第115話 王達でゴリ押しするというパワーワード
家に戻りメアを回収した冬馬はイザベラの服屋へと向かった。
「ニューク」
「なんじゃ」
「ニュークは着替えるな。正装のままだ」
「なんでじゃ!妾もお洒落したいのじゃ!」
「予定が変わったんだ。今、メアと王都デートした所で民衆の賛同は得られない。それよりも疑念が湧く」
「妾が説明しろと?」
「ああ、ひとしきり説明し終わったら王全員で王都観光でもすればいい」
曖昧にしながら誤魔化すよりハッキリとやってないというのはやはり大事なのである。
「それはメアと一緒かや?」
「ああ、一緒だ」
「ならばよかろう。望むところじゃ!」
「頼もしい」
他の王達には後で来るように伝えた冬馬は広場の処刑台を表に出した。
それにより少しばかり民衆の目が集まった。
「聞くがよい!妾は魔族の王!ニュークである!此度は人間と魔族との友好関係構築のために参上した!」
声高らかに宣言するのはいいが目的忘れてないよな......高圧的な態度からどうやって謝罪に移るというのか。
もし現代でやったら火にガソリンをかけた並の勢いでよく燃える。
「と言いたい所じゃが、此度は謝罪が主な目的じゃ。恐らく、王族ウェルの死亡は民衆にも伝わっているだろう。犯人は魔族、それも妾の部下の仕業じゃ。それは承知の上でここに立っている。言い訳になるのは分かっている。だが言わせてほしい、妾が知ったのは既に事件が起こったあとじゃったと」
「知らなかったで済ませるつもりかよ」
民衆から飛んできた男の声。
当然の疑問ではありその声には怒りが含まれていた。
その一言が起爆剤となり罵声が飛び交った。
「ふざけるな!ウェル様を返せ!」「謝って済むと思ってんのか!」「お前が変わりに死ね!」
人数いれば暴言のバリエーションも増えるというもの。
投げられる罵詈雑言にニュークは歯を食いしばって耐えた。本来なら威嚇で黙らせられる人間の言葉に耳を傾けた。
「女王はどう思ってるんだ」
聞き覚えのある女の声にニュークとメアは一斉に同じ方を向いた。
金髪に青目という日本人離れした見た目の女性。
冬馬の変装した姿だった。
冬馬の不敵な笑みにメアは一歩踏み出すと口を開いた。
「女王メアは、魔族の王ニュークを許したわ」
その一言で場がざわついた。
「正気か?そいつは女王の兄を殺した魔族だぞ」
「ええ、正気よ。じゃあ聞くけど、今ニュークを責めたり殺したりした所でお兄様が帰ってくるの?もし帰ってくるならそうしたと思う。騒いでもお兄様は二度と帰ってはこないしニュークに謝る意思があるならこれからは手を取り合って王国を豊かにしようって思ったの」
それはメアの真なる願いだった。
許せる罪なら許してしまおうという器の大きな女王へと成長していた。
もっと言うなら、女王だからと特別扱いをしない冬馬の側にいたために器を大きくするしかなかったという方が適切ではある。
「寛大な女王様だ。肉親である女王陛下が許したのならこちらとしてはなにもない。あ、でも言いたいことがあるなら今の内だと思うぞ」
冬馬が助長してみても民衆から罵詈雑言が飛ぶことはなかった。
流石にメアが許した相手の悪口を言える強者はいなかったようだ。
一度黙ってしまえば文句があったとしても言いづらくなってしまうという面倒な集団心理。
だが後々不満が爆発するのはなんとしても防ぎたい。
ならば不満を完全に潰せばいい。
「騒ぎが起きていると思って来てみれば、お久しぶりですね。ニューク」
「なんだなんだ!演説か!声のデカさなら我が一番だぞ!」
出て来たのは上は腹出し、下は裾から生足が見えるロングスカート姿のルージュとスーツのズボンにワイシャツを着たサラリーマン姿のバルトラだった。
それぞれの王達によってゴリ押しさせてもらう。
正直、一人一人の不満を潰している暇はない。神の顕現はすぐそこまで迫っている。
「本当にあれでいいのか」
「いいんだ。少なくとも神が消えるまでは」
「人間の暴動は怖いぞ、王族だろうとなんだろうと徹底的に滅ぼしにかかるからな」
「そうなったら死んでもらう。もしかしたら人間が絶滅するかもしれないな」
「笑いごとではないだろ」
「相変わらず、やかましいのう」
「楽しいではないですか」
「用が終わったのなら王都観光をしようじゃないか!折角女王陛下もいることだしな!」
車椅子に乗ったティアと話しながら冬馬は処刑台の上で楽しそうに談笑するメア達を見守っていた。
演説を終え、王達は王都観光に移った。
オスカーとサラも後ろで控え、かなり豪勢な面子となった。
「私の場違い感が凄いのだが、本当に一緒にいていいのか」
「いいんだ。どうせ王族なんて血筋でしかない。それに、ティアはレイアから許可を貰って来ている。なにも問題はない」
「そうか。ならいいんだ。今話せるはのホースだけなんだから離れないでくれ」
「そうしたいのは山々なんだがな」
冬馬の目の前では久しぶりの王都にテンション上がりっぱなしの神霊が一人とメアとのデートを満喫する鬼の姿があった。
「お前ら落ち着け。あまり騒ぐな。いくらでさえあのまま王都に来てるってのに」
「私は落ち着いていますよ?」
「両手に食べ物持ってなんなら頬になにかつけてる奴が言うな。んでそこの鬼。あまり騒ぐと魔都に帰すぞ」
「大人しくするからそれはやめてたも」
「可愛くない鬼だな」
王達の王都観光はまだまだ続く。