第126話 怪盗ピエロ VS 女性陣
字面だけ見たら怪盗ピエロの劣勢感が半端ない。
結界魔法の攻撃をあっさりと見破った宵闇たちとは反対に叶恵達は困惑していた。
「ピエロ......」
目の前に佇むのはかつて共に旅をした怪盗ピエロだったから。
「騙されるでないぞ!見た目こそ同じじゃが中身はただの土塊じゃ」
「ニュークの言う通りまやかしです。気をしっかり」
「で、でも......」
魔力を検知したり生体反応を検知できるニュークとルージュには分かっても叶恵達からすれば冬馬にしか見えないのだ。
「コロス......コロス!」
「メア防御!」
「既に張ってるわよ!」
だらりと下げた腕から拳銃を取り出した土塊は一発発砲した。
が腕の関節やらを無視して作られた土塊の腕は簡単に吹き飛んだ。
「これで分かったじゃろ。アレはただの土塊。怪盗ピエロではないのじゃ」
神ですら未来の武器の威力を想定することは出来なかったのだろう。
土塊は吹き飛んだ腕を再生すると手に持つ銃を投げ捨てた。
「意外と賢いようじゃの。使えぬと理解したか」
「でも学習するとなると時間をかければかけるほど本物に似るということです。そうなったら私達に勝ち目はありません」
「分かっておる。その前に決着をつける。お主は、エイミとやらに触手が届かぬよう集中することじゃ」
ニュークは魔法封じの中から飛ぶ出すと叶恵達の前に立ちふさがった。
「怪盗ピエロ。勝負を申し込む。もし妾が勝ったらメアを妃とする」
「ちょっと!どさくさに紛れてなに言ってるのよ!アレただの土塊でしょ!」
「本人に言ってもどうせダメって言われるからの。ここで怪盗ピエロを倒せば実質倒せたのも同然じゃ!」
「卑怯もの!」
「はっはっは!早々に死ぬ怪盗が悪いのじゃ!」
本人がいないことをいいことにやりたい放題。
ご機嫌にニュークは突っ込んだ。
「その首!貰った!」
ニュークは土塊の首を蹴り飛ばし気をほんの少し抜いてしまった。
おそらく、冬馬本人を相手しているならしなかったであろう油断。
それが命取りになった。
「がうっ!」
ニュークの腹に刺さる衝撃。
その衝撃でニュークは城壁まで吹き飛んだ。
「な、なぜただの土塊が......結界魔法を......」
「ニューク。喋らないでください。今治癒します」
鬼神の末裔と言えど同じ鬼神の末裔の蹴りを食らえばただではすまない。
肋骨は数本折れ、内臓がいくつか潰れている通常なら危機的状況。
「メア!仲間だけでいい!全魔力をつぎ込んで防御するのじゃ!攻撃は一切しなくてよい!」
「分かったわ!アシュ!強化を頼んだわよ!」
「うん。任せて」
「意外と冷静じゃないか」
メアの強化をするアシュの側に立ったのはサラだった。
街中とは違いガチガチに装備を着こみ、剣すら通しそうもないほど重厚な鎧を身に纏っている。
「当たり前、あれはピエロじゃない」
「ほう、踏ん切りはついているのか」
「うん。ピエロは戻ってこない。それが分かれば十分」
酷な分からせ方ではあるが理解したあとの引きずりというものは発生しないため効果的ではある。
「怪盗ピエロ!土塊に文句言うのはおかしいと思うが言わせてもらう!今まで散々姫様を手駒にした罪!償ってもらうぞ!」
「結界魔法には気を付けてください」
「承知いたしました」
剣を構え、切りかかるが当たる直前でゲートを開かれ急停止。飛び下がった後にサラは溜息をついた。
「攻撃の仕方まで似るのか。不思議と怒りしか湧かないがな!『魔を払え!』」
「バカメ」
「ほくそ笑むのもここまでだ!怪盗ピエロ!」
サラは剣を投げ捨てると土塊に抱き着いた。
「貴様は仲間に頼らないとまともに攻撃出来ないのは戦い方を見ればすぐに分かる!攻撃魔法を使えるなら使ってみるがいい!」
「イッタハズダ。バカメト」
「あぐっ!......貴様、自分の体ごと」
土塊は抱き着くサラごと剣で串刺しにした。
「所詮は土。イタクナイ。それに、魔法封じ程度で魔法がツカエナイと思ったらオオマチガイ」
「あああああああ!」
土塊はサラに抱き着き放電した。
冬馬本人なら出ないであろう出力。エルフの魔法封じをいとも簡単に貫通しサラの体には高電圧の電流が走った。
「貴様には山ほど文句を言いたいんだ。ここで死ぬわけには......いか......な」
エルフと言えど人体構造は人と変わらない。魔法への抵抗は強いものの神の電圧には耐えられない。
「サラ......」
黒こげになった部下を見てルージュは人前で初めて涙を流した。
1000年を生きるルージュも仲間を失うのは悲しいらしい。
「無駄だ。この通り完全体となった。道化に勝ちたいならば、宝でも持ってくるんだな」
「その宝を攻撃してることに気づきなさいよ!」
「貴様らが宝?笑わせるな。防御一つとってもまともに出来ない貴様のどこが宝なんだ」
「怪盗ピエロはそんなこと言わないわよ!防御しか出来なくても!補助しか出来なくても!宝と言って大事にしてくれたわよ!」
「怒鳴るな。死に行く者の言葉など意味などないのだから」
「言い回しが似てるのが余計イラつく」
バァン!という音と共に土塊がはじけ飛んだ。
「叶恵ってピエロにそんな恨みある?」
「ええ、ピエロには前の世界でなんども煮え湯を飲まされ続けましたから少なからず恨みはありますが、アレはピエロではありません。ピエロは!なにも罪のない人を殺したりしません!海で助けられた時も!船上で助けられた時も!攻撃を受けてから攻撃をしています!面白半分で人を傷つけたりしません!」
叶恵の言い分は盗みという行為に目を瞑ればである。
冬馬が冒険者ギルドに頼らず叶恵達を養えたのは罪もない人からスリを働き、時に金品を盗んだからである。
そうでなければ、大食いとペット含む5人分の食事など用意出来ない。
「愚かな」
「何度もピエロに言われ続けました。バカだと。警察仲間の間でも抜けていると言われていますから。言われ慣れてます」
「ほら見ろ」
「ですが!ニセモノの貴方に言われたくありません。私の力ではピエロは倒せない。ですが!ニセモノの貴方なら倒せます!」
叶恵は銃を構え土塊を狙った。