第9話 オスカー・クラディウス
パァン!という乾いた音が部屋中に響き女王の青髪が揺れる。
「メア様……」
「いいわ、貴女は下がってて」
メアは赤くなった頬に手を置きながら近寄ってきたメイドを下がらせた。
「メア、貴女はもうこの国の女王なのです。いつまでも子供気分では困ります」
「アタシは嫌だと言ったはずです」
「それでもウェル亡き今、王国の未来を作ることが出来るのはメアしかいないのです。もし政治をするのが嫌なのであればクラディウス伯爵のご子息と身を固めることです」
「嫌です。アタシは政略結婚なんてしませんから」
ベットに座る母親、リーネをメアはキツく睨んだ。
「それが子供の発言だと言うのです。女王の立場の人間が平民と結婚するなんて有り得てはいけません。メアが産んだ子が王国の未来を継ぐのです。有望な子でなければ国の王は務まりません」
「お母様がお兄様を遠征にさえ出さなければ……お兄様は亡くならずに済んだのに!……アタシ、オスカーと会う約束があるのでこれで失礼します」
「メア……」
大股で出て行くメアをメイドがお辞儀をした後に出ていった。
「陛下。よろしいのですか。上皇様の言いつけをお守りにならなくて」
「いいの。今の女王はアタシ。お母様の助言は大事だけど実際に政治をするのはアタシだから、全てアタシが決める。だから、アタシが困った時は助けてね」
「かしこまりました。わたくし共でよければお使いください。わたくし達メイドは女王陛下の駒でございます」
メイドは深々とお辞儀するとメアは満足そうに微笑んだ。
メアが歩き出すとそのまま玄関へと向かった。
「オスカー様がご到着されました」
「予定通りで真面目な人ね」
城の正門がギギギという音と共に開き赤髪の青年が帽子を前にしお辞儀をした。
「お目にかかり恐悦至極、女王陛下におかれましてもお元気そうでなによりです」
「それ以上言うと怒るから」
「ははは。怒った顔もかわいいよ」
オスカーは頭を上げるとにっこりと笑った。
(ジョーカー、オスカー・クラディウスのことを調べておいてくれ)
『了解』
「メア、右頬が赤いようだけどどうしたんだい?」
「ちょっと転んで......」
「そうかい。気をつけなければいけないよ。メアは女王の前に女の子なんだから」
「冷たい」
「仕方ないだろう?僕は氷魔法しか使えないんだから」
「氷を溶かして水で濡らすという考えはないのかしら」
「氷と水は似てるようで全く違う魔法なんだよ」
「そう。魔法なんて興味ないから覚えてないわ」
「陛下、オスカー様。お部屋をご準備しておりますのでどうぞご歓談はそちらで」
「ああ、行かせてもらうよ。では、女王陛下お手を」
「あら、男らしいこと」
メアはオスカーの手を取ると応接室へと向かった。
「失礼します」
「ありがとう」
メイドが紅茶を出すとオスカーは紅茶を啜った。
「さて、本題に入っても?」
「ええ、いいわ」
「メアは魔族の王都通行を許可しようとしているらしいけど、僕は反対だよ」
「どうして?」
「ウェル様のことがあった後なんだ。危険すぎる。それに、もし魔族の被害があるとしたら最初に被害者は街の人達なんだ」
「それは......」
メアもそれは重々承知していること。知っているから強引に政策を施行したりしないのだ。
メアの兄、ウェルは魔族によって殺されたと報告された。道すがら魔族の奇襲に会い命を落としたと。
「それは分かってる。でも、魔族だけ王都に入れないというのは納得がいかないの」
「実際に王族が襲われてるんだ。いくらなんでも危険すぎる」
オスカーの言うことはごもっともで兄のウェルが狙われた時点でメアも危ないのだ。
魔族の王都通行を許可した瞬間に魔族が来るかもしれないのだ。
オスカーはメアをそんな危ない目に合わせたくはないのだ。
「どうするかはメア次第だけど、ウェル様を殺した魔族が捕まるまでは魔族を閉め出すべきだと思うよ」
「ありがとう。幼馴染の助言として頭の隅に置いておくわ」
「どうして魔族にこだわるんだい?」
「オスカー。罪を犯したことはある?」
「え?あるわけないよ。あったらこうしてメアとは話せないよ」
「それと同じよ」
「?」
オスカーはメアの言っている意味が分からずに首を傾げた。
「人間にも善人と悪人がいる。なら、魔族にも善人と悪人がいると思うの」
「そういう考え方もあるね」
「悪人が入れないのはアタシもいいと思ってる。でも、善の魔族まで弾圧されるのは嫌なの」
それがメアの本心だった。
「魔族と分かり合うのはまだ先だよ」
「アタシが女王であるうちに魔族と和解出来れば最高ね」
「そういう考えが安全で物事を焦らずに運べると思うよ」
オスカーとの談笑は日が沈むまで行われた。
最初こそ二人とも険しい顔をしていたが話題が変わるとすぐに笑顔が戻った。
幼馴染というだけあり、オスカーはメアをからかいメアはそれを受け顔を赤らめた。
『ほんとリア充死ねよ』
(八重さん。なにその口の利き方はお下品よ)
『目の前で伝統的なイチャツキを見せられたら誰だってキレる。あの二人付き合ってないんでしょう?』
(付き合ってはないみたいだな。反応から察するに)
『魔法で殲滅出来ない?現代の非リアを応援すると思って』
(現代の非リアのために駒を失いたくはない)
『お兄ちゃんのケチ』
ケチとかいう問題じゃないんだよ。
王城で魔法なんてぶっぱしたら異世界生活終わるなり。
『そうだ。バレたやつを殺して誤魔化すなり』
誤魔化せてなんだよな。被害広がってるんだよな。
(今はおとなしくしてるのが道化の責務だ)
『分かった。殺せすなら言って。盛大に喜ぶから』
楽しい妹だ。言ってること物騒だけど。
「それじゃあメア。僕はこれでお暇するよ」
「ええ、楽しかったわ」
「花婿候補だからね。まあ、メアが楽しんでくれたらそれでいいよ」
『イケメン~』
メアがオスカーと別れるとメアは自室へと戻った。
「ねえ、魔族との和解は無理だと思う?」
「いえ......そのようなことはないかと」
「建前じゃなくて本心で話して」
「......そうですね......今のままでは難しいかもしれません。陛下が魔族をどう思っていようと街の人たちは憎んでいます。そんな中で魔族と王都に入れた所でトラブルが増えるのは火を見るよりも明らかと」
「そうよね......」
メアはドレスを脱ぐとベットに身を投げた。
(あの怪盗ならなにか知恵があるかしら)
王族しかしらない抜け道を先回りし女王と知っても手を出さなかった怪盗ならなにか知恵をくれる気がした。
それに怪盗は時空魔法の使い手。あらゆる魔法の上位互換と言われ対魔法魔法と言われる時空魔法。使いこなすにはそうとうな知識量が必要な魔法を怪盗は軽々と使って見せた。
それほどの知識があるなら打開策があるかもしれない。
「探して欲しい人がいるの」
「誰でしょうか?」
「白黒の道化の面をした人よ」
メアはピエロに会うことを決めた。




