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第108話 解釈によっては『死人に口なし的なバイオレンス神』になる

水中都市に置き去りにしていた叶恵とパルを回収した冬馬は一旦家に帰った。


「あ、帰って来た」

「一旦帰っただけだ。また出かける」

「また?連れていけないの?」

「叶恵以外は留守番だ」

「分かったすよ。待ってますんでちゃんと帰って来たくださいね」

「その前に!この子どうするの。一応お風呂に入れて服はアシュのを着せたけど」

「それも帰ってからだ。それまでは言葉を教えてやれ。会話が出来ないようでは文字通り話にならない」

「分かった。メアがいるからその辺は安心」

「ふふん。王族の英才教育を施してあげるわ」


そこは腐っても女王。

しっかりとした教育は受けているようだ。

だが受けている本人があれじゃあな......。


「叶恵。行くぞ」

「行くってどこに」

「行けば分かる」


冬馬が飛んだ先は法が厳しく法王が統治する宗教国家、法国。

法国の南端に位置するこの街は法国の首都的な役割を果たす。


「なぜ私を?」

「顔が見える奴がいた方が怪しまれずに済む」

『本当は見せつけるために連れて来たんでしょ。神を信仰する人達と対等に話すために』


勿論だとも。

神の言う事しか聞かない人達と話をするにも叶恵の存在は必須。

なぜなら神の言う事しか聞かないから」


「法王の元へ行く」

「ピエロはなぜそんなに急いでいるんですか?」

「急いでなんかいない。ただこんな狭い国からはとっとと出たいだけだ」

「でも普段なら私を置いてけぼりにして一人で行きますよね」

「文句があるなら家に帰すぞ」

「いえいえ、一緒に行けるなら安心ですから。文句はありません、ただの疑問です」


もし神を信仰する人々とまともに話しが出来るなら冬馬だって叶恵を連れて来たりしなかった。

叶恵を横抱きにすると冬馬はゲートを使い城に忍び来んだ。

王国や獣国の王城といえば西洋風の石レンガ造りの城だったが法国の王城の外観はまるで聖堂。

フランスのノートルダム大聖堂のような建物の前にはローブを来た人が多く見える。

むしろ、叶恵のような一般的な衣服を着ている人の割合の方が少ないほど。


『頭のおかしい宗教団体じゃん。神様は祈ってもなにもしてくれないのに』

「頭がおかしいとか言ってやるな。信者だってそれなりに善行を積んでのことだ。それなりに幸福を受ける権利はあるだろ」

「ピエロは善行を積みましたか?」

「例え積んだとしても怪盗をやっている時点で帳消しだろ」


帳消しどころか悪の方が強いというダークサイド主人公。


『こっからどうするの。なんか祈ってる最中だけど』

「ド真ん中に降りる。口閉じとけよ。舌噛むぞ」


天井の梁から冬馬は壇上へと飛び降りた。

叶恵を下ろしている最中に住民の一人がぼそりとつぶやいた。


「悪魔......悪魔だ」


それは恐怖かの言葉かそれとも黒い外套を羽織る冬馬がそう見えただけなのか。

恐怖は人から人へと感染していきついには混乱を招いた。


「面倒な」

「ピエロなにを!」


冬馬は弾丸を一発頭上へと発砲した。


「聞け。法王はどこだ」

「神様......」


恐怖に怯えた人々に冬馬の声は届いていない。


「武器をお収めくだされ」


背後から声が聞こえ振り返ると数人お付き人と共に一人の老人が出て来た。

髪の毛は完全に白髪と化し杖をつき付き人がいなければまともに歩くことすら出来ない老人。

杖から見える手には無数の皺が刻まれおりそれだけで凄みが分かるほどだった。


「儂が法王のレジレスです。こんな老いぼれ故、貴方様に抵抗はしません。どうか武器をお収めくだされ」

「ふむ。法王自ら登場とは。殺されるかもしれないのに」

「ピエロ!」

「冗談だ。今法王に死なれると困るんだ」

「おお、神よ......このような老いぼれになんと御厚い慈愛だろうか......エイミ神よ」

「やはり見抜いたか」


流石法王。見ただけで叶恵をエイミの依り代だと見抜いた。


「なぜいきなりおこしになられたのです」

「落ち着いて聞け。王国と獣国と法国。この3か国の間の海上空に謎の魔力の結集が見られた。原因、理由ともに不明。だがルージュとの考察により良くないことが起こるとの結論へと至った」

「儂らはなにをすれば」

「神を信仰するのを即刻止めろ」

「ピエロ!それはいくらなんでも急ではないですか!酷すぎます!」

「仮に、魔力の結集から出てくるのが神だとしたらその力を強めるのは貴様ら法国の人間だ」


イメージが魔法として使われる世界。

祈りもイメージとすることと同じようなもの。

神が強く、万能であると考えられている以上、神には傷一つつけられない。


「儂らはか弱い人間。神のご加護なければ生きていけない人の集まりなのです」

「神のご加護?神が人間になにをした。勝手に生み落とし放任した挙句無茶な試練だけは寄越す神のなにがご加護だ。くだらない」

「ピエロ。言い過ぎです。私もまだ理解できてないので説明してください」

「さっき言った通りだ。海の上になにかが現れようとしている」

「それは聞きました」

「それ以上は長いから割愛だ。レジレス、妥協案を出そう。たしかに道化の都合で信仰を止めろというのは突発的過ぎた。這い出てくる者が消えるまでの間でいい。このエイミ神を信仰してはどうだろうか」


冬馬は横でアホ面をかます女刑事を指さした。


「普段なんの神を信仰しているのか知らないが、エイミ神だって立派な神。それも原初に近しい神。慈愛と静寂の神を信仰し続ければ慈愛が降るかもしれない。依り代という形ではあるが、この通り威厳の欠片もない。微笑めといえばこの通りなにも考えてない顔をして笑うだろう」

「最後悪口入ってませんでした?」

「悪口というなら慈愛と静寂の神の下りから皮肉を言っていた」


神を信仰するというのなら姿形が見えない神よりも、目の前にいて実際に触れ合える神の方が親近感は湧くだろう。


「どうだ。悪い話ではなかろう」

「ですが、この場にいる者には伝わりましたが他の者たちには......」

「ならば、このエイミ神を法国の神としてしまえばいい。新たなる神の顕現。これほどまでに幸福なことはないだろう」

「......それで皆が救われるなら儂は構わん」

「決まりだな」

「すぐに皆に伝えよ。使者様、エイミ様をお借りいたしたく存じます」

「いいだろう。だが、不遜な態度をとった奴には容赦なく神罰が下るだろう」

「承知しました」


ひと悶着あると思われた法国も無事説得完了した冬馬はへとへとの体で家へと帰った。


『今思えばさ、愛することで慈愛なんだったら静かになることが静寂なんだよね?』

「言葉の意味を考えればな」

『その静寂って、『全員殺して静かになった』から静寂ってことはないよね?』


そんな死人に口なし的なバイオレンスな神とか嫌だろ。

まあ、戦争止めたり都市を水中に沈める神だからなんも言い返せないけども。


「だとしたら依り代にする人間を間違えたな。大罪人相手に拳銃で1発しかも急所を外す撃ち方をする女を依り代にするなんて」

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