第116話 王達の王都観光
王達による王都観光は賑やかの一言だった。
「サラ、ルージュの服掴んどけ」
「いや……そのだな……」
「サラ?私の楽しみを邪魔しますか?」
「いえ、普段我々をお守り頂いています。ので、ご存分に羽を伸ばしてください」
「丸め込まれてんじゃねぇよ」
いくら目上の人間だろうと注意するところはしないと暴走させるだけである。
目の前にいるルージュは歳の割に子供のようにはしゃいでいる。
見るもの全てに目を輝かせ放っておいたらフラフラとどこかに行ってしまうほどにはテンションが上がっている。
「ガハハ!楽しいな!」
「やかましいの間違いだろ」
「姫様がここまで楽しそうにしているのは初めて見る」
「ホース。あれはなんだ。見たことないが」
「あれは、蝙蝠の羽焼きだ」
「生物なのか?」
「そうだな。少し硬いが歯応えは抜群だ」
「ならアレも買いましょう」
ルージュは既に自身の手では持ちきれないほど買い物をしている。
ルージュの小さな体では到底持てる量ではない。
ならば、誰が持つか。
「バルトラ、文句があるなら言えよ。応援するから」
「なに!力仕事しか能がないのでな!役割があって満足だ!」
「さいで。バルトラがいいなら道化からはない」
ルージュの手には人数分の羽が持たれており、全員に行き渡った。
「少し話いいかい」」
「ティアの車椅子押しながらでよければ」
「構わない。そろそろ僕にも説明してもらいたい。毎度急に呼び出されるからね。準備が必要ならしておくよ」
「道化達は神を殺そうとしている」
冬馬の言葉を聞いてオスカーは納得したような顔をした。
「やはりね。僕の想定を大幅に超えてきたよ」
「超えることは想定内と」
「ああ、君がメアを連れ去ってなにも要求したり王都から離れている所を見ると玉座には然程興味がないのだろうと思っていたよ。でも君が急に魔族との友好関係構築を行った。側から見れば違和感丸出しさ」
「オスカーには知らせておくべきだったか。民衆には実際に見てもらった方が対処がしやすい。特に、王政国家ならば尚更」
「その辺のことは僕には荷が重いから任せるよ。僕はこの大剣を振ることしか能がないからね」
「いざとなったらメアくらいは守れるように準備しておけ。道化から伝えることは以上だ」
「……了解」
冬馬が視線を前に戻すと姫の対処にあたふたするエルフ騎士と鬼に振り回され疲労困憊の女王が目に入った。
「ニューク。メアから離れろ。ルージュはサラと手を繋げ。サラは自分の腕が伸びる範囲以上にルージュを移動させるな」
「なぜじゃ!」「なぜですか?」
「王都観光はただのオマケなんだよ。文句があるなら強制送還だ。お前達の所在権は道化にあることを忘れないように」
「……仕方がないの」「サラ。お願いしますね」
「姫様の自由を奪うことをお許しください」
渋々ながらも両者共に冬馬の指示に従った。否、従うしかないのだ。
ゲートがなければ王都に来ることはほぼ不可能。
魔都からならば数日で着くがその数日の間、自身の領地を空けることになる。
そんなの敵に襲ってきてくれと言っているのと同義である。
「やっと解放された……」
「本当なら家に帰したい所だがメアが居ないとただの頭のおかしい集団になってしまうのでな。我慢してくれ」
「いるだけなら構わないわ」
ニュークが指を咥えてメアを凝視するのを仮面の笑いで一蹴すると冬馬達は王都観光を続けた。
日が暮れる頃には冬馬は疲労を覚えていた。
暴走しそうになるエルフの姫を止めならが魔族の王とメアをかけて睨み合いが続いていたのだ。
ルージュの暴走阻止用に用意したサラも姫様相手では強く出れずにいた。
「お前ら……」
「いいじゃないか。私はこういう賑やかなのは嫌いじゃない」
「管理する道化の立場ならそう言ってられないだろうよ」
「そういうホースも笑っているではないか。私の位置からだと口元がギリギリ見えるのだよ」
「まあ、道化も例外なくこういう騒がしいのは旅に出てからだからまだ慣れてなくてな。ああいう楽しい奴を見ていると笑いが出てしまう」
「さっきから不満を口にしてはいるが嫌なわけではないのだろう?もし嫌だったらホースはやらないはずだ」
「ははは、お見通しか」
冬馬とて賑やかなのが嫌なわけじゃない。
ティアが言ったように本当に嫌だったら冬馬はやらない。
「まあ、なんでもいいが。他人に迷惑かけるな。道化からはそれだけだ」
「では、今から屋台巡りをしましょう?お昼から大分空きましたし」
「まだ食うのか」
「ええ、神霊というのは食べることで魔力を直に回復しますから。食べるのは大事です」
ルージュもまた、叶恵と同じで魔力によって周囲と遜色ない気配などを作成している。
叶恵の場合、溢れ出ないようにシープが食べているのだが。
「夕飯食べたら今夜は道化の家に泊まるといい。部屋は人数分用意出来ている」
「妾はメアと同じ部屋で寝るのじゃ!」
「部屋付きとはありがたい」
「オスカーも泊まって行け」
「管理すればいいかい?」
「ああ、頼む」
この修学旅行の学生より面倒な面子を冬馬1人で管理するのは骨が折れる。
冬馬とオスカー2人でもどこまで制御出来るか怪しい所。
『夜戦確定ルートおめでとう。陽キャに付き合うとこうなるんだよ』
耳元の辛辣な言葉が冬馬の肩を重くしていった。