第105話 女王メアを墓地に送り、召喚冬馬自身の自由
八重からの警告により冬馬はアシュを小脇に抱えると全力で距離を取った。
その瞬間に、扉が砕け散り火の玉が飛んできた。
「随分と手荒い歓迎だな」
「妾の嫁をどこにやった」
聞こえて来たのは幼き声。到底震えるほどの重圧を生み出せるとは思えないほどのシルエット。
「妾のお嫁さんをどこにやったのじゃ!」
半ば涙目で駄々を捏ねる鬼。
「お前が魔族の代表?」
「そうじゃ。それよりも!メアはなぜ来ぬのだ!なぜ使いだけ寄越してメア自身は来ないのだ!」
「それと扉を爆散させた理由に関係が」
「メア以外が妾の寝室に入ることは許さぬ。使用人すら入れてはおらぬ」
見えて来たぞ。
さてはおめぇ、馬鹿だな。
ルイに頼んで誘拐しようとしたのもメアを愛するが故。
『ここに来て色物キャラは迷走感半端ない』
「言ってやるな」
「なぜだ!なぜ来ぬのだ!メアは魔族歓迎と聞いたぞ!」
「ああ、歓迎だとも。道化たちは話をしに来たんだ」
「なぜ貴様のような不審者と!」
「メアに会えると言ったらどうする」
「話だけは聞こうではないか」
やだこの子。滅茶苦茶扱いやすい。
イライラが治まったのか押しつぶすような圧力は消えていた。いや、見た目鬼童女でメア大好きが発覚した故の安堵から感じなくなっている可能性もある。
「妾の名はニューク・ナイト。夜を統べる王なり!」
「怪盗ピエロ。世界を飛び回る怪盗だ」
お互いの挨拶も済ませた所で冬馬は部屋の前に椅子を置き座った。
「因みにいつから魔族の王としている」
「さあな。昔過ぎて忘れてしもうたわ」
「エルフの女王、ルージュについては」
「知っている。可愛い子よのう」
「このアシュはどう思う」
「食べたい。性的な意味で」
なるほどこれは本当に馬鹿だ。
基礎的な知識はあれど心の声が駄々洩れで本能に原点回帰しようとしている。
「話というのはなんなのだ。妾は忙しいのだ」
「詳しい話はまたメアを交えてやろうと思うが、人間に協力する気はないか」
「ないと言えば噓になるが......追い出したのは人間どもの方ではないか」
「ああ、だがそれは前代の話だ。人間というのは魔族からすれば短命でな。50年に一度世代交代をしなければならないのだ。今代のメアはわずか16という若い歳でこの国を治めている」
「16歳......食べごろかもう少し熟してから......ん゛ん゛!確かに世代が変われば考えも変わるがまたメアの時代が終わればまた嫌悪がされるかもしれない。人間からすれば生きてるうちに一度政治が変わるだけだろうが妾達魔族は違う。生きてるうちに何度も寄り添い迫害される。民を振り回すのは嫌なのじゃ」
確かに寿命が違うなら感じ方も違うのは理解出来る。
それによって気分を害したりする。
「だが物流がないと不便であろう?普段はどうやって生活している」
「人間以外の種族との物々交換が主じゃ。魔族は決して腐った種族ではない。媚ないしへつらいもしない。それが不満なら魔族との外交は不可能じゃ」
「いやいや、女王メアが望むのは魔族との対等な交流。よは友達になりたいという可愛い発想なんだ。本人に確認したから問題はない」
「それは真か?もし噓だったら六大地獄を100回周回してもらうぞ?」
『これが本当の地獄周回プレイ』
そんなおぞましい周回したくない。
時給5万でもやらない。終わるころには寿命で死ぬし。
「本当だとも。ほら」
「あて!ピエロ!一言声かけなさいよね!」
「すまんすまん。それはそうと早く防御をした方がいいぞ」
「え?うごっ!」
メアを後ろから襲ったのは幼女鬼。幼女といって侮ることなかれ鬼の力は常人のそれではない。
全力握手をすれば人間の骨など豆腐のように砕かれてしまう。
「メアあああああ!メア!メア!いい匂いじゃ!そして柔らかいのじゃ!」
「ちょっとピエロこの子誰!」
「魔都の代表だ。魔族だ。お前のことが好きだ」
「ちょっと脳死で単語投げるの止めて!もっと説明して」
「身を守れ」
「メア頑張って。成功すれば魔族との距離感縮まるよ」
「ちょっと!置いてくき!?」
「終わった頃に迎えに来る。街を少し見て回るだけだ。それじゃあ、ニュークよ。道化からの手土産だ。失礼ながら手ぶらで来てしまったのでな」
「よいよい。これ以上ない手土産じゃ。なにもない所じゃがゆっくりして行ってくれ」
「お言葉に甘えて」
冬馬は部屋の中にメアを残し街へと出て行った。