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第114話 師匠を軽々と越えてみせる弟子

家に帰った冬馬をメリーが迎えた。


「おかえり。ご主人様」

「ああ、ただいま。悪いな、連れて来たのにまともにかまってやれなくて」

「えっと。大丈夫」

「そうか。今から盗みの技術を教える。いいか」

「うん」


冬馬とメリーは大通りに移動した。

盗みをするためには盗む対象が必要である。

熟達するためには、なにも知らない人から盗むことが一番効率よく覚えられる。


「よし、誰のなんでもいい。こっそり盗んでくるんだ。もし取れたらその場で喜ぶんじゃなくて、道化のもとに帰ってからだ」

「わかったました。行ってくるます」

「敬語はまた練習しような」

「うん」


極論を言えば、「はい」か「いいえ」を言うことが出来れば会話は出来る。

勿論極論のため、かなり難しい。

語り掛ける人がそれなりの語彙力がないと成立しないし「はい」か「いいえ」しか言わない奴に付き合うほど優しくなければいけない。

会話というのは誰しもが出来るものでもないのだ。


こっそりと通行人に近づくと懐に手を差し入れ、財布を抜き取った。

この間、わずか2秒と経たない時間である。


『一発成功とか有り得る?盗みに極振りでもした?』

「落ち着け。おそらく、俺の技術を盗んだんだ。アシュの財布を盗み返した時にな」

『あの一回、一瞬でとか化物じゃん。成長したら勇者にでもなるんじゃない?』

「なるかもな。それこそ最強の宵闇にすら勝てるかもしれん」


メリーの将来を想像している間にメリーがいくつも財布を持って帰って来た。


「あの一瞬で覚えたのか」

「なんか出来た」

『しかも「あれ?また俺なにかやっちゃいました?」系じゃん。自覚無いタイプだよ。末恐ろしい子だよ』

「もし成長したら道化のよき駒になってくれることだろう」

「凄い?」

「ああ、正直期待以上だ。よくやった」


冬馬がメリーの頭を撫でるとメリーは頭に擦り寄った。


「怒らないんだな。いつもなら無言でハウリングするのに」

『性別不明だから別に。男かもしれないし』

「男の娘か。変装が楽そうでいいな」

「これどうするの?」

「それはメリーのものだ。自分で盗んだものは自分のものだ」

「自分のもの......お金こんなに」

「ただこれだけは覚えて置け」


メリーは冬馬の顔を見上げた。


「欲張ってはダメだ。もう一回盗みたいって思うくらいに抑えておくんだ。あまりやりすぎると死ぬ」


勿論結果的にはではあるが、メリーの体格、経験で欲張るのはまだ早い。

冬馬と同じ盗みの技術を手に入れることが出来れば、冬馬と共に世界の宝に挑むのもありだがまだ早い。

今は盗みの技術を自分の物にする方が先。

魔族ならではの盗み方を発見できればそれは完全にオリジナル。

冬馬では出来ない盗みも出来るかもしれないのだ。


「欲張らない。覚えたました」

「そうだ。自分なりの盗みを見つけろ。それが自由に生きる秘訣だ」

「分かった。やってみる」


メリーは気配遮断の魔法を自身に付与し気配を完全に断った。

冬馬も視認することが出来なくなり、八重の生体反応でないと追跡出来ない状況だった。


「これは......なにをしているんだ?」

『分からない。高速で動いてるだけに見えるけど』

「魔力探知がないとここまで不便なのか」


数分後、メリーは手ぶらで帰って来た。


「失敗したか?」

「ううん。これから」


メリーが腕を引くと釣り針に引っかかった魚のように財布という財布がひっぱり出された。

あくまで気がするだけで実際には見えていない。


「なにをした」

「秘密」

「そうか。それでいい。主人だからと自らの手の内を晒す必要はない」


おそらく、すれ違った人全員の財布に気配遮断を付与し糸かなんにかを結び付けそれ引っ張った。

気配遮断を付与された物は一時的ではあるが視界から消える。認識が出来なくなるのだ。

勿論、実在はしているため触れることは出来る。

人通りが多い大通りでどうやって人に当てずに財布を回収したかは不明のまま、メリーのみ知るところとなった。


「今日はここまで。これからは好きに動いてもいいが、さっき言ったことは忘れるな」

「欲張らない」

「そうだ。それでいい」

『さて、目的を果たそうか』

「そうだな」


冬馬は通りすがりの人のポケットから財布をスると財布の持ち主に声をかけた。


「すまない。これを落としたが貴方のではないか?」

「え、ああそうだ。助かったよ」

「その代わりといってはなんだが少し聞きたいことがある」

「なんだ」

「他の奴から聞いたんだが、獣王やエルフの女王様が来てるそうじゃないか。その中に魔族の王もいたらしいぞ」


するとどうだろう。眉間にシワがよっていくじゃありゃせんか。


「女王さまはなに考えてるんだろうかね。ウェル様が殺されたってのに。騎士団の発表じゃ女王さま本人が狙われたそうじゃないか。危機管理がなってないよな。ここだけの話」

「それは思う。ま、あくまで噂話だがな」

「もし本当なら女王陛下を問い詰めたいところだね。ま、財布ありがとうな」


通りすがりの通行人は去っていった。


「ご主人様?手柄じゃないの?」

「今のは別の目的のために盗んだだけだ。盗みの成果は金だけじゃない。情報や人、関係だって構築することが出来る。関係の構築はそれなりの下調べが必要だが、情報や人はその場で獲得することが可能だ」

「覚えた」

「どっかのお花畑刑事と違って理解が早くてたすかる」


冬馬が知りたかったのはメアとニュークが一緒に居てどう思われるかだ。

もしなんとも思われてないなら普通通りに観光してもらうつもりだったが、急遽変更となった。


「作戦変更。メアとニュークをあの処刑台で喋らせる」

『処す?処す?』

「残念ながら処すのはまだまだ先になりそうだ。あくまで説明する機会が必要になったというだけの話」

『バルトラとか人形女とか痴女はどうするの』


痴女はティアのことで、人形女はルージュのことだろう。多分。


「さくらとして働いてもらう」

『がっつり不正じゃん』

「盗みをしておいて今更不正が怖いものか。怖いのは反旗を翻した人間の集団だ」


今この場で、暴動を起こすのはなにも生まない無益な戦い。

人間側にも魔族側にも得はない。


「忙しくなるな」

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