第102話 検証は必要なことなんだよ
世界的大怪盗、犬神冬馬を罠にかけるべく叶恵達は試行錯誤していた。
「時空魔法で逃げられたら意味がないから物理的に拘束しちゃいましょうか」
「どうやって?そもそも、その拘束すら逃げられる可能性すらある」
「手錠から逃げるんですから無理ですよ」
日本警察の手錠というのは錠をする警察官によって穴の大きさというのは調整できる。
冬馬は手を後ろ手に手錠をされた挙句鎖でグルグル巻きにされアサルトライフルなど武装した特殊部隊を前に姿を消した記録がある。
脱出経路もどうやって拘束を解き姿を消したかなど全てが不明。
そんな相手を魔法があるとはいえ、自分たちの力で捕まえられるとは叶恵は思っていなかった。
「大丈夫。アシュとかパルがしがみつけば力づくでは逃げないでしょうしその間に叶恵が魔法の鎖で拘束すればいいわ。獣国で叶恵、鎖に掴まったでしょ?アレの真似をすればピエロでも簡単には逃げられないわ」
「拘束した後はどうするっすか?」
「女だと証明する。つまり、変装を解く」
日本警察が特殊部隊を投入しても成し得なかったことをメア達はやろうとしているのだ。
無謀にもほどがある。
「そもそも、アタシ達はピエロ自身が集めた精鋭よ?力を合わせれば怪盗の一人くらい捕まえられるわよ」
「それもそうですね」
叶恵はこの世界に来てより楽観的な考えを強めていた。
「ご主人を捕まえるのはアシュさんで拘束は叶恵さんで......メアさんはなにをするっすか?」
「アタシ?勿論、指揮と頭を使うのよ。あとは拘束したあとのまさぐりもやるけど」
「ホースが時空魔法の使い手なのはクラーケンとの戦闘で知っているが、いつどこから出てくるのか分からないのではないか?」
「そうね。でもアシュなら可能。魔族の魔力感知をもってすれば対策がされてない時空魔法の出入り口くらい見抜けるわよ」
「魔族というのは素晴らしいな。時空魔法の出入り口さえわかれば負けることはないだろうな」
「そうもいかないのがピエロなんですよ。私も今まで何度逃げられたか分かりません」
「怪盗を名乗るだけあって逃走はお手の物か。確かに行動が制限される水中であれほどの速度で泳がれては捕まえるだけで一苦労だな」
模擬戦と海獣戦を見れば冬馬の速さは異常ということだけは分かる。
もし初手の拘束に失敗すれば警戒され二度と冬馬を捕まえることは出来ないだろう。
「一回やってみましょうか。ぶっつけ本番じゃ流石に無理でしょうし。ピエロと身長が近いパルがピエロ役でアタシ達で拘束するから抜け出してみて」
「分かったっすよ......」
パルが扉から入るとまずアシュが腕に組みついた。
「ピエロ。どこに行ってたの?」
「えっと......さ、さあな。少し野暮用があっただけだ」
「また勝手にいなくなって!いなくなる時は一言言いなさいって言ったわよね!」
「悪いな。すっかり忘れていた」
アシュがパルを解放した瞬間にパルを鎖が絡みついた。
「アシュはパルを強化。パルは全力で引きちぎるなりして脱出を試みて」
「分かった」「了解っす」
ドワーフの怪力に魔族の強化をもってしても鎖は全く壊れる気配はない。
高密度の魔力による鎖は通常の鎖より強固となる。
それが神の魔力ならそれを破壊できるのは同じく神のみ。
大怪盗ピエロを拘束するには神の力を使うしかないのだ。
「どう?脱出できそう?」
「無理っすね。壊れないしこれ以上伸びないとなれば脱出は不可能かと」
「そう。よかったわ」
「あの解いてもらっても?」
「え?なにを言っているの?まだどうやって変装を破るかの検証が残ってるでしょう?」
「男ならこんな大きな胸はないはず。偽物」
「ち、違うっすよ!おかしいっすよ!叶恵さん!助けて!」
叶恵には助けるパルだが鎖維持のために集中している叶恵に聞こえることは無かった。
「あっ......アシュさん!そこは......っう」
「あら?立ってきたようね。偽物のはずなのにおかしいの......締まってるわね......細いくせになんでこんな胸あるのよ......」
「不公平」
「なんのことっすか!ちょっと私怨混ざってませんか!?」
「なんのこと?今アタシ達は検証をしているの。ほら、ピエロも言ってたでしょ?『ぶっつけ本番が心配なら検証をしてみるといい』って」
「確かに言ってましたが!こういう意味じゃないと思うっすよ!」
「抵抗しなければ痛くない痛くない」
目から光が消えたメアとアシュがパルにじりじりと近づく。
涙目になりながら抵抗するが鎖の強度は健在でパルの力だけでは身動き一つ取れない。
「いやあああああああ!」
カフェということも忘れてメアとアシュはパルの体をまさぐった。
胸を揉み、ほっぺを引っ張り、内太ももに指を這わせた。
その度にパルは甘い声をだしとても男性がこの場にいることが出来る空気ではなかった。
いるのは髭をはやしたマスターだけ。
マスターは百合百合しい光景をコップを磨きながら悟りを開いたような顔で見守っていた。
「おかしいわね......なにかしらの絡繰りがあると思ったんだけど......」
「この胸は自然生成?」
「そ、そうっすよ......ドワーフなのに大きいので昔からよく「牛」ってからかわれたっすよ」
パルは力なく答えた。
ドワーフは基本小柄で女性でもここまで発育することは稀である。
だがそれは昔も昔、王国建国当初の情報である。
種族間の婚姻が可能となった今は他の種族の遺伝子により容姿が変化したりする。
それでもパルのように高身長で大きな胸を持つのは珍しいのだが。
「足りないけど仕方ないわね。ピエロが帰って来たら同じ方法を試すわよ」
「らじゃー!」
「叶恵さん......解いて欲しいっすよ」
「え、あ。ごめんなさい。まだ魔法を使うには集中が必要なんです」
「1つ聞いてもいいか?」
「なんでしょう」
「ホースを捕まえて正体を暴くのは理解出来るが......練習でここまでする必要があるのか?」
「あるに決まってるじゃない」
「大きさの秘密を暴くために必要なこと。必要なら絶対にやるべき」
力説する持たざる者たち。
その目に光はなくただティアの胸を注視するだけだった。
「叶恵、ピエロが水種族に変装してきた場合もやりましょうか」
「賛成ー」
「え、ちょ!やめろおおおおおお!」
カフェから違う系統の叫び声が聞こえたあと声はすぐに甘い声に変った。