第123話 怪盗ピエロ死す!デュエルスタンバイ!
1度盛大なネタバレというものをやってみたかった。
王城前では宵闇が消えたことで少々劣勢になっていた。
「ニューク。道化を強化しろ」
「無理は禁物じゃぞ」
「言われるまでもない」
だがなんのスキルも持たずゲートの能力一つで魔獣と渡り合うのは大分危険が生じる。
剣術は人並み、拳は論外。銃はあるがリロードに時間がかかる。
マイナスばかりの冬馬にも一つだけ能力がある。
結界魔法というリソースなしの無限魔法が。
「魔獣という最高に適した眷属を生み出してくれた神には感謝だ」
ゲートは今ままで時には移動として時には攻撃として使ってきた。
だが今回はどちらにしろ効果は薄い。
逃げれば後ろの兵士が餌食になり防御が崩れる。攻撃するにも手段が足りない。
ではどうするか。
「ゲートを一列に並べ、あとは待つだけだ」
ゲートを防御だと勘違いした魔獣達は次々にゲートへと突っ込んでいく。
出口は……ない。
魔獣達は結界魔法という空間に閉じ込められてしまったのだ。
「知能ある生物だとこうはいかないからな。助かる」
横並びに配置された10つのゲート。
冬馬が展開出来る全てのゲートを最前線に配置した。
「兵士諸君。死にたくなければ武器を持て。そして戦え。道化が手を貸すのは態勢を立て直すまでだ」
「ホース。私もなにか手伝えないだろうか」
「ここにいたのか、ティア」
「ああ、兵士の強化をしていた。まあ、私の強化など魔族の王に比べればないも同然だが」
「陸で動きにくいだろう。無理はするな」
車椅子状態では出来ることは限られる。
ティアは人魚であり陸では動けない。
これがこの場でどういう意味となるのか。
「魔獣が抜けて来たぞ!」
兵士の1人がそう叫んだ。
冬馬が迎撃しようと振り向いた時には、狼の爪は目の前まで迫っていた。
ガリっ!という音と共に冬馬の腹を爪が引き裂いた。
「まさか超えてくるとは。少し不用心過ぎたか」
冬馬の服は3つの線によって引き裂かれ、服の下隠した黒い鉄板のような物が見えていた。
まずこの世界に来る前に冬馬は叶恵から弾丸を受けている。
生身の人間が弾丸を受けてピンピンしてる訳はない。
叶恵から銃を没収してからは外していた防弾チョッキ。
冬馬の腹には防弾チョッキが仕込まれていた。
「ホース?無事なのか?」
「一応は.....ガブッ.....あ?傷は負ってないんだが」
防弾チョッキで防いたにも関わらず冬馬は口から盛大に吐血した。
冬馬の体を倦怠感が襲い、まともに立っていることすら出来なくなっていった。
「だから無事かと聞いたんだ!無事ではないではいか!」
「兵士!この場は任せた.....」
冬馬は倒れるようにしてティアと共にゲートへと入った。
出た先は本陣。
叶恵を初めとする冬馬のパーティが駆け寄ってきた。
「ちょっとどうしたのその血!」
「傷はない」
「外傷ではないということは魔法の類ですか?」
「いや、対象に触れずに傷つけるなんて高等魔法を魔獣が使えるとは思わないっすけど.....」
「呪いじゃな。ちょっと見せるのじゃ」
ニュークが触診をするとため息をついた。
「怪盗なら知っていると認識を誤ったようじゃな」
「どういうことですか?」
「相手は神じゃ。鬼神の末裔である妾ですらなにをしてくるのか想像がつかん。当然、魔獣を大量に送り込みそのうちの数体に呪いが付与されていることもな」
「つまりピエロは.....」
「死ぬ?」
「近いうちに」
アシュはあまりのショックに膝から崩れ落ちた。
「嘘だ。ピエロは死なないって言った!僕と一緒に生きてくれるって言った!ピエロは嘘つかない!そんなついてもしょうがないような嘘はつかない!」
「じゃが呪いは本物。かけたのがエルフあたりなら妾でも解呪出来るのじゃがな」
「触媒があれば神の呪いでも解けるはず」
普通の魔法には触媒は必要としない。
ただ特殊な場合にのみ使用される。
触媒を使う分、強い魔法を使えるが触媒の質が悪かったりした場合高確率で失敗するため使われなくなった技術。
「そうじゃな、だがこの状態で触媒なんてどこにあるのじゃ」
「僕の心臓を使って。魔族の心臓ならそれなりの質は保証出来る」
アシュは目に確固たる決意を持ってニュークを見た。
アシュが慕っていた冬馬ですらこの目を見たことは無いだろう。
当然反対の声も上がる。
「アシュさん!?自分がなに言ってるのか分かってるんすか!」
「ピエロがそんなこと許すわけないでしょ!」
自身のパーティメンバーが自分を犠牲にしようとすれば止めるのは当然と言える。
「ピエロは.....僕に生きる場所をくれた人、魔族である僕を守ってくれた人。その人が死んだら僕に生きる場所なんてない」
「そんなこと.....!」
「何言ってやがる」
冬馬は口から血を出しながらアシュを睨んだ。
その顔には道化の面はなく、金髪の女性の顔が露わになっていた。
「アシュの居場所はもうあるだろ。道化に頼らずとも生きていける」
「そんなこと.....」
「ある。なんのために駒だけで事足りるように盗んだと思っている。道化が居なくとも冒険が出来るようにだ。なにか欲しいものがあればメリーに言うといい。なんでも揃えてくれるだろう.....よ」
「ピエロ?.....ピエロ!嫌だ!1人にしないで!」
アシュの呼びかけも虚しく響くばかり。
冬馬の身体はピクリとも動かず静かなままだった。