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第107話 癒しを用意して来る精神負担を軽減するという高等テクニック

冬馬がアシュの元へ戻るとアシュは近くのベンチで座っていた。


「遅かったね」

「少し遊んでいた」

「その子と?」

「ああ、こいつとだ。それとこれ」

「あ、僕のお財布」

「こいつが盗んだんだ」

「......ピエロも同じことしてる」


なんなら女王だったり宝だったりを盗む冬馬の方が世間からしたら害悪なのかもしれない。


「その子どうするの?」

「生き方を教える」

「駒を増やすの?」

「まさか。ある程度教えたらさよならだ」

「可哀そう」

「役目がない駒を持つ方が可哀そうだとかメアが言ってただろ」


だが気になるのはその教え方。

冬馬は怪盗であり教師ではない。ましてや司祭なんて高位な存在でもない。

教えられるのは盗み方。


「教える前に着替えだな。薄汚い」

「僕もこんな感じだった。ピエロに拾われなかったらこの子みたいになってた」

「そいつもアシュと同じだ。黒髪で髪の毛の中に角がある」

「本当だ。可愛い」

「と言ってもも身長アシュとそこまで変わらんだろうに」

「僕はお姉さんだよ?成長が遅いだけなんだよ?」

「分かったから目に光を戻せ。観光はあとだメアを回収して家に帰る」

「叶恵とパルは?」

「こいつを風呂にいれてからだ」

「了解」


冬馬がニュークの元に飛ぶと満足そうに頬すりするニュークと若干やせこけたメアがいた。


「遅い......じゃない」


いつもの遅いじゃない!にも元気がない。


「すまんな。色々あったんだ」

「それは分かったから帰りましょう。ここにいたら怖いわ」

「メア。妾はいつでも待ってるからの。いつでも訪ねてくるのじゃ」

「そ、そうね。またいつか来るわ」

「待ってるからのー!」


元気いっぱいに手を振ったニュークを見送ると冬馬は家に戻った。


「アシュとメアはこいつを風呂に入れろ。多分1人じゃ無理だ」

「それはいいけど......この子誰」

「分かんない。ピエロが拾ってきた」

「動物じゃないんだからね......ピエロっいるわけないわよね」


『忙し過ぎない?』

「仕方ないだろ。やれることはすべてやる。予測時間まであとどれくらいだ」

『あと早くて3ヶ月。遅くても半年以内には』

「足りるか。だが全ての主要都市の長には会っている。知らぬ間に全滅パターンは回避出来るな」

『頑張って。こっちでも情報をかき集めてるから』

「助かる」


冬馬が出て来たのは風都のルージュの部屋。


「すまん遅れた」

「いえいえ、私はいつでもこの部屋にいますから」

「なにをそんなに焦っているのだ」

「やはりそう見えるか」

「見える」

「ルージュはなにか分からないか」

「空に微弱な魔力が集まり始めていますね?」

「空中に魔力?一体なぜ?」


理由は不明。

冬馬が認識したのはつい最近。

八重からの疑問を受けて発覚した現象。


「さあな、道化も知覚したのは最近だ」

「それが焦る理由なのか?」

「仮説を立てて最悪の事態に備えているだけのこと」

「その仮説とは?」

「なにか不明な者の出現。経緯と理由は不明。空中から何かが出てこようとしている」

「そんなことが現実であるわけがない」

「そう高を括って現実に起こったらどうする。対処は出来ずただ相手が好き勝手に動くのを指くわえて待つしかないんだ。そんなこと道化はごめんだ」


冬馬は最悪の事態を想定しての行動を常にする。

自らに反抗する対象はなにがあらゆる方法で邪魔をするというなんとも意地悪な性格なのだ。


「ですが、魔力が集まり始めたのはかなり前ですよ?半年以上前です」

「半年以上前?道化達が来たのもそれくらいの時期だが.....」


冬馬は頭の中で仮説を立てた。

新たな異世界人の召喚。

なにか不明な者の出現。

偶発的な気象。


「半年前にも同じようなことがなかったか?」

「いいえ。ありませんでした」


この時点で新たな異世界人の召喚という確率は低くなった。

冬馬達がこの世界に来た時に観測されなかったのであれば今回も違うだろう。

残るはこの世界の何者かの出現と偶発的な気象。


「過去にこういう気象があったことは」

「ない。そもそも魔力は物に宿るものだ。空気中にもなくはないが自我はないし集まるんだとしたら人為的なものだ」

「そうか……」

「怪盗さん。なにか分かりましたか?」

「あまりよくないことがな」


異世界人でもなければ気象でもない。

そして人為的なものであり、この世界の住人の誰か。

空気中の魔力だけを集めるなんて常人ならやろうとも思わないだろう。

なんの目的があってなんの利益があってやっているのかは不明。

全てが不明なのだ。


「どうした。言えないのか」

「空気中の魔力を半年間ずっと集められるとしたら誰だ」

「そんな人はいません」


ルージュはきっぱりと言い切った。


「姫様の言う通り、半年間ずっと魔力を切らさずになんて不可能だ。それこそ神でもなければな」


神。

冬馬の身近となりつつあった存在であり現代でもこの世界でも存在、規格、定義が定まっていない存在。

もし仮に、神が空中から這い出ようとしているのであれば目的はなにか。

人類の消滅かはたまた繁栄していることに対する祝福か。


「まさか神が出るとでもいいたいのか」

「その可能性が極めて高い」

「目的はなんだ。特に世界は平和だぞ」

「その平和を乱す存在がいるだろ。1人」


人間の戦争を魔法一つでとめ、水上都市を水中都市として固定した静寂と慈愛の神という名の怪力神が。


「エイミ。一度死んだはずの神が姿を現した。それは人類をも脅かす存在……」

「その通り。仮に神が出てくるとすれば他に目的が考えられない」


冬馬は頭を悩ませた。

今までなら情報を集め相手の弱点で固めて戦ってきた。

だが今回は相手の情報がまったくの不明な状況。

冬馬が不得意とするその場での対応が求められる状況になってしまったのだ。


「敵の神が出てくると思ってくれ。場合によっては避難となるかもしれないから準備を頼む」

「分かりました。準備をしておきましょう」

「ほら、これが前に頼まれた杯だ。中の水は普通に飲める状態だったぞ」

「そうか。喉が乾いていたからありがたい」

「そんな豪勢な入れ物にいれて一体なんの水だ」


冬馬は杯の中の水を飲み干すと言った。


「なんてことないただの水だ。言っただろ、喉が渇いただけだと」

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