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第106話 必要不可欠な駒

「ピエロはなんで交流だとか人手を欲しがってるの?」

「別に人手が欲しいわけじゃない。ただ種族間の交流を円滑にしておかないといざという時に不便だろう?」

「そのいざという時が近いの?」

「そんなことはない。いつもの準備癖だ」


アシュはどこか納得していない顔をしていたが冬馬が言わないのならと諦めた。


「ピエロは僕たちのこと信頼してないんだよね」

「そうだな」

「どうやったら信頼してくれるの?」

「頑張ったらだ」

「明かす気ない?」

「明かしてどうする。道化が男だったら近寄らないのか?道化がオッサンだったら近寄らないのか」

「違う。正体を明かすことはピエロからすれば信頼しているという証。仲間と思ってもらえた証拠。僕たち、ピエロに仲間って言ってもらったことないから」


アシュは口調も声音も変えなかったが悲しんでいるのは冬馬にも分かった。

今まで仲間を作らなかった冬馬は『仲間』というものがどんなものなのか分からなくなっていた。

だから『駒』という便利な呼び方をして他人には説明する。


「アシュの言う仲間とはなんだ」

「苦楽を共にする人のこと」

「ならば道化とアシュ達は仲間ということになるな。だが信頼はしていない」

「ピエロならこういうと思った『関係に名前を付ける必要なんてない』って。ピエロは仲間が欲しいの?」

「どうだろうな。仲間なんて久しく作っていなかったからな。分からん」


仲間と駒の違いはなにかと聞かれたら素顔を知っているかどうかと冬馬は答えるだろうが、アシュは違う。

信頼されてるか、されてないか。捨てられる可能性があるかずっとそばにいられるかという死活問題にまで発展する。

冬馬の一言でアシュは戻る場所も帰る場所もない家無し子。

アシュは居場所を失うのを今なお恐れていた。


「ピエロ。もし僕より有能な補助役が現れたらどうする」

「前も聞いた気がするぞその質問」

「答えて」

「今更関係を教え込むのも面倒だからアシュのままでいい」

「本当に?僕より優秀なんだよ?いう事聞くし、しっかり服着れば恋人にも見えるような人だよ?」

「道化は別に恋人を作りたいわけじゃない。アシュは十分優秀だ。この優秀というのは4人との連携を取るうえでも優秀ということだ。どんだけ魔力量が多くてもどれだけ万能でも4人の連携を乱すことは許さない」


冬馬としても人数を増やすより一人でなんでも出来た方が管理が楽ではあるが、その分1人にかかる負荷が大きくなる。

それに冬馬がそばにいられず駒だけになる時の方が多い。そのため駒は2人以上と決めていたことでもあった。


「4人それぞれ役割を全うしていたらそのうち駒だとか仲間だとかはどうでもよくなる。アシュは道化に捨てられるのではないかと気にしているようだがそんなもの。気にするだけ無駄というもの。道化が今までに宝を手放したことがあったか」

「ないけど宝が持ちきれなくなったら捨てるでしょ?」

「確かに捨てるかもしれないが必要な宝は常に持つだろう」

「あ」


アシュはハッとなり口を押さえた。

アシュが見た限り冬馬が宝を諦めた事は一度たりともない。常人なら考えない女王の奪取まで行った強者なのだ。

手元がいっぱいだからとそう簡単に宝を手放すわけがないのだ。


「さらに言うなら。補助、攻撃、防御どれをとっても叶恵1人いれば事足りる。だがアレじゃまだ不安定だ。安定したからといってアシュ達を捨てれば精神が不安定になりまともに使えたもんじゃない。どのみちアシュ達は必要だ。仕事がなくなることはない。仕事がなくなる時は道化が死んだ時だ」


下手くそではあるが冬馬なりにアシュを励ましてはいたのだ。

伝わったのかどうなのかアシュは冬馬の腕に頭を寄せた。


「くっつくな歩きずらいから」

「少しだけ許して」


冬馬とアシュがいちゃこらしていると路地から出て来た子供とぶつかった。


「ごめんね?」

「だ、大丈夫」


フードを目深にかぶった子供が立ち去ろうとしたとき冬馬が声をかけた。


「止まれ。子供だからと言って見過ごしてもらえるとでも思ったか」

「......っ!」


子供は冬馬の静止を無視して走りだした。


「強化する?」

「頼む。思ったより早い」


魔族が集まる場所では魔法の補助なしでは子供にすら追いつけない悲しさ。

八重のナビゲートをもとに後を追うと着いたのは街の路地裏にあるボロボロの家屋跡。

到底綺麗とは言えず埃が舞い、ゴミが散乱する道がいい匂いなはずはなく悪臭が立ち込めていた。


「はぁ......はぁ......ごほっけほっ!」

「ここが盗人の家か!」

「なっ!」

「動くな。怪盗の駒から物を盗むとはいい度胸だ。一瞬にして楽にしてやろう」


冬馬が拳銃を突きつけるとフードがとれ黒髪から見える小さな角が見えた。


「人間!人間!殺す!死ね!」


罵倒しているつもりなのだろうが、単語単語で勢いがなく目には涙が浮かんでいた。


「道化たち人間のせいでこの状況になったと言いたいわけだ」

「殺す!死ね!去れ!失せろ!」

「くっそ力が強い。ま、盗り返すものは盗り返した。じゃあな」


冬馬は子供からアシュの財布を盗り返すとその場を去ろうとした。

が、子供がそれを見逃すはずもない。

飛び起きた子供に足を掴まれ身動きが取れない状態に。


『なに遊んでるの。撃ち殺せばいいじゃん』

「そうも考えたんだがな。周りの成分を見てみろ」

『ん......うわ。見事に可燃性のガスがある。でも少しだから大爆発はしないと思うけど」

「可燃性ガスがある時点で火気厳禁だろ。銃は使わない」

『じゃあどうするの』

「こうする」


冬馬は子供ごと空中へ移動すると足場をけした。するとどうだろう。


「死ぬ!死ぬ!死ぬうううう!」

「楽しかろう?どうせあのままあそこにいても肺がやられてるんじゃ生きていけないだろう」

「やだ!死ぬやだ!」

「なぜだ。あんな場所にいても明日にでも死ぬぞ」

「やだやだ!」

「なら息を止めろ」


子供が口を手で押さえたのを確認すると冬馬は水中都市へと飛んだ。

水中都市は水の中。冬馬は水中適当を付与されているが子供は去れていない。

ただそのまま地上に戻れば冬馬も子供も落下の衝撃でバラバラになる。

速度を落とすのは水の上ではなく水の中に入るしかないのだ。


「げほっ!ごほっ!殺される」

「殺すならあのまま水面に投げてる。生きたいのなら強さを手に入れろ。淘汰されないための強さだ。なんでもいい。単純な腕力、頑丈さ、早さ、魔族なら魔力という選択肢もある。

「無理!出来ない出来ない!無理!」

「無理と決めつけるなら大人しく死ね」


冬馬が去ろうとすると今度は腰辺りにびちょっとした感覚が。


「教えろ!教えろ!寄越せ!寄越せ!」

「知恵ってのは与えられるもんじゃなく奪うものだってことを教えてやる。怪盗という大罪人になりたいならついてくるがいい」


冬馬がゲートを潜ると子供は呆然とゲートの前に座り込むだけだった。

だがその口は笑っていて目も希望に満ちていた。

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