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第104話 口論や情報での殴り合いなら冬馬の右に出る者はいない

「もういいか。道化にはやることがある」

「また置いてけぼり?」

「いや、アシュだけは来てもらうことになる。予定はあるか」

「ない」

「ならばすぐにでも行こう」


冬馬がゲートに潜ろうとしたときに後ろから外套を引っ張られた。

振り向くと眉間に皺よ寄せたメアがいた。


「ちょっと!なんでアシュだけなのよ!アタシ達も連れて行きなさいよ」

「今回に限りそれは出来ない。今回は道化も調査できていない未開の地。魔都だ。メアを攫おうとルイが襲撃してきた理由とその頭に文句を言いに行こうと思ってな」

「その文句というのは言葉ではなく?」

「パル特製の弾丸だ」

「......魔都っていうなら待ってるけど......しっかり戻ってきなさいよね......」

『定番ツンデレとか時代遅れだから』


女には厳しい妹。

定番でも異端でもツンデレはそれなりの需要があるんだよ。

ツン弱め、デレ強めだったらやられてもイラっとはこないし。


「道化が今までに死んだことがあったか。負けたことがあったか」

「ないけど......」

「ならば安心して待っていろ。すぐに戻る」


冬馬はメアの頭を撫でるとそのままゲートへと入って行った。

外界からのアクセスをシャットダウンしている未開の地。八重の技術をもってしても地形、集落の数など一般的な事が調べることが出来なかった。

故に完全初見で冬馬は魔都に足を踏み入れた。


やせ細った大地には草すら茂ことを許されず川なんて生命の源はない。


「随分と寂しい場所だな」

「魔都は王からあふれる魔力で寂しい大地になる。魔族は一個体でも魔力が強いから」

「ふむ。魔都の領主はやはり魔王なのか?」

「伝承における魔王とは違うけど代表としていることが多いよ」

「なら目と目があって即バトルってのはないわけか」

「それは代表次第だけど」


確かに、目と目が合ってなくとも背後から短剣で攻撃する鬼がいる世界なのだ。盗賊の真似事で襲ってくる魔族もいるかもしれない。


「魔都は僕の庭。案内は任せてほしい」

『クソババアが。でしゃばるな』

「ああ、頼んだ」

『敵の情報は八重しかできないもんね。へっ!」


マウントの取り合いは終わりましたか。


カラカラの大地を歩いていると冬馬の歩みが急に止まった。


「どうしたの?」

「これ以上先に進めないんだ」


冬馬の目の前には見えない壁がありペチペチと触ることは出来るが視覚は出来ない状態。


「見えない壁?」

「大方結界かなにかだろうが。残念、道化には通じない」


冬馬は結界に穴をあけるとすんなりと通り抜けた。


「通り抜けてみれば。立派な街だな」

『街というより集落の集まりみたい。大半の魔族はここで生活してる』

「なら魔族に変装でもするかね」

「意味ないと思う。魔族は魔力を感知できる。違和感があればすぐにバレる」

「ならこのままで。変装すると武装を一時的に解除することになるから助かる」


一時的と言っても外套を脱ぐその瞬間だけの話だ。


「どうするの?今のままじゃ入り口で止められる」

「無策で来るほど道化は馬鹿ではない」

「止まれ。なぜ魔族以外の者がここにいる」

「少し特殊な方法で入らせてもらった。王国からの使者だとここの代表に伝えてはもらえないだろうか」

「今更王国が何用だ」

「さあな。それは女王に聞いてくれ。今回は挨拶をしに来ただけだ。これからの発展と協力の話だとは聞いているが」

「噓をつけ!」

「噓かどうか決めるのは貴様ではない。ここの代表だ。それとも魔族というのは貴様のような下っ端でも種族間の交渉を阻む権限でも持っているのか」


冬馬は向けられる槍を無視して喋り続けた。

寸止めされた槍は冬馬の目の前まで迫っている。もしもう一度突き出されれば仮面ごと額に槍の先端が刺さってしまう距離。


「それとも貴様1人の意見で王国からの永久追放、またはそれに準じる対抗をしてもいいというんだな。貴様の一存で」


心理戦において『大事な事なので二回言いました』というのはかなり有効策なのだ。

相手が上司だろうよ同僚だろうと自分が今なにを言って、なにをしようとしてるのかをハッキリさせることが出来る上、論点ずらしも発見しやすい。

ただこの『大事な事なので二回言いました』は後輩や目下の人には効果が薄いという点では弱点である。


「確認を取る......そこから一歩も動かずに待っていろ」

「賢い防人で助かる」


情報や言葉での殴り合いで冬馬に勝てる者はいない。

しかも暴力などが容認されているこの世界では尚更。

気にくわないのなら斬ってしまえばいいじゃないというマリーアントワネットも真っ青の脳筋仕様。


「許可が下りた。入れ」

「どうもどうも」

「間違っても、我々魔族を支配できると思うなよ」


冬馬は仮面の中で不敵に笑った。


「支配?真の支配というのは気づかぬうちに終わっているものだ。安心したまえ、道化が望むのは対等な関係、魔族にしかできないことも多々あるのでな。協力していこうという話だ。それじゃあ」

「ピエロずるい、メアがいるからって言いたい放題」

「近い将来そうなるんだから構わんだろうよ。メアも魔族との公開交流に前向きだし」


冬馬が屋敷の中に入ると圧強くなったのが肌で分かる。

魔力感知が出来るアシュは恐怖かなにか冬馬に掴まり震えている。


「外で待ってるか」

「うんん。ピエロと一緒じゃなきゃ不安」

『クソロリババアが。猫なで声出してんじゃねぇぞ』


肌から伝わる気配より耳元の妹の殺気の方が強い件について。

屋敷の中には使用人らしき人物も見え噓の事情を説明すると家主への元へと案内してくれた。

扉の前に立つ頃には冬馬も震えを隠しきれてはいなかった。

それほどの重圧が扉の奥から漂ってくる。


『熱源反応!後ろに飛んで!』


冬馬は八重の警告を聞いて全力で距離を取った。

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