念でした!」
メアがいたずらっ子のように舌をベッと出すとオスカーはニコリと笑った。
「だけど怪盗には感謝しているよ。メアはやりたい事をやれているようだし。僕じゃ領地を放置してメアと旅なんてことは出家しない限りは無理だからね」
「でももうピエロは……」
笑顔が戻りつつあったメアの顔に再び陰りが見えはじめた。
「あの怪盗ピエロのように自信に満ち溢れているような行動は取れないけど僕を代わりにしてはどうかな?」
「……無理」
「これまた手厳しい」
「ピエロは女性だし、それに……オスカーみたく優しくないもん」
「そういう子供っぽいところが好きなんだよ」
「はいはい。どうせアタシは子供よ」
メアは適当に流したがその頬は若干赤くなっているようにも見える。
メアが王城に着くと料理人に大皿の料理を注文した。
「食材はバルトラが運んでくるわ。食べるのはアタシ含めた皆。緊急事態だから出来るだけ早くね」
「分かりました。出来上がり次第、避難所にお届けいたします」
「今日は晩餐よ。調理が終わり次第来るように」
メアはそれだけ言うと避難所へと帰っていった。