第125話 決戦じゃ!
最前線へと戻って来たアシュ達は各々の武器を持ち戦闘態勢に入っていた。
「王女たちは固まって動け」
「今妾達が恐れているのは敵の神にルージュかエイミを吸収されることじゃ。相手は魔力の集合体。呑まれれば魔力の全てを吸収するだろう」
「自身を守りながらエイミの守護を最優先にしてください」
力の使い方を分かっていない叶恵を放置するのは爆弾処理未経験者が爆弾に近づく程度には危険である。
この戦いに勝つためには叶恵の死守が絶対条件。
更に敵の体力も削らなければいけないというハードワーク。
攻守という意味では冬馬の結界魔法は最適と言えた。
「さて、そろそろ神に登場してもらうころ合いだろう。いつまでも不透明じゃアイツも不満だろう」
「たしかエイミに強制実体させると言っていたがどうするのじゃ」
「この面を被れ」
そう言って宵闇が渡したのは冬馬がつけていたピエロ面。
「少し借りただけだ。これを被れば神本体が見えるはずだ。あとはその光景を頭に思い浮かべるだけでいい」
「わ、分かりました」
叶恵が恐る恐るピエロ面をつけると徐々に海の上にいる神に実体が現れ始めた。
神を形容するならばタコのような触手に幾重にも重なった歯。体表には鱗のようなものも確認できる。
紫色のそれは禍々しいという言葉が当てはまった。
「あれが神......随分と巨大じゃの」
「あれが神代では普通なのでしょうか」
「どうだろうな。ルージュの記憶にもないってことはかなり前だな。どうやって攻めるかな」
「まず地上に落とす必要があるのではないか。我も含め飛べる者は少なかろう」
「それではピエロが言っていた救済という条件には答えられませんよ」
「本人が今この場にいないんだ。多少の予定変更も視野に動く。兵士は疲れているだろうから休ませて俺達だけで叩くぞ」
宵闇が剣を構え来るであろう触手に備えた。
「来るぞ!」
無数に伸びる触手を王達が迎撃していく。
「そっちに行ったぞ!」
「任せるっすよ!」
パルが大剣で触手を叩き切るが迫る触手の数に対して処理が遅すぎる。
叶恵も剣で応戦してはいるがその恰好は剣に慣れていない一般兵。
それもそのはず、戦闘は冬馬がやっていたのだから。剣が間近に迫ったことも殺意を目の当たりにしたこともない。
刑事として厳しい訓練を積んではいる叶恵だがそれも死を前提に動いていない。
それに現代の警察の訓練は対人用であり対神用ではないのだ。
「ニューク!アイツらを援護しろ!」
「一介の泥棒が魔族の王たる妾に指図するとはいい度胸じゃの」
「言ってる場合か。大好きな王女が死ぬぞ」
「言われんでももう下がっている」
ニュークの援護も加わり少しなら耐久出来るだろうがそれもメアの防御が尽きるまで。
メアの防御が尽きたら叶恵は丸腰同然。
捕まるのは時間の問題と言えた。
「俺とバルトラは突っ込む。ルージュ、援護を頼む」
「分かりました」
宵闇は指示を飛ばすと腰のもう一本の剣を引き抜き飛び出していった。
目の前、頭上、背後から迫る触手をかいくぐりながら本体へと迫った。
「バルトラ!」
「おう!見切っている!」
2人が横に飛び退くと元居た場所には爪の跡が残されていた。
「本当に助けてって気持ちがあんのかアレは」
「ピエロが聞いたからそうなのだろう」
「本当か息子よ。噓だったらお父さん許さないぞ」
宵闇とバルトラは草原を駆け抜け森へと入った。
「っ!危な!おいおいなんの冗談だ」
宵闇の後ろの木は綺麗に真っ二つにされていた。
「今のは時空魔法か」
「時空魔法はあんな斬撃まではのみこめない。出来るとすれば結界魔法だけだ」
「流石神だ。古代の魔法を使うか」
「馬鹿言え、神がそんなまどろっこしい魔法なんて使うか。神からすれば結界魔法も劣化版だ」
「ではなぜ使う?」
「分かってんだよ。どうやったら俺達を混乱させるか。特に結界魔法は怪盗ピエロが使っていた魔法。死んだ奴が使っていた魔法を心が不安定な奴に使ってみろ。正常を乱しまともに戦えない」
「それこそまどろっこしいと思うが」
「神もまだ起き抜けで頭が回ってないだろうよ」
2人で話す間にも森の中を休むことなく突き進む。
その身のこなしは惚れ惚れするものだった。
木を盾に触手を躱したり邪魔な岩を己が拳で砕いたりと自然を最大限利用した回避方法。
「森を抜けたら時空魔法を出す。まだまだ走るぞ」
「戻らなくていいのか」
「戻ってもなにも出来ない。だったら本体に攻撃した方が俺達にあってないか」
「確かにな!そうと決まれば!獣王の一撃を与えよう!」
「頼む」
神との戦いを指揮していた冬馬がいないまま叶恵達は神との決戦へと突入した。
逃走という手段は意味を成さず、取れる選択肢は......戦うのみ。