第12話 尾行
時間は少し遡る。
冬馬が窓から飛び出すと真っ直ぐ王城へと向かった。
窓から中の様子を確認するとちょうどオスカーが乗った馬車が王城へと到着する頃だった。
しばらくメアと話した後オスカーは帰るために馬車へと乗り込んだ。
「馬車か……どうするか」
『あの女の羊を奪えば?』
「あいつ肉食らしいから下手に手出すとそのまま食われそうだ。……仕方ないオスカーをずっとナビで追っててくれ」
『了解』
馬車が出発すると冬馬は後をついて行った。
「やっぱり身体強化が欲しいな」
『どうして?』
「今の状態じゃ電圧はこれ以上上げられないし、強化も3分が限界だ」
『3分じゃ足りない?』
「魔法があって道が平坦だと3分だと足りない」
『自分で強化は出来ない?』
「試しているができない」
冬馬が出来るのは攻撃まで。補助魔法は一切使えずおまけに魔力量も低いためにすぐに疲れてしまうという状態だった。
「魔族ほどの魔力量があれば楽なんだが」
『それじゃあ本当にチート。ゲートがある代わりに魔力量が少ない。運営の調整』
「クソみたいな調整しやがって......」
冬馬は休みながら馬車を追いかけオスカーより約1時間遅れで屋敷についた。
「屋敷か......」
『隠すなら身近に隠しておくよね』
鍵開けで玄関の鍵を開け冬馬は中に侵入した。
「キッチン......応接間、訓練場......」
『どこにも地下とか隠し扉がありそうな場所にはなにもなかったね』
「残るは自室だが本人がいるから無理だな」
『近づいてくれれば中の様子を音から探れるよ』
「頼む」
冬馬はオスカーの自室がある2階の中央の扉の前まで来た。
『いくよ』
八重の合図とともに部屋の中の音声がイヤホンから流れた。
「......はっ......ふっ......はっ」
「なんの音だ?」
『分からない。でも風切り音も聞こえる』
風切り音が聞こえる行動というのは限られる。
なんかを振ったとき、なにかが高速で動いているとき。さらにオスカーの声は何かを踏ん張ったような声なため必然と中の様子は限られた。
「まさか剣の鍛錬をしてるんじゃないだろうな」
『まさか自室だよ?女王と出会ったばかりだよ?自慰行為でもしてるんじゃ?』
「ん。丁度いい。確認してみるか」
コンコン。
「オスカー様、お手紙でございます」
「ああ、入って構わないよ」
「失礼します」
メイドがお辞儀をして中に入ると上裸のオスカーが汗を拭きながら大剣を鞘に納めた。
本当に剣の鍛錬をしていた。
「誰からかは聞いてるかな?」
「孤児院の先生からのようです」
「そうかありがとう」
オスカーに手紙を渡すとメイドはまたお辞儀をして部屋を後にした。
「本当に鍛錬してるとはな」
『いい筋肉だけど暑苦しい』
「孤児院からの手紙ということは孤児院に行く気だな」
『追いかける?』
「もちろん」
部屋の扉が開くとちゃんと上着を着たオスカーが出てきた。
『孤児院はこの近辺にかなりの数があるみたい』
「そこから金を搾り取っているのか人身売買か」
『人体実験というという可能性もある』
「ま、行ってみればわかるだろうさ」
オスカーの後を追いかけると見えてきたのはこじんまりとした平屋の建物。
門から建物までは広い空間が確保されていて所々には遊具らしきものも見受けられる。
「こんにちは」
「オスカー様。ご足労おかけいたします」
「いえいえ、手紙には相談とありましたがいかがしましたか」
オスカーの爽やかスマイルに保母さんの頬が赤くなった。
「実はですね、子供たちに新しい遊具を上げたいのです。新しく入った子などは楽しめますが何年もここにいると流石に飽きるという声も出ていまして」
「そうですか.....確かに遊具自体僕の手作りなので物足りないかもしれませんね。わかりました、今度子供たちにアイデアを出して貰ってください」
「分かりました」
「ついでに助成金も持ってきましたよ」
「毎月ありがとうございます」
オスカーは懐から出した袋を保母さんに渡すと中から子供たちが中からわらわらと出てきてあっという間にオスカーは囲まれた。
「人気だな」
『子供にまで人気となると本当にいい人なのかもしれない』
「子供は損得勘定で動かない。本能でしか動かない」
『いい人だと思えば側にいて悪い人なら離れていく。恐怖で支配しているようには見えないし全員のバイタルは正常。無理しているようには見えない』
「屋敷はいたって普通の屋敷。怪しげな部屋はないし孤児院の子供たちにも人気と」
『おまけにイケメンで体つきも申し分ない。魔法は氷魔法しか使えないけど剣の腕が一級品だから魔法に頼らずに自分1人で戦える』
「完璧超人すぎて気持ち悪い」
『それにかなりの善人ときた』
「奪いがいがある」
相手が善人であればあるほど奪う価値がある。悪人から奪ってもそこまで高揚はないし面白くもない。
なにも悪いことをしていない人物から奪うからこそ面白いのだ。
「調査は終了だ。部屋から血の匂いはしなかったし怪しげな空間もうめき声もしなかった」
『了解。刑事のほうは王都で買い物してるよ』
「なにか変化は」
『体重が増えたこと以外にはない』
「ありがとう」
冬馬はゲートを潜った。
冬馬が王都の大通りに出ると目の前に白いモフモフを肩に乗せ
「あ、ピエロ。帰ったんですね。お疲れ様です」
「お前こそなんだその荷物は」
「お買い物です。この世界に来て1週間ほどですが必要なものが出てきましたから」
「例えば」
「着替えや食料などですね」
「そうか。必要物資はお前に一存する」
「信頼してくれましたか?」
「バカか、面倒なだけだ」
冬馬が歩き出すと叶恵は袋を抱えたまま冬馬の横に並んで歩いた。
「ピエロはなにしていたんですか?」
「お前が知る必要はない」
「私だけ置いてけぼりにして!1人でコソコソするなんてズルいです」
「もう一度言うぞ。お前が知る必要はない。2度も言わせるな」
ピエロはキツく叶恵を突き放すが叶恵はくじけなかった。
「そうかもしれませんが……こちらが情報を持っていたらどうですか?ピエロがやってることに直接役に立つかどうかは分かりませんが旅には役に立つと思いますよ」
今ピエロはとてつもなく情報を欲しがっている。
どんな些細な情報でも役には立つ。ただ役の立ち方が違うだけなのである。
「分かった。お前が持つ情報と道化が持つ情報を交換する」




